「肉によってもおいしい焼き加減は違います。もも肉はさっと焼く程度がよいですが、ランチセットで人気が高いカルビは脂が香ばしく焼き上がるとおいしいので、少し焦げるくらいがちょうどよいです。ここでも、焼き過ぎには要注意ですね」 表面に適度な焼き目がついて、適切に内部が温まっている状態がおいしい焼き肉だと分かっていても、肉食と肉の調理の歴史が浅い日本の庶民にとって、肉の種類や状態によって焼き方を変えるという芸当はまだ難しい。迷ったら、遠慮なく聞いてほしいと西村さんは言う。 焼肉レストラン「ぴゅあ」では、あえて特定の銘柄にこだわらず、全国のJAの産地から集めた国産牛肉を使用している。その日、どんな牛肉が使われているのかは店舗入口近くに「本日の産地情報」として部位、提供商品、個体識別番号が日本地図とともに掲示されている。最近では、焼き肉愛好家たちは自分好みの肉を探すために個体識別番号から産地を把握し、ブランドに頼らず好きな生産者を探し当てているというので、自分好みのおいしさを探す人には親切な提供だと言えるだろう。 おいしい焼き肉のためには産地など 今年のゴールデンウィークは「自宅で過ごす」世帯がもっとも多かったことが話題になった。実際に連休に入ると、ちょっと特別な食事、たとえば「おうち焼き肉」や「たこ焼きパーティー」などを家族や友達と楽しむ様子がSNSに多く投稿された。一方、自宅で焼き肉は間違いなく盛り上がるのだが、どうも店のようにうまく作れないという声も聞こえた。この不満を解消する方法を西村店長に聞くと「火力がどうしても違うので、まったく同じようにはいきませんが」と前置きしたうえで、コツを教えてくれた。「ホットプレートの電源やカセットコンロの火をつけてすぐではなく、しっかり温まってから肉を焼いてください。また、たくさん肉を入れすぎても温度が下がってしまうので、適量を心がけてください」 フライパンで一度に焼いて、早く調理を終わらせたいかもしれないが、お店の焼き肉に近づけて特別な「おうち焼き肉」にするには、肉が劣化しない時間を考えながら味付けして焼く必要があるそうだ。「焼く30分くらい前に肉を冷蔵庫から出し、常温に戻しておきます。ごま油と市販のたれとこしょう、おろしにんにく少々で合わせ調味料を作り、そして焼く食材情報も重要だが、それをどう加工するかも同じくらい大事な要素だ。そのため、肉の専門業者として培ってきた技術を生かしたメニュー提供をしている。「たとえば関節に近い部位はよく動くので肉がかたくなりますが味がよいので、カット技術でかたさ調節をしています。肩バラも、隠し包丁を入れるなどして柔らかく仕上げ、カルビや上カルビをリーズナブルに提供しています」 店舗特製の、市販されていない独自のたれ「ぴゅあダレ」がある。約7年前、JA全農ミートフーズの本部にも在籍していた西村店長も開発に加わった。「それまでは、シンプルな調味料で牛肉を味わってもらうというメニュー構成でした。お店が始まって20年が経過し、この店へ行けばあの味が楽しめるというわかりやすいものを新たに作りたいと考え、たれの開発に着手しました。ワイン、砂糖、しょうゆなどを配合したレシピは今も変わっていません。導入後はリピーターが増え、売上も上がりました」 ぴゅあ店舗のテーブルにはほかに「秘伝のやみつき味噌」というたれがあり、こちらも人気が高い。「先に導入された後、ホルモンに合うたれとして岩手県のホルモン焼きを参考に独自開発したものです。ホルモン用ではありますが、ぴゅあダレと味噌ダレを混ぜて、他のお肉にも使っている人が多いですね」❶人気No.1の黒毛和牛カルビランチ ❷牛もも肉はおろしポン酢をつけて食べる方が多い ❸ぴゅあオリジナルの特製だれ、ぴゅあダレと秘伝のやみつき味噌❶❷❸お店独自の「焼き肉だれ」で売上アップ「焼き肉店」に近づけるおうち焼き肉のコツ焼肉レストラン ぴゅあ 神田店☎050-5269-4942東京都千代田区内神田1-7-8 大手町佐野ビル1F営業時間/ランチ11:30~14:00(L.O.13:30)、ディナー 17:00~22:00(L.O.フード21:00 ドリンク21:30) 定休日 土・日・祝直前に用意したボウルで肉と合わせます。そして、味付けしたらすぐに焼いてください。味付けしてすぐに肉の劣化は始まります。時間が経つほど肉汁が流出し続け、旨みが失われるのです」 家庭では週末の調理担当だという西村店長が、家族からのリクエストで焼き肉を作るときは必ずこの手順を徹底しているそうだ。「おうち焼き肉は、これから先、もっと需要が上がってくると思います。スーパーマーケットでもお肉は部位ごとに売られることが増えています」 JA全農が運営するEコマースサイト「JAタウン」も好調で、昨年の8月29日(焼き肉の日)に合わせてお肉のフェアを実施し、売上高は前年比130%になったという。 日本人が肉食文化に親しむようになって約150年、外食文化が食卓に広がって約50年。調理器具、調味料が拡充され、食べる私たちの知識と経験が積み重なり「おうち焼き肉」はさらに満足のいく結果を求めて発展していきそうだ。Report・Text/横森 綾 Photo/(株)七彩工房 藤田あい09「肉によってもおいしい焼き加減は違います。もも肉はさっと焼く程度がよいですが、ランチセットで人気が高いカルビは脂が香ばしく焼き上がるとおいしいので、少し焦げるくらいがちょうどよいです。ここでも、焼き過ぎには要注意ですね」 表面に適度な焼き目がついて、適切に内部が温まっている状態がおいしい焼き肉だと分かっていても、肉食と肉の調理の歴史が浅い日本の庶民にとって、肉の種類や状態によって焼き方を変えるという芸当はまだ難しい。迷ったら、遠慮なく聞いてほしいと西村さんは言う。 焼肉レストラン「ぴゅあ」では、あえて特定の銘柄にこだわらず、全国のJAの産地から集めた国産牛肉を使用している。その日、どんな牛肉が使われているのかは店舗入口近くに「本日の産地情報」として部位、提供商品、個体識別番号が日本地図とともに掲示されている。最近では、焼き肉愛好家たちは自分好みの肉を探すために個体識別番号から産地を把握し、ブランドに頼らず好きな生産者を探し当てているというので、自分好みのおいしさを探す人には親切な提供だと言えるだろう。 おいしい焼き肉のためには産地など 今年のゴールデンウィークは「自宅で過ごす」世帯がもっとも多かったことが話題になった。実際に連休に入ると、ちょっと特別な食事、たとえば「おうち焼き肉」や「たこ焼きパーティー」などを家族や友達と楽しむ様子がSNSに多く投稿された。一方、自宅で焼き肉は間違いなく盛り上がるのだが、どうも店のようにうまく作れないという声も聞こえた。この不満を解消する方法を西村店長に聞くと「火力がどうしても違うので、まったく同じようにはいきませんが」と前置きしたうえで、コツを教えてくれた。「ホットプレートの電源やカセットコンロの火をつけてすぐではなく、しっかり温まってから肉を焼いてください。また、たくさん肉を入れすぎても温度が下がってしまうので、適量を心がけてください」 フライパンで一度に焼いて、早く調理を終わらせたいかもしれないが、お店の焼き肉に近づけて特別な「おうち焼き肉」にするには、肉が劣化しない時間を考えながら味付けして焼く必要があるそうだ。「焼く30分くらい前に肉を冷蔵庫から出し、常温に戻しておきます。ごま油と市販のたれとこしょう、おろしにんにく少々で合わせ調味料を作り、そして焼く食材情報も重要だが、それをどう加工するかも同じくらい大事な要素だ。そのため、肉の専門業者として培ってきた技術を生かしたメニュー提供をしている。「たとえば関節に近い部位はよく動くので肉がかたくなりますが味がよいので、カット技術でかたさ調節をしています。肩バラも、隠し包丁を入れるなどして柔らかく仕上げ、カルビや上カルビをリーズナブルに提供しています」 店舗特製の、市販されていない独自のたれ「ぴゅあダレ」がある。約7年前、JA全農ミートフーズの本部にも在籍していた西村店長も開発に加わった。「それまでは、シンプルな調味料で牛肉を味わってもらうというメニュー構成でした。お店が始まって20年が経過し、この店へ行けばあの味が楽しめるというわかりやすいものを新たに作りたいと考え、たれの開発に着手しました。ワイン、砂糖、しょうゆなどを配合したレシピは今も変わっていません。導入後はリピーターが増え、売上も上がりました」 ぴゅあ店舗のテーブルにはほかに「秘伝のやみつき味噌」というたれがあり、こちらも人気が高い。「先に導入された後、ホルモンに合うたれとして岩手県のホルモン焼きを参考に独自開発したものです。ホルモン用ではありますが、ぴゅあダレと味噌ダレを混ぜて、他のお肉にも使っている人が多いですね」「焼き肉店」に近づけるおうち焼き肉のコツ直前に用意したボウルで肉と合わせます。そして、味付けしたらすぐに焼いてください。味付けしてすぐに肉の劣化は始まります。時間が経つほど肉汁が流出し続け、旨みが失われるのです」 家庭では週末の調理担当だという西村店長が、家族からのリクエストで焼き肉を作るときは必ずこの手順を徹底しているそうだ。「おうち焼き肉は、これから先、もっと需要が上がってくると思います。スーパーマーケットでもお肉は部位ごとに売られることが増えています」 JA全農が運営するEコマースサイト「JAタウン」も好調で、昨年の8月29日(焼き肉の日)に合わせてお肉のフェアを実施し、売上高は前年比130%になったという。 日本人が肉食文化に親しむようになって約150年、外食文化が食卓に広がって約50年。調理器具、調味料が拡充され、食べる私たちの知識と経験が積み重なり「おうち焼き肉」はさらに満足のいく結果を求めて発展していきそうだ。
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