5 たんぱく質への責任

断髪、絶え間なき減量、そして進化へ
包装用プラスチック削減に向けた取り組み

日々改善され、進化していく日本ハムの商品。味の面はもちろんですが、包装にも細心の注意を払って日々改善・改良を行っています。特に近年は、プラスチックの使用量を削減しながら、機能や使い勝手を改善していくために細心の注意を払い開発が行われています。そのようなパッケージ開発の思いについて、話を伺いました。

お話を伺った人

日本ハム 加工食品事業部マーケティング統括部
ブランド戦略室長兼マーケティング室長
長田昌之(おさだ・まさゆき)さん

1995年入社。業務用営業を10年間担当後、ハム・ソーセージ事業部 商品政策室で商品開発を担当。2023年よりマーケティング統括部 ブランド戦略室長兼マーケティング部長(2024年にマーケティング部からマーケティング室に変更)。加工事業本部の広告宣伝、プロモーション、マーケティングを担当

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15年にわたる念願だったシャウエッセン®の断髪

上部を切り取っただけではなく、2個パックの包装をまとめるシールの幅も限界まで細くした。

2025年に発売40周年を迎えるシャウエッセン®。日経POS情報によると、平成時代(1989年1月~2019年4月)に最も売れた商品※となり、現在も同調査のソーセージカテゴリーでトップを走る国民的商品だ。定番商品としての地位を確立しており、頻繁にパッケージデザインを変更することが多い食品業界において1984年の発売以来「ほぼパッケージ変更をすることがなかった」(長田室長)というシャウエッセン。しかしこの商品も、1度だけ大規模なパッケージ変更を図ったことがある。2022年2月に「巾着タイプの包装」から「エコ・ピロタイプ」とし、トレードマークとなっていた上部のストライプ状のフリルを切り取ったのだ。

※ 全商品分野の中でPOSレジに買い物客が千人通ったときの売上金額において1位。全国のスーパーやコンビニエンスストアなど計1500店舗から収集した食品や日用品など約265万品目に及ぶ販売データの中から調査

長田室長いわく「もともと社内で『ちょんまげ』と呼ばれていた」というフリル。パッケージ変更時には、大相撲力士の引退時にまげにハサミを入れる様子に重ね合わせ、フリル部分を切る「断髪式」を行い、WEB動画を公開。翌日には「断髪後」のさっぱりとした姿を撮影した広告を新聞6紙に展開し、大きな話題を呼んだ。動画は1週間で200万回も再生され、ネットでも大きくこの出来事は拡散した。

「エコに向けての取り組みを事実としてそのまま伝えるのではなく、パッケージを一新して次の時代を目指すシャウエッセン®、というメッセージをどうやって打ち出していこうかと考えました。大きなパッケージ変更を伝える重要な広告であるため、社内で何度も議論をしました。多くの案の中から、力士が新しい時代に向かうための「断髪式」という案とイメージが重なりました」(長田室長)。広告映像には、井川伸久社長(当時副社長)がシャウエッセン®にハサミを入れる様子も映り、まさに全社総出で行われたプロジェクトとなった。

パッケージのスリム化を伝えるため、力士の「断髪式」をイメージした広告を大々的に展開した

コミュニケーションのユニークさから大きな話題となったこの取り組みだが、パッケージを一新した狙いは極めて真面目だ。目的は、包装用プラスチック使用量の大幅な削減。「断髪」したリニューアル後のパッケージは、これまでに比べてプラスチック使用量を28%も削減した。「以前から、フリル部分は必要ないのではというお客様の声は多くいただいていました。もともとこの商品は、鮮度を保つことと、ウインナーが折れないようクッションのかわりをするという2つの目的から袋に窒素ガス充填をしており、体積が大きいのが特徴です。ただし、お客様からすると冷蔵庫で場所を取ってしまう。特に巾着の部分は全てごみになるため、せめてここはなくしてほしいということでした」。

それでも長年パッケージを変えられなかったのは「シャウエッセン®といえば、茶と金のストライプに巾着袋」というイメージがあまりにも浸透していたため。巾着タイプ包装をやめたときに、売上にどう影響を及ぼすかが分からなかったためだ。「スーパーマーケットの売り場では、シャウエッセン®以外にも、あらびきウインナーと言えば巾着タイプの包装、というほどに、ほかのメーカーからも同じようなパッケージが並んでいました。お客様も、それを目印に買いにきている状態でした」。

実際にこのような出来事があった。10年前に、巾着タイプ包装と、巾着のない今のような包装を、同じ売り場、同じ売価で横並びにしてテスト販売を行った。巾着のない包装を購入すれば『20%以上プラスチック削減』ができ、その横の巾着タイプ包装には『地球環境に良くない』というPOPを置いたにもかかわらず、巾着タイプ包装の方が約5倍の売り上げでした」。

確実に、巾着タイプ包装のイメージが「お客様の購買行動に根付いていた」のだ。パッケージのスリム化は過去からの課題ではあったのだが、これにより「売り上げを5分の1に落とす可能性がある」というリスクが顕在化してしまった。

消費者の「エコ包装」に対する意識が大きく変化

この衝撃のテストマーケティングの結果、社内ではパッケージの変更に躊躇する意見も聞かれるようになった。それでもマーケティングのチームは、同様の調査を続けながら、「断髪」の機会をうかがっていたという。
すると、時代とともに風向きが確実に変わってきた。まず容器包装リサイクル法の度重なる改正により、プラスチックごみを大量に捨てることへの抵抗が消費者の心理にすり込まれ、海洋プラスチック問題がその機運を後押しした。また2020年には、当時の菅首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、国全体で省エネ・省資源への具体的な対策が求められた※。
さらに「コロナ禍以降は、これまでの巾着タイプ包装2個パックだけではなく、包装形態の異なる大袋タイプのシャウエッセン®も広がり、お客様がこれまでとは違う包装形態に対しても違和感を感じなくなってきた」など、消費者の行動も変容してきたという。実際、断髪前の最後のテスト調査では、巾着タイプ包装と巾着のない今のような包装の比較で、ほぼ両者同じ売り上げになっていた。

※ 容器包装リサイクル法対象製品の包装資材のみ

そうした中で、「いつかはやらなければならないなら、今しかない」と、2022年2月にパッケージをリニューアル。冒頭に説明した「断髪」をモチーフにしたコミカルで話題性のある広告は、パッケージ変更を可能な限り早く、多くの消費者に周知させる効果をもたらした。「タイミング的には原料価格高騰の時期と重なって価格改定をしたこともあり、数カ月の間、少しばかり苦戦はしたものの、夏頃には売上は戻ってきました。お客様からの声もネガティブなものはほとんど寄せられませんでした」。さらに数ヶ月後には他社も追随。売り場から巾着タイプがあっという間に消えたのだ。カテゴリーのトップブランドが思い切ったからこその変革。結果的に、発売後1年間で316トンのプラスチック使用量を削減し、年間のCO2排出削減量は、4,000トンにも上るという。これは、杉の木45万6,000本が1年で吸収するCO2と同じ量になる※。

※ 森林はどのぐらいの量の二酸化炭素を吸収しているの?(林野庁)を元に試算
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/ondanka/20141113_topics2_2.html

日本ハムでは、2030年の目標とした「国内のプラスチック使用量を2013年比で20%以上削減」に向け、シャウエッセン®だけではなく、今あらゆる商品でプラスチック容器の減量が行われている。しかし、そこにはさまざまなハードルがある。現在は、そのハードルを少しずつクリアしながら、可能な限りの取り組みが行われているのだという。シャウエッセン®の場合は、マーケティング上の課題が減量の最大のハードルになったが、製造上の課題を解決しなければならない場合もある。

「トレイ」の削減のために、工場のラインを調整

シャウエッセン®、チルドピザに並ぶ日本ハムの3大ブランドの1つである、チルド中華惣菜シリーズ「中華名菜®」。この商品群では、これまでプラスチックトレイを使っていたが、それを使用しない「ノントレイ包装」に切り替えた。プラスチックトレイは家庭ではかさばるごみになりやすい。捨てるときの消費者の負担も考慮した上での決断だったが、トレイをなくすためには、工場のラインに大幅な改良が求められたのだと言う。

「例えば中華名菜®の「酢豚」の場合、具材のパックとソースのパックが2つ入っています。包装する前にプラスチックのトレイにこの2つをセットして「ピロー包装」という袋詰め作業を行っていたのですが、製造適正上トレイが必要不可欠でした。テストを幾度も重ねて、全工場でトレイなしでも製造可能にし、この春から全アイテムについてノントレイ化を実現しました」。これにより、プラスチックの使用量を21%削減。トレイをなくしたことで陳列したときのボリューム感が減ったという声を踏まえ、袋をまち付きの「ガセット包装」にするなど、細部にわたって工夫を凝らした。

2023年に中華名菜®シリーズのトレイをノントレイ包装に切り替え。2024年春にシリーズ全商品をノントレイに

小さな改良を継続的に実施

日本ハムの加工食品の中で、販売数量的に大きなボリュームを占めるピザも、工場でピロー包装をする際の課題に向き合いながら、包装用プラスチック削減を進めている。

「ピザにも同様に袋の中にトレイがあり、ピロー包装のラインをスムーズに移動させることだけではなく、直接ピザがコンベアに触れないよう保護をする役割もあります。中華名菜®のようにトレイをなくすことが難しく、ブランドによって2つの方向で環境の配慮を行っています。1つは、プラスチックから「紙」にすることでプラスチックの削減と捨てやすさを両立すること、もう1つは、トレイをギリギリまで小さくすることでプラスチック自体の使用を最小限にすることでした」。

チルドピザ「奏」シリーズでは、プラスチックトレイを紙トレイに変更。さらに外装フィルムを縮小して、従来品との比較でプラスチック使用量を37%削減した。

同じくチルドピザの定番商品「石窯工房」の場合は、2020年にトレイの形状を正方形から八角形にすることで四隅のプラスチックを削減。2012年以来使用していたトレイから47%の重量削減をまず実現した。さらに2024年には、このトレイのサイズをギリギリまで詰めることで、2.4%のプラスチック使用量を削減できた。

チルドピザの定番商品「石窯工房」のトレイ。2020年にトレイ形状を四角から八角形に変更。四隅の角を落としてプラスチック使用量を削減した。2024年にはさらにその面積をギリギリまで絞った(右)(下)

単なる「減量」は限界に。発想の転換が必要

直近では皮なしウインナーの「ウイニー」の包装材を小さくするなど、あらゆる商品で包装の減量を行っている。しかし包装材の縮小にも限界があり、そうした中で求められるのは、消費者の行動を分析しながら、パッケージのあり方を大きく見直していくことだ。

「例えば、当社ではロースハムの4枚入りを3パックセットで販売しています。これは個包装にすることで、食事ごとにフレッシュなものを使い切る、という視点で販売されています。その意味では非常に便利なのですが、まだまだ解決できる部分があるのではと考えています」。

シャウスライスで採用したリクローズ型パッケージ。使い切りを想定して小分けしているハムの包装をこのパッケージに変更できないか検討しているという。

日本ハムが使っているパッケージの中には「リクローズ型」というものがある。これは、ウェットティッシュのパッケージを連想させる、シールを閉めることである程度の保存性確保と乾燥防止ができるものだ。2021年3月に発売した「シャウスライス」では「クイックパック」という名称でこの包装を採用しており「今後こうした形態をボリュームパックなどに採用できないか、検討を進めているところ」だと言う。

コロナ以降に消費者の購買行動は、明らかに変化している。「毎日会社帰りに買い物されるお客様が、在宅勤務をきっかけに週末にまとめ買いされるようになっています。節約意識もあって、あらゆる商品で『ボリュームパック』が売れるようになりました。このようなお客様の購買行動変化に対応しながら利便性を追求し、新たな視点で無駄を省いていていく。そのような商品提案をしていかないと、と考えています」。

加えて、物流の効率化も意識したパッケージの提案も積極的に挑戦していくという。

「冒頭もお話ししたとおり、シャウエッセン®は、袋に品質保持用のガスが充填されていて、これがクッションになって商品を保護しています。商品の品質を保ち、おいしさを維持するためには必要ですが、運搬時や保存を考えたときには、海外製品でよく見る、商品をぴったりと覆う真空パックの方が効率が良いです。真空パックは圧力がかかるので、食感に影響する可能性もあるなど、まだ採用には踏み切れていないのですが、ピザやウインナーにこうした包装を検討する必要もあるかと考えています」。
消費者の行動を観察しながら新たな気づきを得て、常に新しい技術を取り入れながらパッケージ開発に取り組む。使い勝手と環境への配慮の両方を実現できるような斬新な発想を生み出せないか、日本ハムでは、今、「改良」から「進化」を求めてパッケージ開発に取り組んでいる。

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