1 たんぱく質の選択肢を増やす

食の未来を担う「代替たんぱく質」の認知度は?
最新調査結果を公開

世界的な人口増でたんぱく源が不足する「プロテインクライシス」や畜産に伴う環境負荷、アニマルウェルフェア(動物福祉)などさまざまな課題に対する解決策として期待が高まる代替たんぱく質。ニッポンハムグループでは、プラントベースフード(植物由来食品)をはじめとするサステナブルな代替たんぱく質の研究・開発を進め、普及を目指しています。消費者はこうした代替たんぱく質をどのように受け止め、食生活に取り入れているのでしょうか。代替たんぱく質の認知度やプラントベースフードに関する最新の調査結果をご紹介しながら、その可能性を探ります。

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「代替たんぱく質」はたんぱく質の新たな選択肢

世界人口の増加で肉の消費量が増え、たんぱく源が不足するプロテインクライシス。国連の予測では、世界の人口は2050年には約100億人に増加する見込みで、「たんぱく質不足」はグローバルな社会課題となっています。

そうした中で、近年「新しいたんぱく源」として期待されているのが、肉や魚に代わる代替肉などの代替たんぱく質です。畜産による環境負荷が引き起こす気候変動やアニマルウェルフェアなどに対する解決策としても注目される代替たんぱく質。植物や昆虫由来の原料を使用したものや、動物の細胞から作り出す「細胞性食品(培養肉)」、3Dプリンターで成形したものなど、最新技術を駆使してさまざまな製造方法が模索されています。

新たなたんぱく質の選択肢としての「代替たんぱく質」には、原料や技術、製造過程によってさまざまなものがあります。代表的なものをピックアップしました。

主な代替たんぱく質の種類と特徴

①植物由来の成分で肉特有の風味を出した代替肉 植物から生成した肉特有の風味を出す分子である「ヘム」を活用し、小麦やじゃがいも、ココナツ油などを原料とした代替肉。ハンバーグなどのひき肉料理に加工して販売されることが多い
②ピープロテイン えんどう豆を原料としたたんぱく質。繊維構造を動物性たんぱく質に近づける技術で肉の風味・食感を再現。粉末やシリアルバーなどに加工され、市販されている
③細胞性食品(培養肉) 牛などの動物から取り出した筋肉の細胞を培養して得られた食用の肉。「本物の肉」だが、畜産によるGHG(温室効果ガス)の排出など環境負荷が抑えられる。日本ではまだ販売されていない
④大豆ミート 大豆を高圧加熱・高温乾燥させて肉の味わいに近づくよう調味した代替肉。ハンバーグや唐揚げ、ミートボールなど、市販されている商品の種類が多い
⑤菌類由来のたんぱく質(マイコプロテイン) 麹(こうじ)やキノコなどの菌類から作る「マイコプロテイン」を活用した代替肉。繊維構造が肉の繊維と似ており、食感に優れる。日本でも研究開発が進み、今後の市販化が期待される
⑥藻類由来のたんぱく質 スピルリナなど微細藻類由来のたんぱく質。たんぱく質含有量が高く、ビタミン・ミネラル・食物繊維など各種栄養素も豊富。サプリメントやパスタなどの麺類に配合されている
⑦昆虫食 豊富なたんぱく質と栄養価の高さ、飼料効率の良さからサステナブルな動物性たんぱく質として注目を浴びる。コオロギなどの昆虫の粉末を配合したシリアルバーや麺類などが市販されている
⑧3Dプリンターを活用した植物由来の代替肉 植物由来のたんぱく質を原料に、見た目や食感、風味などを3Dプリンターを使って再現した代替肉。ステーキなどに活用されている

日本ハムでは上記8種類の代替たんぱく質について、2018年から消費者の認知度などを継続的に調査しています。2024年9月に実施されたアンケートの最新調査結果を見ていきましょう。

認知度、受容性ともに購入しやすい「大豆ミート」がトップに

代替たんぱく質の認知度(2024年)

お客様志向推進部ライフスタイル研究チームによって実施した「代替たんぱく質に関する調査」(2024年9月実施)より2024年の結果を抜粋。回答者数2,067人

アンケートで最も認知度が高かった代替たんぱく質は、スーパーなどで見かけることも多い④の大豆ミート。「確かに知っている」(16%)と「見聞きした覚えがある」(31%)を合わせると47%と、認知している人は全体の半数に迫りました。

次いで、認知度が高かったのはえんどう豆などを原料とした②のピープロテイン(同34.4%)。ニュースなどでよく取り上げられる⑦昆虫食(同33.4%)や③の細胞性食品(同27.7%)がそれに続きます。

一方、研究開発は進んでいるものの、消費者が実際に手に取る機会がまだ少ない⑤のキノコや麹などの菌類由来の代替肉は17%、⑥のスピルリナなど藻類由来の代替肉は17.3%の認知度に留まりました。

調査では、それぞれを「食べてみたいか」という「受容性」についても尋ねています。

代替たんぱく質の受容性(2024年)

「代替たんぱく質に関する調査」(2024年9月実施)より2024年の結果を抜粋。回答者数2,067人

「食べたい(家族に食べさせたい)」「やや食べたい」を合わせた受容性のトップは、認知度と同じく④の大豆ミートです(29.7%)。ほかにも②ピープロテイン(同26.9%)、⑤キノコ・麹など菌類由来の代替肉(同19.9%)など、植物や菌類由来の代替肉に対する受容性が相対的に高いという結果に。一方、8種類のなかで受容性が最も低かったのは、⑦の昆虫食です。認知度の高さに反して受容性は12.1%と、昆虫食に対する消費者の心理的なハードルを反映した結果となりました。

「目新しさ」が動機の中高年、サステナブルな意識も高い若年層

認知度・受容性ともにトップの大豆ミートをはじめ、えんどう豆などを原料とするピープロテイン、植物由来の成分(ヘム)で肉特有の風味を出した代替肉などは「プラントベースミート」と呼ばれています。スーパーやコンビニエンスストアなどでもよく見かけるようになったプラントベースフードですが、消費者はどのような動機で購入し、日々の食生活に取り入れているのでしょうか。

2024年に実施した「プラントベースミートに関する調査」で喫食経験を尋ねたところ、「食べたことがある」と答えた人は31.4%。そのうち、「現在も継続して食べている」と回答した人は8.9%。「過去に食べた経験はあるが、現在は食べていない」と回答した人は22.5%でした。また、約2割の人は「一度も食べたことはないが、食べてみたい」と回答しています。

Q.あなたはプラントベースミート(大豆ミートなど植物由来の原料から作られた代替肉)を使った料理を食べたことがありますか?

喫食経験者(現在も継続して食べている+過去に食べた経験はあるが、現在は食べていない:白枠)は、ほぼ変化なし。「一度も食べたことはないが、食べてみたい」と回答した人は、2024年では22%であった。

お客様志向推進部ライフスタイル研究チームによって実施した「プラントベースミートに関する調査」(2024年3月実施)より2024年の結果を抜粋。回答者数6,800人

「プラントベースミートを食べたことがある」と回答した744人に購入動機を聞くと、回答者の年代によってプラントベースミートに抱くイメージや消費行動の違いが浮かび上がってきました。

Q.プラントベースミートを使ったメニューや食品について、あなたがその商品を購入した動機を教えてください

「プラントベースミートに関する調査」(2024年)より。プラントベースミート喫食経験者744人が回答(複数回答)。

動機について、全ての年代で最も多かったのが「健康に良さそうだと思ったから」という回答です。特に40代以降の中高年世代は健康志向を反映してか、選ぶ人が多くなっています。

世代ごとの価値観や消費行動に詳しい日経BP総合研究所の渡辺和博上席研究員は、調査結果を見て「どの年代でも大豆ミートなどのプラントベースミートについて、『お通じにいい』『おなかにもたれない』『ダイエットにいい』など美容・健康に対するポジティブなイメージがある」と分析します。

「目新しいので試そうと思った」という回答がほかの世代よりも目立ったのは50~60代。「この年代はいわゆるバブル世代。“新しモノ好き”というタイプが多く、新製品や新商品に関する感度の高さがプラントベースミートの購入動機に表れています」と渡辺研究員は指摘します。

20~30代で多かったのは「他人が購入しているのを見た」「友人の間で流行っていた」「店舗による説明や店員のおすすめを聞いて、美味しそうだと思った」などの回答です。「20~30代はSNSやインフルエンサーなどが発信する情報を参考にすることが多い世代。特に20代など若い世代の消費スタイルの背景にあるのは、『買い物で失敗したくない』というリスク回避的な思考です。購買動機にもこうした『他者の評価』に敏感なZ世代特有の価値観があるのではないでしょうか」(渡辺研究員)。

また、サステナビリティへの関心が高く、消費もエコフレンドリーであるのがZ世代の特徴です。ほかの世代と比べ、20代で突出していた購入動機は「環境にやさしいから」という回答でした。

ほかにも20代で多く見られたのが「商品やメニューそのものが魅力的だった」という声。「『肉がごちそう』である中高年にとって、プラントベースミートは『肉の代替品である』という意識がある。一方で、Z世代は『大豆ミートなどは肉と並ぶたんぱく質の一つ』というフラットな印象を持っているように見受けられます」と渡辺研究員は言います。

健康のために肉食を減らす「フレキシタリアン」も

プラントベースミートを日々の食生活に取り入れている消費者は、どれくらいの頻度で食べているのでしょうか。「継続的に食べている」と答えた480人に喫食頻度を尋ねたところ、全体では「週1回以上食べている」人が6割以上という結果に。特に20~30代では「週2~3回以上食べる」人が6割を超えるなど、継続喫食者のなかでは若年層ほど頻繁に食べていることが分かりました。

Q.プラントベースミートを使った商品や料理を食べる頻度について、最も当てはまるものを教えてください。

「プラントベースミートに関する調査」(2024年)より。プラントベースミート喫食継続者480人が回答。

「継続的にプラントベースミートを食べている」人は、アンケート回答者全体の1割に満たない少数派。しかし、こうしたヘビーユーザー層にとって、肉や魚をプラントベースフードに置き換えることは日々の習慣になっているといえそうです。「Z世代の間では、肉や卵、乳製品などに加えて食生活に植物由来食品を取り入れる柔軟なベジタリアン、いわゆる『フレキシタリアン』も増えています」(渡辺研究員)

一方、「過去に食べていたが現在は食べていない」という回答者480人に「食べるのをやめた理由(複数回答)」を聞くと、トップ3は「おいしくなかった」(31%)「販売しているお店が少ないので入手しにくかった」(23.7%)「値ごろ感がなかった」(23.5%)という回答でした。

渡辺研究員はこうした課題がプラントベースフード市場の「伸びしろ」でもあると指摘します。「コロナ禍をきっかけに食が見直され、健康的なプラントベースフードにも関心が集まりました。商品の多様化やおいしさの追求などの企業努力によって、市場規模は今後も拡大していくと予想します。特に若い世代の価値観や消費行動などを考えると、将来的には『たんぱく質の選択肢の一つ』として、定番となる可能性があると見込んでいます」

「代替たんぱく質」に対するニッポンハムグループのさまざまな取り組み

ニッポンハムグループは持続可能な未来のために、たんぱく質の供給を通じてさまざまな取り組みを行っています。新しいたんぱく質の研究開発や普及に関わるこれまでの記事をご紹介します。

プロテインクライシスの真実と、たんぱく質の安定供給への取り組み①

プロテインクライシスの真実と、たんぱく質の安定供給への取り組み②

学生たちと考える「カラダに必要なたんぱく質、どう確保する?」

日本ハムが作る「魚」って!? (前編)

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