Rotary 2025年 夏号
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す。まだ慣れるべき点が多いですね」(松野)。職場の規模が違えば、人間関係もまた違うようだ。「道東では誰もが顔見知りで、仕事が終わると外国人実習生も一緒にサッカーや焼き肉などでコミュニケーションをとっていました。道南でも一人ひとりに声をかけ、名前を覚えてもらうことから始めています」(松野)。松野の部署では新たな加工ラインに対応するため、時には終業時刻が遅くなる。そこで目下の目標は、従業員の負担を減らすための改善だという。道南工場へ着任したばかりだ。高校卒業後に自衛隊に入隊。1年ほどで転職を考え、地元の網走で働きたいと道東工場に就職した。計量・梱包を5年、品質管理と発送を3年経験し、その後はカットと整形を担当した。異動後はポーク二課課長を務めるが、新工場でのカット作業に戸惑いもある。「道東工場では作業成績を高めるのがやりがいで、スピードもそれなりのつもりでしたが、道南工場の処理能力は道東の2・5倍と圧倒的で、工程も設備も異なりま カット室に入って最初に感じたのは、「臭いがない!」という驚きだった。大型体育館を思わせる広い空間をLED光源がくまなく照らす。足下にはごみひとつなく、枝肉から製品までの流れが一目で見渡せる。一言で言うなら、非常に明るく清潔なのだ。肉の品質保持に最適な15度に保たれた空間で、100名ほどのスタッフがきびきびと手を動かしている。 2011年に道南工場に中途採用された堀は、10年間カットの経験を積み、内臓ラインや品質管理などを経て、と畜を担うポーク一課の課長を務める。前職が水産加工業だった堀は魚をさばいた経験があり、ナイフ一本で肉を扱う仕事に多少親しみも感じていたという。「たまたま募集を見つけ、迷わず応募した」という堀が入社後に驚いたのが、ニッポンハムグループというブランドの知名度だ。「入社前はグループ企業だとは知らなくて(笑)、入社後に初めて、日本フードパッカーが周知されているのを肌で感じました。身内も喜んでくれ、信頼ある企業に入れたことは本当にラッキーでした」(堀)。そんな彼の仕事の原動力は、家族の笑顔だ。「家族は当社のお肉のファン。買って帰ると娘たちが喜び、70代の義父も、普段食べない脂身が好物になりました。自分には見えないけれど、お客様の食卓にもこんな笑顔があったらうれしい」と堀は言う。日頃は課長として売り上げや歩留まりの数値目標達成を部下に求める立場だが、達成の瞬間、スタッフの弾ける笑顔を見るのは最高の気分だという。 一方、松野は2025年3月に ここでぜひ見たかったのが、日本で初めて導入された大分割装置をはじめとする大型設備だ。前工程室からレールフックで流れてくる枝肉が、次々に送り込まれる。「枝肉を前躯・中躯・後躯に自動で3分割する」と言葉にすれば簡単だが、実際には肉のサイズや骨格の個体差を一つひとつ見極めるため、従来は人の目が欠かせなかった。大分割装置はその「見極め」をディープラーニング(AI)を用いた画像処理で瞬時に行い、肋ろっこつ骨の間へ的確にナイフを入れて切断する。その処理能力は1時間あたり150頭。それが2台設置され、枝肉が2列に並んで流れていく。こうしたロボット化は省人化になるだけでなく、半身で40キロ近くある枝肉を扱う人の負担の軽減と事故防止にも役立っている。 3分割されたのち、モモとウデの部位は、コンベアで除骨ロボットへ送り込まれる。モモ肉は「ハムダス」、ウデ肉は「ワンダスミニ」。愛嬌のある名前に似合わず、人間の経験と技術を自動でやってのける凄腕マシンだ。道南工場では除骨ロボットの前工程で、目視確認と下処理を行い、カットの精度をさらに高めている。ロボットのスピードと手作業を組み合わせ、肉を丁寧に扱う様子がとても印象的だ。人の技とロボットの協働が肉を磨き上げるす。まだ慣れるべき点が多いですね」(松野)。職場の規模が違えば、人間関係もまた違うようだ。「道東では誰もが顔見知りで、仕事が終わると外国人実習生も一緒にサッカーや焼き肉などでコミュニケーションをとっていました。道南でも一人ひとりに声をかけ、名前を覚えてもらうことから始めています」(松野)。松野の部署では新たな加工ラインに対応するため、時には終業時刻が遅くなる。そこで目下の目標は、従業員の負担を減らすための改善だという。道南工場へ着任したばかりだ。高校卒業後に自衛隊に入隊。1年ほどで転職を考え、地元の網走で働きたいと道東工場に就職した。計量・梱包を5年、品質管理と発送を3年経験し、その後はカットと整形を担当した。異動後はポーク二課課長を務めるが、新工場でのカット作業に戸惑いもある。「道東工場では作業成績を高めるのがやりがいで、スピードもそれなりのつもりでしたが、道南工場の処理能力は道東の2・5倍と圧倒的で、工程も設備も異なりま カット室に入って最初に感じたのは、「臭いがない!」という驚きだった。大型体育館を思わせる広い空間をLED光源がくまなく照らす。足下にはごみひとつなく、枝肉から製品までの流れが一目で見渡せる。一言で言うなら、非常に明るく清潔なのだ。肉の品質保持に最適な15度に保たれた空間で、100名ほどのスタッフがきびきびと手を動かしている。 2011年に道南工場に中途採用された堀は、10年間カットの経験を積み、内臓ラインや品質管理などを経て、と畜を担うポーク一課の課長を務める。前職が水産加工業だった堀は魚をさばいた経験があり、ナイフ一本で肉を扱う仕事に多少親しみも感じていたという。「たまたま募集を見つけ、迷わず応募した」という堀が入社後に驚いたのが、ニッポンハムグループというブランドの知名度だ。「入社前はグループ企業だとは知らなくて(笑)、入社後に初めて、日本フードパッカーが周知されているのを肌で感じました。身内も喜んでくれ、信頼ある企業に入れたことは本当にラッキーでした」(堀)。そんな彼の仕事の原動力は、家族の笑顔だ。「家族は当社のお肉のファン。買って帰ると娘たちが喜び、70代の義父も、普段食べない脂身が好物になりました。自分には見えないけれど、お客様の食卓にもこんな笑顔があったらうれしい」と堀は言う。日頃は課長として売り上げや歩留まりの数値目標達成を部下に求める立場だが、達成の瞬間、スタッフの弾ける笑顔を見るのは最高の気分だという。 一方、松野は2025年3月に ここでぜひ見たかったのが、日本で初めて導入された大分割装置をはじめとする大型設備だ。前工程室からレールフックで流れてくる枝肉が、次々に送り込まれる。「枝肉を前躯・中躯・後躯に自動で3分割する」と言葉にすれば簡単だが、実際には肉のサイズや骨格の個体差を一つひとつ見極めるため、従来は人の目が欠かせなかった。大分割装置はその「見極め」をディープラーニング(AI)を用いた画像処理で瞬時に行い、肋ろっこつ骨の間へ的確にナイフを入れて切断する。その処理能力は1時間あたり150頭。それが2台設置され、枝肉が2列に並んで流れていく。こうしたロボット化は省人化になるだけでなく、半身で40キロ近くある枝肉を扱う人の負担の軽減と事故防止にも役立っている。 3分割されたのち、モモとウデの部位は、コンベアで除骨ロボットへ送り込まれる。モモ肉は「ハムダス」、ウデ肉は「ワンダスミニ」。愛嬌のある名前に似合わず、人間の経験と技術を自動でやってのける凄腕マシンだ。道南工場では除骨ロボットの前工程で、目視確認と下処理を行い、カットの精度をさらに高めている。ロボットのスピードと手作業を組み合わせ、肉を丁寧に扱う様子がとても印象的だ。おいしさをつくる喜びとやりがい人の技とロボットの協働が肉を磨き上げる2011年入社。道南工場にてカットを10年担当し、内臓処理や商品管理に携わり、現在に至る。2008年入社。道東工場で食肉の梱包・計量を5年経験したのち、商品管理に携わる。2025年3月に道南工場に異動。堀 慎也日本フードパッカー株式会社道南工場 ポーク部 ポーク一課 課長松野 翔太 日本フードパッカー株式会社道南工場 ポーク部 ポーク二課 課長まつの しょうたほりしんや16

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