ROTARY 2022年新春号
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25東京慈恵会医科大学卒業。医師、医学博士。2016年より現職の東京大学高齢社会総合研究機構教授。内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員などを務めている。東京大学 高齢社会総合研究機構機構長飯島 勝矢(いいじま・かつや) が期待できないことがわかります。フレイル予防のために、無理なく続けられる「栄養」、「運動」、「社会参加」には、どんなものがあるでしょうか。 「栄養」ではたんぱく質が重要です。50代を過ぎると、誰でもたんぱく質から筋肉を合成する能力が低下し始めるため、筋肉量が減ってきます。サルコペニア(筋肉減弱)の傾向にある方は体重1㎏あたり、1・2〜1・5gのたんぱく質が必要です。 たんぱく質が豊富な三大食品に肉、魚、大豆製品があります。たんぱく質たっぷりのイメージがある牛肉のステーキですが、牛肉200gに含まれるたんぱく質は約35〜40gです。意外かもしれませんが、たんぱく質含有量は鶏肉や豚肉、魚、大豆製品でもほぼ同じです。無理してステーキや焼き肉を食べなくても、焼き魚や納豆、豆腐など普段から食べている食材で十分です。あとは、効率よくたんぱく質から筋肉を生成するために、ビタミンDを摂取する必要があります。活性型ビタミンDにするためには、日光による紫外線の影響も必要です。 口腔の老化現象であるオーラルフレイルにも注意が必要です。高齢になってオーラルフレイルがある集団と、ない集団を4年間観察したところ、オーラルフレイルがある集団では死者数が2倍以上多いという調査結果があります。 オーラルフレイルの兆候である①汁物で軽くむせることが増える、②滑舌が悪くなってくる、③食べこぼしをするようになる、などがあれば要注意です。普段から柔らかいものばかり食べずに、毎食1品は噛み応えのある料理を摂ることを心がけてください。 「運動」は、運動の種類や時間は気にする必要はありません。一番大切なのは生涯、楽しんで続けていくことです。また、1人で黙々と行うのではなく、誰かと一緒に楽しく行うことで社会参加もしやすくなるでしょう。 「社会参加」は、地域のイベントに参加したり、実行委員を務めたり、ボランティア活動など、自分が自発的にやりたいと思ったことで構いません。「社会参加」による身体活動量やカロリー消費量は侮れません。好きなことを一生懸命にやっていたら、結果として人とふれあう機会が増え、運動量も増すケースが多く見受けられます。このように、運動ではないのに、結果として運動量が増す活動のことを「NEAT(非運動性熱産生)」と呼び、フレイル予防の重要なポイントとして注目を集めています。40〜50代では「フレイルは高齢者の問題」と思いがちですが、予防のための準備はいつごろから始めたらよいのでしょうか。 フレイルは高齢者(65歳以上)になった途端になるものではありません。それまでの生活習慣の蓄積の結果ですから、30代から「栄養(食と口腔)」、「運動」、「社会参加」を意識して生活しておくべきでしょう。 人生100年時代を健康に生きるために、老いないための努力を義務的に行うのではなく、自分に合ったフレイル予防を継続していくことが、一番のポイントとなるのです。

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