4 未来への挑戦
連載 挑戦者たち -未来の創造者①

社長・井川が語る
「日本ハムの歴史=挑戦の歴史」

さまざまなフィールドで未来の創造に挑むニッポンハムグループの社員が語る本連載「挑戦者たち」。第1回は「挑戦する風土の醸成」に向け指揮を執る、日本ハム株式会社代表取締役社長の井川伸久。日本ハムがDNAとして持つ「挑戦の意思」を取り戻す。ビジネスや食を取り巻く環境、ライフスタイルの変化に果敢に挑んで新たな価値を生み出せる、そんな会社にするための思いと決意をお伝えします。

ガバナンス態勢が整ったいまこそ、挑戦する企業風土への改革を進めたい

日本ハム株式会社 井川 伸久(いかわ・のぶひさ)・代表取締役社長

関西大学法学部を卒業後、1985年日本ハム株式会社に入社。
2005年加工事業本部デリ商品事業部デリカ商品開発部長、15年加工事業本部営業本部フードサービス事業部長に就任。
その後、加工事業本部長、代表取締役副社長などを歴任し、23年4月より現職。

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シャウエッセン®をはじめとするソーセージ・ハム、冷凍食品やチーズ、ヨーグルトといった乳製品、缶詰、コンビニエンスストアのお弁当まで、さまざまな加工食品事業を展開。食肉事業としては牛・豚・鶏の生産飼育から処理加工、販売までをグループ内で一貫して行う体制を持つ日本ハム。
2023年4月に就任した社長の井川伸久は、「たんぱく質の価値を共に創る企業へ」をテーマに掲げ、新たな企業風土を創ること、そしてたんぱく質の未来を創ることに挑んでいる。

挑戦する風土への改革を急ぐ

── 日本ハムはもともと、非常に挑戦心の強い会社です。食品メーカーとして球団を買い、日本で初めて北海道で鶏を飼うことも実現しました。豚や鶏の生産から販売・流通までを一貫して手掛ける垂直統合型の事業モデルを業界でいち早く確立し、オーストラリアでは山手線の内側と同じぐらいの面積の牧場を所有するなど、スケールの大きい挑戦をずっとやってきました。

ただし、ここ20年ほどは、コーポレート・ガバナンスの強化に重心を置くあまり、攻めの意識が薄くなっていたのです。挑戦する企業風土への改革を進めなければと強く感じました。

改革の必要性を感じたのは現場との対話がきっかけだった。挑戦する企業風土への変革、そして将来のヒットブランドを創る取り組みが始まった。

── 私が加工事業本部長の時のことです。各工場を回っているなかで開発の若手社員たちから聞こえてきたのは、新商品を提案しようとしても製造ラインをどうするのかといった問題や、日常のルーティーン業務の方が優先順位が高くなり、言われたことをやるだけになってしまうという話でした。気が付かないうちに大企業病になってしまっていたのです。
「新しいことにチャレンジしたい」という若い開発者の思いに応える場を持つために、6年前に始めたのが、アイデアを競い合う「開発甲子園」です。R-1(ロースハムNo.1)グランプリや、Y-1(焼豚No.1)グランプリという開発チャレンジ企画を実施したこともありましたね。
そうしたなかでナンバーワンになったアイデアは、当時役員が進物用として利用していたギフト約300セットに採用したこともあります。遊びのようですが、スタートさせた時に上位のアイデアは絶対に形にしようと約束したのです。きちんと商品にするところまで挑戦することで、チャレンジする企業風土作りと優れたアイデアを具現化できる組織体制作りにつなげていきたい。当時からいまに至るまで、その思いに変わりはありません。

開発甲子園のプレゼンの様子

開発甲子園参加メンバー。優勝者には優勝旗が贈られる

開発甲子園では、各エリアの予選を勝ち抜いた若き開発者たちが翌年の新商品化を目指して熱いプレゼンを展開する。誕生した商品は既に17品目に上る。そこには、生命(いのち)の恵みを大切にするためにさまざまな部位を活かそうとするSDGsへの姿勢が表れている。

2023年に発売した、鶏レバーから作る「グラフォア」(※調理例)

── 鶏レバーを使用した「グラフォア」という商品があるのですが、これも若手開発者が開発甲子園で提案し商品化したものです。フォアグラは世界三大珍味の一つ。ただし生産の過程においてアニマルウェルフェアの観点から課題を抱え、生産量が減少傾向にあります。一方、鶏レバーは、夏場は非常に需要が高いものの冬場には需要が落ち、本来の食品としての利用がしきれないこともあったのです。そこで鶏レバーからフォアグラの代替品を開発するというアイデアが出ました。開発甲子園で入賞後、1年間かけてフォアグラの濃厚な旨味や口どけを再現する製法を開発し、23年に販売を開始しています。

我々は生命の恵みをいただくことを生業としている企業です。例えば骨を煮出してエキスにするなど、生命の恵みに対して余すことなく、世の中の役に立つものに変えていく。それがSDGsの根本だと考えています。

日本の食文化とともに、日本産食品の魅力を伝えたい

「たんぱく質の安定調達と供給」を最重要課題として策定した、2030年のありたい姿「Vision2030」では「たんぱく質を、もっと自由に。」を掲げている。
そこに込められた思いとは。

── 日本ハムは、たんぱく質の供給メーカーであり、食肉のシェアは約20%、日本で摂取されている動物性たんぱく質の約6%を賄う量で、鶏と豚の生産量は国内最大級です。日本のたんぱく質供給に重要な役割を果たしている自負はあります。その「たんぱく質を日本で最も供給する食品企業」から、「たんぱく質の価値を共に創る企業へ」と変革していきたいと考えています。

「安全・安心」「おいしさ」に加え、常識にとらわれない「自由」な発想で「たんぱく質」の可能性を広げていきたいですね。例えばソーセージやハムだけではなく簡単にたんぱく質を摂れる方法や、高齢者の方々にとってのみ込みやすいお肉にするなど、もっと違う形で提供することもできるのではないか。あるいは海外の人たちに向けてたんぱく質を供給していくために、ジャパンテイストやジャパンカルチャーでアプローチし広げていくやり方もあるでしょう。

実はいま、若い世代を中心に、食事に時間をかけず食べられる食品が好まれています。たんぱく質の含有量が少ないものもかなりあるのですが、それで満足されている方々が多くなっています。たんぱく質は、成長するための栄養素であり、日々の生活におけるパフォーマンス向上、健康維持に欠かせないもの。しかし、若年層を中心にたんぱく質の摂取量が目標値に達していない現実があります。たんぱく質をいかに摂取していただくのかは、私たちの社会的な大きな課題であり役割だと考えています。

プラントベースの「とんこつスープ」など、日本の食文化をベースにした商品が海外で支持されています

私たち自身が自由な発想でたんぱく質の可能性を広げ、挑戦していこうという思いも含め「たんぱく質を、もっと自由に。」に取り組んでいきます。

世界の人口が増え肉の消費量も高まるなかで、たんぱく質供給量が不足する可能性が叫ばれている。代替たんぱく質にも、いち早く向き合ってきた。

── 気候変動の影響で、家畜の餌となる牧草や穀物が不足し、ひいては畜産の飼育ができないという問題が実は既に起きています。長期的に見ると畜産の生産量は年々減少しているというデータがある一方、世界的には人口が増える。つまり将来的にたんぱく質の供給難が起こるという「プロテインクライシス」がいま大きな問題になっています。 これに対して、安定的にたんぱく質を供給するだけでなく、多様なたんぱく質の商品開発に挑戦するのが、当社の使命。 例えば次世代たんぱく質として大豆ミートを使用したブランド「ナチュミート」は2020年から展開を始めました。“魚”を使わずに魚のような風味とほぐれ感を再現したフィッシュフライは、外食産業でもご利用いただいています。

大豆ミートのノウハウをベースに開発した「プラントベースまぐろ」(※調理例)

── またナチュミートの製造ノウハウをベースに開発したのが、こんにゃく粉や食物繊維などを使用した植物由来のまぐろの刺身「プラントベースまぐろ」です。こうした開発は限りある海洋資源保護の一助にもなりますし、魚が食べられない方への選択肢にもなります。

味や食感を追求した代替品は、ベジタリアンやヴィーガンの方、またハラル食品を求める方が多い海外からのニーズが高まっていますので、これまでに開発した商品に加え、麹を原料とした食品など、未来に向けた取り組みも進行中です。

北海道をたんぱく質体験の拠点に

たんぱく質の供給メーカーとして、食のインフラを担う企業として、安定供給に向けた畜産業の継続のための挑戦、環境問題への取り組みも始まっている。

オーストラリアで牛10万頭、国内で豚60万頭、鶏7500万羽を生産・肥育していますが、日本の畜産、特に牛と豚については危機的な状況にあります。
365日24時間、家畜の世話が求められる暮らしは、若い方から見たら非常に厳しい。高齢化や離職で養豚事業をされる方が年々少なくなっているなか、生産数を維持するには、デジタルの活用が不可欠です。安定供給に向けて、まず養豚事業で「スマート養豚プロジェクト」に取り組んでいます。
NTTデータグループと一緒に開発した「PIG LABO®」というシステムは、AI(人工知能)を活用し、豚舎に取り付けたカメラの映像から繁殖期を迎えた豚を自動的に識別できるというもの。さらに体重計に載せなくても個別の豚の発育状況を自動で判断するシステムなどを開発中です。効率の良い養豚を推進することで飼育の負担を軽減し、若い世代が畜産を仕事として選びやすくできる環境を整えていきたいと考えています。

豚舎のカメラが母豚の行動を記録
映像から発情期特有の行動パターンをAI解析し、母豚の発情確率を算出
判定結果をPC・タブレット上に表示
結果を元に種付け作業を実施

PIG LABO®の仕組み。AIカメラを導入することで、受胎の確率が向上し、人間が発情確認を行う手間が8割近く減った。

また、環境問題へも挑戦していきます。まずはカーボンニュートラル農場への取り組みを始めています。北海道で新しい農場を作る時に、北海道電力と協力し太陽光発電の搭載で化石燃料由来のCO2排出量を削減するほか、水使用量や廃棄物排出量の削減など一つずつ始めていきます。メタンガスの発生は、家畜を育てている私たちの生業上、すぐにゼロにすることは非常にハードルが高いですが、難しいと言っているだけでは歩みが止まってしまう。できることからまず始めるということです。

プロ野球、北海道日本ハムファイターズが誕生して50年。創業者・大社義規(おおこそ・よしのり)が戦後、進駐軍の外国人に比べて日本人の若者の体軀の貧弱さに衝撃を受け、牛や豚などの動物性たんぱく質を提供すること、そして身体を動かすこと=スポーツの普及によって健やかな成長に貢献したいと願って、球団経営にも乗り出した。昨年開業したプロ野球・北海道日本ハムファイターズの拠点、北海道ボールパークFビレッジ(北海道北広島市)は、さらなる挑戦の一つだ。

── 北海道ボールパークFビレッジは当社のチャレンジ精神を体現している場所の一つです。
食とスポーツを通して健康な身体作りのお役に立ちたいという創業者の思いにも通ずる場であり、地域社会、企業、お客様との共創の象徴かつ情報発信基地と位置づけて、食とスポーツを掛け合わせたエンターテインメント性あふれる、新たな空間を創造しました。

野球を開催していない時にもお客様に来てもらうために、秋に北海道日本ハムファイターズのキャンプを開いたり、冬にはスキー場を出現させたり。新年には初詣客を招く神社を作るなど、さまざまなチャレンジングな企画で魅力を発信しています。その姿勢はグループ全体にも新たな刺激となっています。

本社も、今年は北海道での展示会を球場で行い、Fビレッジで働くみなさま全員に試食にきてもらうなど交流を深めています。今後、当社事業拠点の約20%が集中する北海道を、世界に向けたたんぱく質体験発信の拠点に育てていきたいと考えています。そのためには本社と球団との人事交流なども積極的に実施しながら、互いに刺激を与え合える関係になればいいと感じています。

食のインフラを担う企業としてたんぱく質を安定的にお届けすることに加え、これまでの慣習や「当たり前」にとらわれず、グループ各社、地域のみなさま、さまざまなパートナーの力を掛け合わせることで、たんぱく質の新たな価値を創造することに挑戦を続けます。

─ 最後に質問です。井川社長にとって「挑戦」とは? ―

── 会社の未来を作るこれからの挑戦には、グループ企業やパートナーの企業のみなさま、お客様、そして株主のみなさまなど、多くの方々との「共創」が欠かせません。先ほどお話ししたPIG LABO®はNTTデータグループや農家のみなさまとの共創がなくては実現しなかったですし、Fビレッジの取り組みのようにグループ内連携を強化して、新たなプロジェクトを立ち上げるケースも増えてきました。さまざまな立場の人々が知恵を持ち寄って、新しい食の潮流を作る試みこそが、挑戦につながるのだと感じています。

学生や若い人、あらゆるステークホルダーとの対話を

最近の新たな挑戦として、私たちのお客様でもある一般のビジネスパーソンや学生との対話からこれまでにない気づきを得ようという試みを行っています。それが日本経済新聞社と共同で行った「日経未来会議プロジェクト」で、私たちが感じている社会課題や問題意識を日経の読者のみなさまと共有して、彼らと新事業のアイデアを議論していこう、という企画です。
近い将来、私たちが十分なたんぱく質を摂取することが難しくなる「プロテインクライシス」はもちろん、現在でもそもそも若い人を中心にたんぱく質摂取が足りていないという現状から、私からは「カラダに必要なたんぱく質、どう確保する?」という問いを新聞の読者に出させていただきました。

多くの読者から多数のアイデアをいただきましたが、そのどれもが刺激的なものでした。
例えば学生からいただいた「プロテインウイークの導入」というアイデアもその1つです。「たんぱく質をもっと摂取しよう」と啓発活動を国民的なイベントとして大々的に行うもの。行政や業界をもっと巻き込んで大々的に取り組むべき我々の使命とも言えるイベントだと思いましたが、残念ながらいままでこの発想が私たちにはありませんでした。

畜産業のデジタル化による業界支援の試みや、おやつなど間食でたんぱく質を上手に摂取するにはどうしたらいいかなど、我々が考えるべき宿題もあり、未来の食の文化を大切に育てていこう、という思いを強くした試みとなりました。

このほかにも他社との協業を通じて数多くのイノベーションを起こしていく考えです。例えば、この7月9日には、JA全農(全国農業協同組合連合会)と、国内の畜産業の持続可能性を共に考え、実行する「JA全農・日本ハム共創プロジェクト」に関する包括提携を行いました。

これからも日本ハムは、あらゆるステークホルダーとの対話を通じて共創を実現し、たんぱく質の未来を切り拓いていこうと考えています。

井川社長の似顔絵
私にとって挑戦とは、
「共創を通じて未来を切り拓くこと」です。 井川伸久
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