ROTARY 2021年夏号
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17ウルグアイ発祥の名物料理といえば「チビート」。牛肉のステーキをはさんだ豪快なサンドイッチだ。チビートが売られるフードトラック。手前に並ぶ具材をステーキと一緒にはさんでもらう。「ピンチョス・オ・ブロシェット」と呼ばれる串焼き。世界中に多くのバリエーションがある。インドのシシケバブは羊か山羊、コーカサスのシャシュリクは羊、日本で串焼きというと鶏肉か海産物だが、ウルグアイではやはり牛肉が主役だ。チビートと並んでウルグアイで日常的に食べられている「ミラネサ」は、ミラノ風カツレツという名前の通り、イタリア起源の料理。ポテトや野菜を添えたり、パンにはさんで片手で食べることも。か、あばら骨にそってではなく、縦にさばいて骨付きバラ肉の本数を増やすのもユニークだ。 もちろん、トライチップ、フランク、ハラミ、リブロース、ストリップロインもアサードとして並び、胸腺や大腸、小腸、心臓、腎臓と内臓もすべて、牛を隅から隅まで味わい尽くす。これらをいぶすようにじっくり焼き上げる。 ここまでの説明だと、肉を焼くだけの単純な料理で、誰でも同じように作れると思うかもしれない。ところが、シンプルな調理法だけに、シェフの力量がアサードの出来を大きく左右する。「同じような設備でも、驚くほど味が違ってきます。昼はBPUの食堂で昼食を作っているコックが、夜はシェフとしてアサードを手掛けていて、見事な腕なんですよ。アサードが得意なシェフは貴重なので、半ばお抱えのように、何かあると頼んでいます」(三村CEO) アサードでは必ず、イタリア由来の製造方法で作られる「プロボローネチーズ」を同時に火にかける。もっちりと弾力があるこのチーズは、熱が加わると糸のように伸びて風味が増す。同じく付け合わせの定番、トマトとの相性も抜群だ。「おひとりさま」が存在しない国 畜産業をもたらしたヨーロッパ、なかでもスペインやイタリアの影響を強く受けている南米の料理には、他地域に無いものは案外少ないが、100%ウルグアイ発祥と確認できる、今も皆に愛されている名物料理が「チビート」だ。 スペイン語で〝小さい山羊〞を意味するチビートだが、使われるのは山羊ではなく牛ヒレ肉だ。「大西洋の真珠」と称されることもあるウルグアイ南部の海沿いの都市プンタ・デル・エステにあったレストラン「エル メヒジョン」で、1940年代にチビートは誕生した。 来店したリゾート客が山羊肉のサンドイッチを店に注文したが、食材がない。困ったオーナーは、牛肉のテンダーロインステーキを代わりに使ってサンドイッチとして提供したところ、評判を集め、定番メニューに育ちウルグアイ中に広まった。「ウルグアイの人たちが食べる肉は、圧倒的に牛肉です。レストランで他の肉のメニューもありますが、頼んでいる人を見たことがありません」(三村CEO) チビートはいまや、屋台などでも買うことができるウルグアイの国民的な軽食。トマトやレタス、ハムなど様々な具材が一緒にはさまれるが、主役は牛肉で、そこは変わらない。ちなみに、隣国アルゼンチンでチビートを頼むと本物の子山羊料理が出てきてしまうので要注意だ。 ウルグアイの食事の真ん中には常に牛肉があることが日本と違うところだが、それよりも大きな特徴がある。「おひとりさま」がほぼ、存在しないことだ。「一人きりで食事をするということは、まずありません。家族と食べるのが当たり前。週末も、必ず家族単位で行動し、みんなでアサードを楽しんでいます」 美味しいワインを飲みながら、談笑しつつ、ときにはサッカー観戦に興じつつ、時間がかかるアサードの焼き上がりを待つ。日本で言うところの〝リア充〞が当たり前なのが、ウルグアイ国民の過ごし方らしい。

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