ROTARY 2021年夏号
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8日本人ならではの感性が生かされた食品トレーの色①刺し身が映えるガラス皿をイメージしたトレー。②コロナ禍の消費者の気持ちに配慮して安全や回復をイメージする緑色のトレーで売り場を構成。(①②の写真とも中央化学のショールームにて)日本ハムの「国産豚肉 麦小町®」(上)と「国産鶏肉 桜姫®」(下)のトレー展開例。(上)はピンク系で軽やかにまとめ、(下)は黒・金をベースに肉色が引き立つよう演出。①②同じ柄で4色展開で季節を演出。柄に適度に白色を取り入れることにより、肉を盛った時、色の調和がとれるように配慮されている。売り場の印象を左右するトレーの配色と演出 スーパーマーケットの精肉・鮮魚売り場でおなじみの食品トレー。普段はあまり意識することはないかもしれないが、実は買い物客が商品を選ぶ際に、視覚的にとても重要な役割を担っている。たとえばハレの日用に求めるしゃぶしゃぶ肉やすき焼き用の和牛肉は、黒地に金色などの華やかなトレーに美しく盛られて、特別感を醸している。夏の冷しゃぶコーナーでは、清流を思わせる淡い水色のトレーの上に豚のスライス肉がセットされ、遠目にも一帯が涼しげな印象だ。 食品包装容器業界のパイオニアとして知られる中央化学株式会社の営業本部マーケティング部販促企画一課・課長の加か耒く敦あつのぶ宣さんによると、肉色を引き立てるためのトレーの配色は、季節やイベント等によって変化をつけているとのこと。「春は小花柄やピンク系、黄緑系のトレーでやわらかな印象に。夏は涼やかな青に白を差し色として使うことで涼感が増します。また秋冬向けとなると、黄色やオレンジなど暖色系を使って紅葉の色み等を演出しています」 特にしゃぶしゃぶ用の薄切り肉に関しては、お肉とトレーの接触部分の色みが特に大切なのだという。またお正月などハレの日向けのトレーには「黒と金の2色をベースに白や朱色をアクセントに入れて肉の色をいかに引き立てるかを追求しています」(加耒さん)というように、トレー1つひとつの配色に心を砕く様子がうかがえる。〝今すぐ食べたい〞と思わせる色彩は時代とともに移りゆく その上、食のトレンドの影響も見据えた商品展開も欠かせないのだという。「売り場で『あれ?』と感じさせてお客様の足を留める演出法もあります」と加耒さん。「最近はシンプルで高級感のある売り場も多く、そのような所にはあえて濃い木目調のトレーを使用し商品が引き立つよう、売り場全体の色バランスをみてご提案しています」 また、おしゃれなレストランの器づかいで目にするようなモノトーンのトレーも取りそろえている。コロナ禍で外食がしにくい分、家庭でお店気分を味わいたい消費者心理を考えてのことなのだそうだ。 このように日本人の繊細な感性を巧みに研究し新商品開発に余念のない食品トレーの世界だが、その歴史を振り返ってみると、トレーが登場した1960年代の頃は、色は白一辺倒だったという。その後木目調が現れ、1980年代以降にはトレーのファッション化が始まり、2000年代に入ってからは、形状もバラエティー豊かになって刺し身のトレーに代表されるように、食卓にそのまま出しても遜色のない、食器を模したデザイン性の高いトレーもお目見えするようになる。そして現在。ある調査によると、購入した刺し身をトレーのまま食卓にのせて食べる人が、8割にものぼるという。そんなニーズにこたえるため中央化学では、料理屋さんで出されるような、洒落たガラス皿をイメージした透明トレーも発売している。「欧米ではトレーではなく鮮度保持のためのスキンパックが主流ですが、日本は鮮度はもちろん、売り場において“おいしそう”で“今すぐ食べたい”と思わせるシズル感が重視され、食品トレーも独自の発展を遂げてきたのだと思います」(加耒さん) 消費者心理とともに、時代の流れをも映す食品トレーの世界。日本ならではの繊細な感性に訴えた技術の賜物といえるだろう。

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