力。松野は数値目標の達成力が高く、チームの弱い部分を補って育てるリーダー」(大畑)と信頼を寄せる。上級技術者ならではの的確な指導力、そして実際に手を添えやってみせる親身な姿勢が、現場スタッフの手技だけでなく日頃の姿勢にも少しずつ浸透している。手技の重要性について大畑は、自動化が進むほど、肉を見極めナイフを入れる基本技術の重要性は増すと考えている。「機械の調整ひとつにも、人間の技術力が求められています」(大畑)。 新工場竣工から1年余り、現場の人々は工程変更に伴う研修や調整といった実装化を経て、1日あたりの処理頭数を1500頭に近づけることを目指している。大畑率いる道南工場は今後、歩留まりや生産性の数値目標をしっかり管理しながら、未利用の内臓や毛などの商品提案にも注力する方針だ。 堀は日本ハムの新入社員研修の講師を務めた際、自身の意識が変わる経験をした。「お肉をおいしく磨くことは、グループ他社にはできない当社だけの使命。教える立場になって、その事実を改めて理解しました」(堀)。生いのち命の恵みをいただく食肉の仕事に携わる以上、少しも無駄なくお客様に届けたいと願う堀は、新商品提案にも挑戦していく。 松野にとって今後の挑戦は、手技というのが彼の思考だ。 高度なカッティング技術を持つ上級マイスターたちは、後に続く人へ何を、どのように伝えているのだろうか。道南工場のエントランスに掲げられたパネルには、マイスターたちの目標が明記されている。堀は、そこに「次世代の教育」と記した。「我々が受けた専門的教育を次世代に伝えることが、工場の今後につながる」と熱く語る。そのために、一人ひとりの適性を知り、タイミングを逃さずに段階的に課題を与えるよう心がけている。 一方、松野は各部位の構造の理解を軸に指導を行う。「例えば、整形の工程で余分な脂を削り取る際、ブロック全体にアプローチするのはNGです。さわらなくてよいポイントを見抜くには、肉の内部をイメージを持つことが重要。ですから、最初は商品化できないブロックを使い、断面を見せながら説明しています」(松野) 上級マイスターは指導的役割を担う一方で、現場の技術者でもある。彼らを支えるのは工場長の大畑貴志だ。道南工場へ赴任して3年目。2人について、「堀は仕事に高い意識を持ち、明るいキャラクターが魅の高みを追求することだ。「長年かけて一つを突き詰めた、手技の奥深さに惹かれます。そうした先輩たちの技術を貪欲に学んでいきたい」(松野)。プロ意識あふれる2人は、学ぶほどに次の目標を見据えている。そして全国に在籍する上級マイスターたちもまた、仕事を通して多くを学び、受け継いでいる。 現代の気候変動や国際情勢の絶え間ない変化は、私たちが当たり前のように享受してきた豊かな食にも影響を与え始めている。食肉業界においては「テクノロジーの進化を活用しつつ、技術と感性を備えた人財を育む」という志ある人々の挑戦が、健やかな食の未来を担っていくに違いない。て身に付くもの。やってみて教わっての繰り返し」(堀)だと語る。 「右モモと左ロースが得意」という松野は、多くの部位において経験を積んだオールラウンダーだ。毎年試験をクリアして、わずか3年で道東工場にて上級認定を手にした。きっかけは「他にやる人がいなかったから」(松野)と笑うが、それが結果的にマイスターの要件を満たすことにつながった。実技試験で重視したのは、スピードと歩留まりのバランスを考えながら、いかに傷のない良い肉に仕上げるかだ。「肉をより良い状態に仕上げるには、触れる回数が少ないほどいい。だから結果的にスピードが早くなる」(松野)グループの養鶏事業を担う日本ホワイトファーム(株)出身で日本フードパッカー(株)へ転籍後、川棚工場を経て3年前に道南工場の工場長に。「マイスターになるにはさまざまな部位をさばける能力が必要」と話す。❾後期育成のため後輩に除骨を指導する松野。 マイスターの資格を持つ人たちをパネルにし、工場内に飾られている。日本フードパッカー株式会社道南工場操業開始:1975年所在地:北海道二海郡八雲町立岩356番地従業員数:265名(2024年1月現在)全国6工場の中で北海道には道東と道南の2箇所所在。道南は2024年に設立された新工場で、AIの導入が進んでいる。自動化により処理能力が約40%向上し、年間処理頭数は旧工場の26万7,000頭から約36万7,500頭に。道内一貫体制を確立し、安定供給と地域畜産の発展に貢献。総力でおいしさを創る道南工場のチームリーダーたち大畑 貴志日本フードパッカー株式会社道南工場 工場長おおはたたかし❾Report・Text/深江 園子 Photo/(株)七彩工房 藤田 あい18
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