2 たんぱく質を自由に楽しむ
同じ食卓で、みんなが同じものを食べられる幸せを

日本ハムの食物アレルギーケアへの取り組み

日本ハムでは全てのお客様の「食べる喜び」を満たすために、さまざまな活動を行っています。その中の1つが、食物アレルギーに関する取り組み。「食物アレルギーの人も、そうでない人も、全員が同じメニューを楽しめるように」という思いで、食物アレルギー対応食品の研究・開発に力を入れています。新規事業推進部で食物アレルギーに関する情報発信やEC運営を担当している岡本隆雄部長と長島瑠美氏に、その歴史と現在の取り組みについてお話を聞きました。

日本ハム株式会社
岡本隆雄(おかもと・たかお)・新規事業推進部長

1997年日本ハム入社。加工事業本部にてスーパー・生協などの量販営業、コンシューマ商品の販促企画、ギフトや販路開拓に伴う商品開発などを行う新市場開拓部門を経て、2024年4月より現職。

長島瑠美(ながしま・るみ)

2015年日本ハム入社。輸入食肉事業部において輸入冷凍豚肉の調達・営業を経験後、2021年4月より新規事業推進部に異動。心満たすお肉体験のオンラインストア「Meatful」のECサイト運営経験を経て、2024年4月より食物アレルギーケア総合プラットフォーム「Table for All」の運営に参画。

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1996年に食物アレルギーの研究・開発をスタートして以来、食物アレルギーに関するさまざまな取り組みを行ってきた日本ハム。2024年現在、その活動は企業やブランドの垣根を越え、自社以外の領域にも広がっています。

日本ハム×食物アレルギーの取り組み

食物アレルギー対応商品の歴史。1996年:食物アレルギーの研究をスタート。1997年:食物アレルギー対応商品『アピライト』シリーズを発売。1998年:アピライトシリーズが特別用途食品許可を取得。1999年:ライナップにハンバーグやミートボールが登場。2002年:食物アレルギーの表示完全施行、食物アレルゲン検査キット発売。2003年:食物アレルギーのホームページ開設。2004年:食物アレルギー対応食品販売開始。2007年:専用工場設立。2009年:米粉商品の発売。2015年:アレルギー疾患対策基本法施行。2018年:プロジェクトAがスタート。2022年:Table for All 食物アレルギーケアのサービス開始。

お客様の声から生まれた食物アレルギーの研究

── ニッポンハムグループでは、食物アレルギー対応の「みんなの食卓®」シリーズを発売しているほか、食物アレルギーの方とそのご家族に向けたさまざまな取り組みを行っています。なぜこんなにも熱意を持って、食物アレルギーに関する取り組みを進めているのでしょうか。

岡本:ニッポンハムグループが食物アレルギーの研究に本格的に取り組み始めたのは、1996年。「子どもがアレルギーを持っており、食べるものがなくて困っている」というお客様の声がきっかけです。
当時は、食物アレルギーに対する世間の認識も低く、マーケットも小さい。事業の難しさが立ちはだかる中で、創業者の理解のもと発売されたのが食物アレルギー対応商品「アピライト」シリーズです。

1997年に発売した「アピライトポーク」。ポークに加えて、アレルギーを起こしにくい「ターキー」「ラビット」にてアレルゲン除去食品をラインアップ。1999年にはハンバーグやミートボールも加わった。

ハムやソーセージなどの加工食品は、つなぎ等として乳成分や卵白、大豆を使用している場合もありますが、アピライトシリーズにはこうしたつなぎを一切使用していませんでした。また主原料は「ポーク」だけではなく、よりアレルゲン性が低いと言われている「ターキー」「ラビット」のウインナーを通販限定で発売したところ、食物アレルギーの方とそのご家族から大きな反響がありました。

── その後、食物アレルギーに関する取り組みはどのように広がっていきましたか?

岡本:数年間は、商品を市場に浸透させるための期間でした。転換期は2002年。食物アレルギーの表示制度が始まったことで、食物アレルギーに対する世間の関心が強くなりました。ファミリーレストランを中心とした外食産業でも「食物アレルギー対応のメニューをつくろう」という機運が高まり、食物アレルギー対応商品の需要が増加。私たちもアピライトシリーズを発売し、市場を広げていきました。

2002年 食物アレルゲン検査キット「FASTKIT®エライザ」シリーズを発売

── 2002年は、食品中の食物アレルゲンを検出できる「FASTKIT®エライザ」シリーズを発売した年でもありますね。

2014年に発売した「FASTKIT®エライザVer.III」シリーズでは、特定原材料等7品目(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、くるみ、大豆)の含有量を確認できる。2024年現在、多くの食品メーカーや公的な検査機関で利用されており、食の安全を見守る上で欠かせないものになっている。

岡本:食物アレルギーの表示制度を正しく運用するためには、食物アレルゲン検査技術の開発が不可欠でした。そこで私たちは、2000年に厚生省(現・厚生労働省)の委託研究に参画し、これまでの研究過程で確立した手法を用いてFASTKIT®エライザシリーズを開発しました。シリーズの研究はその後も続けられており、特定原材料が増えるごとに、定期的にラインアップを拡充しています。

長島:2003年には、食物アレルギーに関する正しい情報やお役立ち情報を掲載したホームページ「食物アレルギーねっと」も開設し、社会に対する理解の促進を図ってまいりました。

2004年 「みんなの食卓®」シリーズの販売を開始

── 食物アレルギーに対する世間の認識はここ数十年で大きく変わりました。アピライトシリーズは、まさに時代の先駆けとなった商品ですね。

岡本:そうなんです。そしてアピライトシリーズの後継品という位置づけで新たに発売されたのが、みんなの食卓®シリーズです。アピライトシリーズは、ターキーやラム、ラビットを原材料としていたため、製造コストが高く、ほかの商品に比べて割高でした。そのためほとんどのご家庭では、食物アレルギーの方とその他の方のメニューを別々に用意していたようです。みんなの食卓®シリーズは、「食物アレルギーの方も、そうでない方も、みんなで同じメニューを楽しめるように」という願いを込めて開発されました。

長島:アピライトシリーズは冷凍商品でしたが、みんなの食卓®シリーズはチルド商品も用意。スーパーマーケットでも販売できるようになり、皆様の目に触れる機会も多くなりました。

── みんなの食卓®が人気になったこともあり、2007年には食物アレルギー対応の専用工場も設立しました。この工場ではどのような管理をされているんですか?

山形県酒田市にある食物アレルギー対応商品の専用工場。製造エリアには特定原材料8品目の持ち込みを禁止しているほか、従業員には食後の歯磨きも義務付けている

岡本:最初は、東北日本ハム株式会社の一部の工場棟を特定原材料5品目(卵、乳、小麦、そば、落花生)を使用しない専用工場として稼働させました。2015年からはそのルールを全エリアに拡大。現在、東北日本ハム株式会社全体が、特定原材料8品目(くるみを含む)を使用しない食物アレルギー対応専用工場となりました。

コンタミネーション(アレルゲンの混入)のリスクを最小限に抑えるため、工場の製造エリアには、厳格なルールを制定しています。手洗い、アルコール消毒、エアシャワーなどの義務付けに加えて、特定原材料8品目の持ち込みを禁止。また、社員食堂での食事では、重篤な症状が出ると言われる「そば・落花生・くるみ」の持ち込みを禁止しているほか、昼食後の歯磨きのルール化など従業員の意識向上にも努めています。

2009年 「みんなの食卓®」シリーズに米粉パンが登場

2024年10月現在、米粉パンは全17種類。一番人気はお米で作ったまあるいパン。山形県産の米粉を100%使用しており、もっちりとした食感。個包装で持ち運びに適している。

岡本:2009年は、みんなの食卓®シリーズがさらなる飛躍を遂げた年。食物アレルギーの方から「お肉以外の商品も作れませんか?」というリクエストをいただいたことがきっかけで「米粉パン」がラインアップに加わり、より幅広い食事を楽しんでいただけるようになりました。

長島:シリーズの特長は、なんといってもおいしいこと。一般的に、乳幼児に多い鶏卵、牛乳、小麦のアレルギーは、小学校に就学する頃には7~8割が治るといわれています。しかし米粉パンは、食物アレルギーが治った方や、そのご家族からも「おいしい」という理由でリピート購入していただくことが多いんです。

岡本:米粉パンのおいしさの秘密は、その原料と製造過程にあります。「米粉パンに最適なお米の品種の選別」「米粉の粉砕方法」「適切な配合と加熱の方法」などの研究や工夫を通して、米粉ならではのもちもちとしたおいしさを実現しました。米粉の原料は工場の地元山形の米を使用しています。おいしい商品をお客様に提供するための努力を惜しまない日本ハムだからこそ実現できる味になっています。

2015年 食物アレルギーに関する社会全体の理解を社外の方々とともに拡大

── 2015年には、一般財団法人ニッポンハム食の未来財団(現・公益財団法人ニッポンハム食の未来財団 )を茨城県つくば市に設立しました。食物アレルギーに関する社会全体の理解をより一層拡大するためには、社外の方々との連携を強化する必要があるという判断ですね。

岡本:ニッポンハム食の未来財団は、日本ハムがこれまでに培ってきた経営資源(研究・商品開発、品質保証技術)をベースに設立されました。食物アレルギーの方とそのご家族を支援するための教育や啓発活動はもちろん、研究者や市民団体活動に対する助成も行っています。

長島:2018年には、食品メーカーによる協同の取り組みである、プロジェクトAもスタートしました。食物アレルギー対応商品を有する4社の食品メーカー「オタフクソース」「ハウス食品」「永谷園」「日本ハム」でスタートし、21年には「ケンミン食品」、24年には「エスエスケイフーズ」が加わりました。
プロジェクトAの活動理念は、「食物アレルギーの有無にかかわらず、みんなで食事をおいしく楽しめる社会の実現」に貢献すること。協力メーカーが一丸となり、食物アレルギーの情報発信や啓発、商品の普及を進めています。

2022年 「Table for All」を通じて、アレルギー患者の食の未来を広げていく

── 2021年には、日本ハムの「2030年におけるありたい姿」を表現したVision2030を策定し、新しい活動も始まりました。

岡本:Vision2030の一環として、2003年より稼働してきた食物アレルギーねっとを、食物アレルギーケアの総合プラットフォーム「Table for All 食物アレルギーケア」(Table for All)として刷新しました。「みんなの食べたいによりそう」というコンセプトのもと、食物アレルギー管理栄養士による無料オンライン栄養相談を実施したり、食物アレルギーに関するお役立ち情報をお知らせしたりしています。

長島:Table for Allでは、食物アレルギー対応商品もご購入いただけます。食物アレルギーに関する活動をしていると、「食物アレルギー対応商品を一度でそろえられないため、複数のスーパーをハシゴしている」というお悩みを伺うことが多々ありました。そこで、ワンストップで食物アレルギー対応商品をそろえられることを目指して、サイトを運営しています。
とはいえ、本当に「みんなの食べたいによりそう」ためには、企業の枠にとらわれない活動も必要でしょう。そこでプロジェクトAの参画企業を筆頭に他メーカーの商品もお買い求めいただけるようにしています。

2023年12月に、ネスレ日本と共同で公開した「食物アレルギー対応食で楽しむクリスマスレシピ」。前菜からデザートまでを網羅したコース料理のほかに、子どもが好きなフライドチキンやカルボナーラなどのレシピも紹介。

他メーカーの商品を売るだけではなく、Table for Allを舞台にしたコラボレーション活動も行っています。2023年12月には、ネスレ日本と共同で食物アレルギー対応食で楽しむクリスマスレシピを公開し、フレンチシェフがクリスマスコース料理をご提供するイベントを実施しました。食物アレルゲン対応のマギー コンソメ・ブイヨン製品を使用し、クリスマスを飾るコース料理を提案しました。

2024年8月に発売した「おうちでなりきり!パン屋さんセット」。食物アレルギーが原因でみんなと一緒に職業体験イベントや料理教室などに参加できないお子さんの保護者からの願いを叶える形で発売

岡本:24年8月からは、食物アレルギー対応の「おうちでなりきり!パン屋さんセット」も発売しています。パン作りに最適な米粉に加えて、レシピとシリコン型、コック帽などをセットにした商品で、「小麦アレルギーを持つ子どもと一緒にパン屋さんごっこがしたい」というお客様のご要望に応えて制作しました。

2024年 家族全員、同じメニューを楽しめる幸せ

── お客様からのリクエストを、本当に細かく取り入れているんですね。

岡本:食物アレルギーに関する活動を広げていく中で、食物アレルギーの方やそのご家族から「こんな商品があったらいいな」というお声を頂戴する場面も増えてきました。パン屋さんセットは、食物アレルギーケアのコミュニティサイト「Table for Talk」内で、アレルギーを持つお子さんの保護者の方からの「パン屋さんになりたいという子どもの夢をかなえたい」という声をきっかけに発売することになりました。

長島:食物アレルギーの子どもは、普段の食事でもお友達と別メニューになることが多く、「どうして自分だけ違っているの?」と悲しい思いをすることが多いんです。そんな子どもに対して、「みんなと同じ体験をさせてあげたい」と思うのは当然のこと。「食物アレルギーが原因で悲しい思いをする人が、1人でもいなくなるように」という思いを込め、同商品を開発しました。私たちはこれからも、ひとり一人に寄り添った「食べる喜び」を提供していきます。家族全員で同じメニューを楽しんだことが、皆様にとってかけがえのない思い出になってくれるように願っています。

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