ニュースリリース 2003年

養豚事業における社内調査結果に関してのご報告

2003年12月14日
日本ハム株式会社
広報部

 

このほど弊社の社内自主調査により、傘下の養豚事業部門のグループ会社で、法令に抵触すると思われる行為が過去にあったことが判明いたしましたので、その内容と再発防止策等について以下の通りご報告いたします。
昨年来、日本ハム全グループを上げてコンプライアンスの徹底に取り組んでまいりましたが、このような問題が生じ、誠に申し訳ございません。
本件につきまして、お客様やお取引先様ならびに関係各位に多大なご迷惑をお掛けいたしますことを、深くお詫び申し上げます。

1. 社内調査により判明した事実について
(1) 国内で承認されていない動物用ワクチン使用の件
弊社傘下のグループ会社・道南薬品株式会社(当時、現・日本バイオラボ株式会社、本社:北海道山越郡、当社100%出資子会社)は、平成10年2月から平成14年2月までの間(1農場に対してのみ上記期間に加えて平成14年12月の1カ月間)、「豚繁殖・呼吸障害症候群(以下PRRS)」といわれる病気を予防するために、アメリカおよびカナダでは承認されていますが、国内では承認されていない動物用ワクチンを業者から購入し、これを弊社傘下の養豚事業グループ会社・日本スワイン農場株式会社(本社:青森県上北郡、当社100%出資子会社)に販売していました。日本スワイン農場株式会社は、PRRSを予防する目的でこれを飼育する親豚に使用していました。以上の行為は薬事法に抵触する可能性があると判断いたしました。
平成7年7月以降、日本スワイン農場株式会社の事業所がある知床、東北、九州の各地域の家畜保健衛生所の検査結果において、当該地域はPRRSが陽性との報告がありました。その報告にもとづき、社員である獣医師が適切と判断した医薬品の投与及び飼育環境の改善等の対策を実施しましたが、豚(子豚)の死亡が減少しない状況が続いていました。そうした中、当該ワクチンを試したところ効果が認められたため、アメリカで活用されていた衛生管理手法、肥育管理手法を獣医師が参考にして、豚の生命を優先させ健康な豚を育成するため、当該ワクチンを使用しました。
また、平成10年9月に国内で承認、同年12月に発売された「豚胸膜肺炎」といわれる病気を予防する動物用ワクチンに関して、国内で承認される前の平成9年12月から平成10年11月までの間、上記と同様の行為が行われていたことが判明いたしましたことをあわせてご報告いたします。
(2) 自家動物用ワクチンの製造及びグループ会社への販売の件(概要)
道南薬品株式会社(当時)は、平成7年から平成15年7月までの間、日本スワイン農場株式会社が飼育する豚の免疫力を高める目的で自家動物用ワクチンを製造し、日本スワイン農場株式会社へ販売していました。自家動物用ワクチンの製造及び投与は、獣医師による病気の予防行為の一部であり問題はないとの認識のもと、北海道地区の農場で実施していましたが、別法人である道南薬品株式会社(当時)が製造し、日本スワイン農場株式会社へ販売した行為は、薬事法及び薬剤師法に抵触する可能性があると判断いたしました。
   
2. 当該豚肉の安全性について
当該の豚肉につきましては、下記の理由から人間の健康に影響はありません。
(1) 動物用ワクチンは、生体の免疫力を高め感染を予防するための、安全で有効な手段です。ワクチンは他の薬剤のように残留したり、薬剤耐性菌が出現するものではありません。
(2) PRRS予防目的の動物用ワクチンにつきましては、アメリカ、カナダで承認され広く使用されています。またその豚肉は日本に輸入され、消費されております。
(3) PRRS予防目的の動物用ワクチンにつきましては、親豚に投与し、親豚の抗体を子豚に移行抗体として獲得させ、哺乳期を無事に過ごさせるために使用したものです。子豚の成長に伴い、およそ60日~100日でその移行抗体も消滅します。
(4) 自家動物用ワクチンは病原菌を死滅させたものですから、投与した豚が病気を発症することはありません。
(5) 国内で生産している豚肉は、厚生労働省所管の食肉衛生検査所での全頭検査が義務付けられ、検査に合格したもののみが流通しています。
(6) ご報告した疾病に関しましては豚特有の病気であり、人間に感染するものではありません。
   
3. 実施した社内調査の概要
今回の件につきましては、平成15年11月上旬に従業員から社外相談窓口に相談がありました。コンプライアンス経営を推進している弊社といたしましては極めて重大なことと受け止め、ただちに管理本部長を責任者とし、品質保証部、監査部を中心とする社内調査チームを立ち上げ、関係者からヒアリング等の調査を実施しました。さらに調査内容に万全を期すために第三者による調査も必要と考え、弁護士に調査を依頼し、今回のご報告となりました。なお、監督官庁である農林水産省には、本年12月18日に、調査結果の第一報をご報告いたしました。また、同12月19日には、食品衛生法等を所管する厚生労働省にご報告いたしました。

社内調査の概要は以下の通りです
(1) 調査チーム 日本ハム株式会社管理本部長(責任者)、同 コンプライアンス推進本部長、同 品質保証部長、同 監査部長、同 人事部長、同 食肉事業本部管理統括室長
(2) 調査期間 平成15年11月11日~12月21日
(3) 調査対象者 日本スワイン農場株式会社の役員(旧職含む)及び社員
道南薬品株式会社(当時)の役員(旧職含む)及び社員
日本ハム株式会社関連部門の社員
(4) 調査内容 上記対象者からのヒアリング
関係帳簿類の分析検討
(5) 調査協力事務所 八重洲総合法律事務所
   
4. 関係者の処分について
関係者の処分につきましては、以下の通りです。
(1) 本件に関わる関係者(13名)の処分(平成15年12月24日付)
役職([ ]内は現職) 内 容
日本スワイン農場(株)取締役生産事業本部長 兼 道南薬品(株)取締役 [日本ハム(株)食肉事業本部] 現職について諭旨解雇(当時職は2003年11月にすでに退任)
日本スワイン農場(株)取締役道南生産部長 兼 道南薬品(株) 取締役 [日本スワイン農場(株)取締役道南事業所長] 減俸 10% 6ヶ月間
道南薬品(株)薬剤師並びに獣医師(2名) 管理職から一般職に降格
日本スワイン農場(株)生産部担当部長並びに農場長(9名) 減給
(2) 日本ハム株式会社担当役員(2名)の処分(平成15年12月24日付)
役 員 内 容
取締役専務執行役員食肉事業本部長 取締役常務執行役員に降格(食肉事業本部長職を解き、同副本部長)
執行役員食肉事業本部国内食肉事業部長 減俸 30% 3ヶ月間
(国内食肉事業部長職を解き、社長付)
   
5. 再発防止策について
今回ご報告の件に関し、法令の認識不足を深く反省し、以下の再発防止策を実施いたします。
(1) 平成16年1月末を持ちまして、日本バイオラボ株式会社(旧・道南薬品株式会社)を閉鎖いたします。
(2) 日本ハムグループの国内産牛肉においてはすでに実施しております履歴管理(トレサビリティ)を、日本ハムグループが国内で生産する豚肉、鶏肉についても平成16年1月から実施いたします。(平成16年4月より、インターネットで飼料給与履歴、投薬履歴を含む情報開示を実施いたします)
また、食肉処理部門を受け持つ関係会社においては、「SQF2000」(食品の安全・品質保証システムで、第三者機関の認証制度)の取得に取り組んでおりますが、国内の豚、鶏の生産部門を受け持つ関係会社においても「SQF1000」(第一次生産者を特定して設計されたHACCPを基本とする供給者保証規程)を平成16年度中に取得いたします。
(3) コンプライアンス体制の確立及びその徹底について、以下のことを実施いたします。
  1)緊急法令点検の実施<br> 全グループ会社の経営者が責任を持って、各社ごとに法令順守に関し問題が無かったか、特に営業許認可、資格、届出等を最重点として、平成16年1月中に調査します。それをふまえ、同年3月末までに問題点の解決を図ります。
  2)全グループ会社への周知徹底
  A) 各グループ会社ごとに、コンプライアンス委員会を平成16年1月中に設立します。
  B) 各グループ会社ごとの事業特性に応じた、個別の行動マニュアルを作成し、平成16年3月までの間に末端まで徹底いたします。
  3) 全グループ会社において、外部コンサルタントの支援を受け、平成16年度末までに以下の作業を完了させます。
  A) 法令順守に関し、現場の業務に沿った教育と、周知・徹底を行います。
  B) 法令違反を犯さない倫理的マインドの醸成を行います。
  C) 業務手順を相互チェック機能が働くものに変更します。

以上につきまして、お客様はじめ関係者の方々にご迷惑をおかけしたことを、深く反省しております。全グループ従業員一同、お客様に安心してお召し上がりいただける商品をお届けすることを今一度肝に銘じ、コンプライアンス体制の強化と従業員の意識啓発を、グループ一丸となってあらためて推進して参ります。


参考資料
1)PRRS「豚繁殖・呼吸障害症候群」とは
母豚がPRRSを発症した場合には流産、早産、死産が多くなったり、分娩率が著しく低下します。また子豚(哺乳豚、離乳豚)が発症した場合には、激しい呼吸器症状をもたらし、肺炎による成長不良、衰弱死に至ります。1987(昭和62)年に米国で初めて確認された疾病で、アメリカからカナダ、ドイツ、西ヨーロッパと急激に蔓延し、1990(平成2)年以降に世界各国に広がりました。日本では1993(平成5)年以後、全国的に流行しました。
なお、PRRSは豚特有の疾病であり、人間に感染することはありません。

2)ワクチンについて
ワクチンは、インフルエンザ、日本脳炎、胃腸炎、肺炎などウイルスや細菌の感染による疾病を予防するべく、体内に免疫をつけるために、人、動物に接種されるものです。1796年にイギリスの医師ジェンナーが天然痘の予防のために、牛痘を用いて自分の子供に種痘を行ったのがワクチン接種=予防接種の始まりです。
人体、動物といった生体には、病気を起こすウイルス、細菌が侵入した場合、その侵入に対抗する免疫といわれる体を守るシステムが働きます。
ワクチンは、ウイルス、細菌など、異物である「抗原」に、生体内の白血球の一種が作る「抗体」(免疫グロブリンというたんぱく質)を付着させることにより、異物を体外に排除し発症を防止するはたらき「抗原抗体反応」を利用したものです。一度罹った病気の原因となったウイルス、細菌への免疫が体内に記憶されますから、同種のウイルス、細菌が再度侵入した場合には、即座に発症を防止することができます。ワクチン接種は、このような体の仕組みを利用して、病気を起こすウイルス、細菌に人為的に軽く罹らせ、あらかじめ体内に免疫力をつけておく生物製剤といわれる方法です。ワクチンは、抗生物質・抗菌剤といった薬剤の投与によって、原因となるウイルス・細菌を死滅させる方法ではなく、また薬剤に対する耐性菌を出現させるものではありません。ワクチン接種は免疫(抗体)ができることで、ワクチン自体は消滅してしまいます。したがって、投与から3~4ヵ月後の出荷時点においてはワクチンが体内に残留することはなく、豚肉を含め食肉にも残りませんので、食することで人間の健康に影響することはありません。
動物用ワクチンとして指定され、現在豚で応用されているワクチンには、14種類の疾病に対する物があり、感染による疾病の拡大を防止するために、家畜保健衛生所、獣医師の指導による衛生プログラムに基づいてワクチンの接種がされます。

(出典) 日経BP社日経バイオ最新用語辞典
東京化学同人「免疫学辞典」大沢 利昭(第2版)
月刊養豚界「やさしい免疫学・ワクチン講座」:種子野 啓(1998年)

3)食肉衛生検査所での全頭検査
日本で製造される全ての畜肉(牛、豚、馬、めん羊、山羊)は、と畜場法にもとづき、全国各地の食肉衛生検査所で、〈生体〉、〈解体時〉、〈枝肉〉の各段階で獣医師により検査されます。病気の疑いがあるものについてはさらに微生物学的、理化学的、病理学的検査をし、検査に合格したもののみが流通します。

※ニュースリリース掲載時点の情報となります。今後、変更となる場合もありますのでご了承ください。