ROTARY 2021年夏号
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5う。そのため、色という情報がゼロとなれば、脳は味を判断するのに混乱を起こすというわけだ。 最近の食べ物の色合いは、着色料で素材本来の色とは全く違う色にアレンジされているものも少なくない。SNS映えを狙った新しい色彩感覚は、脳がイメージする味と実際の味とのギャップを生み出すという点でも食の意外性、楽しみを生み出す効果があるといえる。日本食を彩る、自然と四季の恵みの色 世界に目を転じてみると、国によって色に対する好みは異なることに気づかされる。マレーシアには鮮やかなブルーに染めたご飯を使った「ナシクラブ」という料理がある。日本人からすると驚きの色彩だが、「子どもが興味を持ってたくさん食べてくれるように」との願いが込められた伝統料理だという。 では、日本の食の伝統的な色彩とはどこから生まれてきたのだろう。「古来、日本は自然と四季に恵まれていることが諸外国との大きな違いです。八やおよろず百万の神といわれるように、日々の生活は、神々と密接に結びついて営まれてきました。自然の恵みは神様に感謝して収穫し、お捧げしてから自分たちも頂戴する。日本人の食は神様へのお捧げものと密接な関係があるのです」と語るのは江上料理学院院長 江上栄子先生。 日本料理の基本的な色彩も捧げものをする心から生まれたという。「自分をへりくだり、神への畏怖の念を表す黒。恵みへの喜び、感謝を表す赤(朱)。そして植物を育む土の色でもある茶色。この3色が基本の色となります」(江上先生) 茶色は土の色ばかりでなく、穀物、木、捧げものである食べ物が干されて現れる茶色みがかった色なども含まれ、濃淡のグラデーションが豊富なことも特徴といえる。これら3色に自然の花や草木が醸し出す繊細な色合いを加え、大切な〝恵み=食〞を晴れやかに彩る色を組み合わせて盛りつけることを尊ぶ。「自然の色に料理の季節感や作り手の心を託すのも、日本人ならではの感性でしょう。例えば竹の葉は春の若々しい緑、かぐや姫が出てくるような太く大きな竹の黒みを帯びた緑色、緑に茶色が模様のように入ったものなど、美しさも多種多様です。どの竹の葉をあしらうかによって、料理が旬を先取りした〝走り〞なのか、まさに旬の〝盛り〞なのか、終わりの〝名残り〞なのかを演出することができるのです」(江上先生) 盛りつける料理の内容に合わせて演出を工夫することは、他国にはあまり見られない手法だ。「日本人は料理や盛りつけを楽しむことが上手だと思います。ご家庭でも庭の葉や花を添えてみるとか、自由な気マレー半島東海岸の地域の伝統食「ナシクラブ」の青いご飯。「バタフライピー」という植物の花の抽出液で色づけされる。思わずハッとする、「インスタ映え」する色合いだ。青いハーブティーとしても知られるバタフライピー。アントシアニンが含まれているためレモン汁を加えると紫色になることでも話題に。冬は厚手の陶器に根菜をたっぷりと。見た目も温かでほっこりとした印象に。夏はかご素材の器に葉をあしらうと目にも涼やか。軽くふんわり盛りつけることで風通しのよい印象に。(写真上・下とも江上先生の料理より)

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