幸せを身体に運ぶ栄養素「たんぱく質」を知る
近年、筋肉を作る栄養素として注目を集めている「たんぱく質」。たんぱく質は、身体の健康だけではなく、心の健康や美容にも深く関わっています。「最近なんだか疲れている」「やる気が出ない」「ボディラインが崩れてきた……」そんな不調は、「たんぱく質不足」のせいかもしれません。厚生労働省によると、現代日本人の1日のたんぱく質摂取量は、戦後間もない1950~60年とほぼ同水準。
日本人のたんぱく質摂取量は、1955年~73年の高度成長期に急上昇し、1995年にピークを迎えました。しかし2000年を境に、ダイエットブームの影響などで急激に減少してしまったのです。
現代日本人の多くが、慢性的なたんぱく質不足! たんぱく質が不足すると、身体にはどんな影響があるのでしょう。あなたには、こんな不調はありませんか?

たんぱく質、不足するとどうなる?
まずは以下のチェックリストで、あなたのいまの体調について考えてみてください。
これらはすべて、たんぱく質不足が関係しているかもしれない不調。
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疲れやすくて、やる気が出ない
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筋トレやダイエットの成果が出ない
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仕事や勉強の効率が上がらない
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お肌や髪がくすんでみえる
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イライラすることが多くなった
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ボディラインがたるんできた
たんぱく質は、心と身体を健康に保ち、楽しく歳を重ねていくための栄養素。特に、このサイトを通じて、たんぱく質の大切さを改めて学んでいきましょう。
あなたの身体の20%は、たんぱく質でできている
たんぱく質は、材料である「アミノ酸」の組み合わせによっていろいろな効果を発揮します。特に高齢の方は、加齢による骨格筋の減少を食い止めるため、意識してたんぱく質をとる必要があります。たんぱく質の役割がわかれば、ご自身やご家族の健康を考えるきっかけになるでしょう。
たんぱく質をとることで、身体にはこんなメリットが!
たんぱく質は、身体を組成する物質の中で水分の次に多い成分です。血液や筋肉、骨や髪の毛などはすべて、たんぱく質から作られています。さらに、子どもの成長を促進する「成長ホルモン」や、体内に入ってきた病原体を排除する「免疫物質」などもたんぱく質。私たちの身体で働いているたんぱく質は、約10万種類もあるといいます。
筋肉と臓器、あらゆる身体のパーツでもあるたんぱく質
たんぱく質が筋肉を作ることはよく知られていますが、筋肉は運動するためだけに必要なものではありません。心臓を動かしている「心筋」や、消化管や血管の壁となる「平滑筋」など、臓器を動かしているのも筋肉なんです。つまり、たんぱく質が不足すると、日常的な動作に支障をきたすだけでなく、生命活動を維持する基礎代謝にも悪影響があります。たんぱく質は、運動するしないに関係なく、生きている限り欠かすことのできない栄養素なのです。
たんぱく質はアミノ酸のかたまり!?
たんぱく質・ペプチド・アミノ酸の関係
結びついた物質
結びついた物質
最も小さい単位
そもそも、たんぱく質とはどんな物質なのでしょうか。たんぱく質を構成しているのは、さまざまな機能を持つ「アミノ酸」という物質。50個以上の「アミノ酸」が鎖のように結びついて、さまざまな形を作っています。たんぱく質のサイズはわずか数ナノメートルで、肉眼では観測できません。ちなみに、50個未満のアミノ酸が結びついた物質は、たんぱく質ではなく「ペプチド」と呼ばれています。
たんぱく質が身体に行き渡るまで
体内に入ったたんぱく質は、ペプチドからアミノ酸へと姿を変え、最終的に新しいたんぱく質へと生まれ変わります。一体なぜ、このような手順を踏むのでしょうか。簡単にいうと、たんぱく質のままでは分子のサイズが大きすぎて吸収できないので、アミノ酸の鎖を切って小さくすることで吸収しやすくしています。
食事からとるべき栄養素「必須アミノ酸」に注目
たんぱく質を構成するアミノ酸は20種あります。そのうち11種類は「非必須アミノ酸」といい、ヒトの体内で合成することができます。しかし、残りの9種は「必須アミノ酸(不可欠アミノ酸)」といい、体内で作ることができません。必須アミノ酸は食事から直接とる必要があります。
必須アミノ酸(9種)体内で合成できないため、食事から直接とる必要がある
筋肉を強化してくれる
バリン | 筋肉を強化し、血液中の窒素量を調整する | レバー、チーズなど |
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ロイシン | 筋肉を強化し、肝臓の働きを高める | 鶏肉、カツオなど |
イソロイシン | 筋肉を強化し、神経の働きを助ける | ロースハム、牛乳など |
身体の成長を助けてくれる
ヒスチジン | 幼児の発達に必要で、神経機能を補助する | カツオ、マイワシなど |
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リジン | 成長を促進し、身体の組織の修復を助ける | マアジ、納豆など |
メンタルに影響する
メチオニン | 抗うつ効果があり、アレルギーのかゆみを抑える | ロースハム、マグロなど |
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フェニルアラニン | ドーパミンなどの材料になる | マグロ、鶏むね肉など |
トリプトファン | セロトニンなどの材料になる | レバー、チーズなど |
その他
スレオニン | 胃炎を改善し、肝臓に脂肪がつくのを防ぐ | マグロ、鶏むね肉など |
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筋肉や臓器などの古くなった部分は、身体の中で分解され、大部分は身体の外に排出されています。私たちの身体は、食事からとった新しいたんぱく質を材料にして日々作り変えられているのです。そのため、毎日の食事でたんぱく質をとり続けることが重要です。
年齢によって、必須アミノ酸が変わる?
「条件付き必須アミノ酸」と呼ばれているのが、成長ホルモンの分泌を促し、血液の流れを良くする「アルギニン」です。アルギニンは、成人にとっては体内で合成できる「非必須アミノ酸」ですが、小児にとっては体内で合成できない「必須アミノ酸」に分類されます。そのため、小児は普段の食事から意識してアルギニンをとる必要があります。アルギニンは、大豆製品や落花生、ゼラチンや鶏肉などに多く含まれています。
たんぱく質を効率良くとるためには?
アミノ酸の桶理論の概念図
たんぱく質を効率良く摂取するために、「アミノ酸スコア」について知っておきましょう。アミノ酸スコアとは、9種類の必須アミノ酸が「食品の中にどのような比率で含まれているか」を示す値のこと。アミノ酸スコアの上限は「100」。スコアが100に近づくほど、その食品が「良質なたんぱく質」であることを示します。
アミノ酸スコアを理解する上でわかりやすいのが、桶の板一枚一枚を必須アミノ酸のスコアに見立てた「アミノ酸の桶理論」です。Aのように各アミノ酸のスコアがそろっている場合、内部のたんぱく質も十分にキープされます。しかしBのように偏っていると、一番低いアミノ酸に合わせてたんぱく質が流れ出してしまうため、ほかのアミノ酸が無駄になってしまいます。
アミノ酸スコアは、その食品に含まれるアミノ酸の数値の中で、「最も低い数値」を基準にして算出します。例えば、リジンが20、トレオニンが80、残りが100の食品の場合、その食品のアミノ酸スコアは「20」。9種類の必須アミノ酸は一番低いスコアに合わせて使用されるため、残りのスコアが流れ出してしまいます。たんぱく質を効率的にとりたい場合は、アミノ酸スコアが100に近い食品を選べばいいでしょう。
アミノ酸スコア100の食品例
心の不調は、たんぱく質×運動で解決!
私たちの心が不安定になる要因やメカニズムは完全には解明できていませんが、そこには「神経伝達物質」が関係しているといわれています。神経伝達物質とは、ヒトの脳内で情報の運搬役を担うたんぱく質のこと。やる気を促す「ドーパミン」や、気持ちをリラックスさせる「セロトニン」、驚きや興奮を感じさせる「ノルアドレナリン」などが有名です。これらの物質が不足すると、心が不安定になってしまう可能性があります。
では、神経伝達物質を不足させないためにはどうすればいいのでしょうか。
ポイントは2つ。1つは、毎日の食事で「たんぱく質を摂取」すること。神経伝達物質の合成には20種類すべてのアミノ酸が欠かせないため、体内で合成できない必須アミノ酸を食事から直接とる必要があります。
もう1つが、「運動」で神経伝達物質の分泌を促進すること。運動は、ドーパミンやセロトニン、ノルアドレナリンなどの分泌量を加速させるといわれています。散歩やジョギング、ストレッチなど、どんな運動でも構わないので、自分にとって心地良い運動を習慣化しましょう。心の健康を保つためには、たんぱく質の摂取×運動がカギになります。
心の不調を改善するには 運動とたんぱく質の摂取がカギ
やる気や元気、幸せはたんぱく質が作ってくれる
やる気や元気の材料となるドーパミンやノルアドレナリンは、体内で合成できる必須アミノ酸の「フェニルアラニン」や、体内で合成できない非必須アミノ酸の「チロシン」から作られています。そのため、ドーパミンやノルアドレナリンを増加させたい時は、フェニルアラニンを含む食材に注目しましょう。
幸せホルモン・セロトニンの材料は、必須アミノ酸の「トリプトファン」。トリプトファンは、睡眠を促す「メラトニン」の材料にもなります。フェニルアラニンやトリプトファンは、肉類や魚介類、卵や乳製品、大豆製品などから効率良く摂取することができます。
きれいなボディラインにも、たんぱく質が必須
体内で合成できる「非必須アミノ酸」にも注目。例えば、美肌効果で有名なたんぱく質「コラーゲン」や「エラスチン」の元になるのは、非必須アミノ酸の「グリシン」や「プロリン」です。これらの物質が不足すると、お肌のハリや弾力が低下し、しわやたるみ、そしてボディラインの崩れの原因になります。グリシンは魚介類(エビやイカなど)やナッツ類、プロリンは豚肉(ゼラチン)や小麦などに豊富に含まれています。
とはいえ、たんぱく質はさまざまな食事からバランス良く摂取するのが理想的です。食事の内容が限られていると、栄養が偏って逆に不健康になってしまいかねないからです。まずは、「勉強前は魚料理」「眠れない夜はホットミルク」「ダイエット中のおやつはナッツ」など自分なりのルールを決めて、毎日の食生活に取り入れることからはじめてみましょう。

立命館大学 スポーツ健康科学部・研究科 藤田聡(ふじた・さとし)教授
2002年南カリフォルニア大学大学院博士号修了。博士(運動生理学)。2006年テキサス大学医学部内科講師、2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科特任助教を経て、2009年より立命館大学。米国生理学会(APS)や米国栄養学会(ASN)より学会賞を受賞。監修本に『間違いだらけのたんぱく質の摂り方』、共著に『体育・スポーツ指導者と学生のためのスポーツ栄養学』など。2021年に長年の研究に基づき企業の健康経営をサポートする(株)OnMotionを設立。