「たんぱく質の未来」について高校生と考えた
「中高生のための学会」を運営する株式会社リバネスとパートナー企業が、10代の研究者を支援する「サイエンスキャッスル研究費」。日本ハムは2024年パートナー企業として参画し、3組の高校生の研究を助成しました。高校生研究者は「食の未来」についてどのような考えを持ち、研究を進めたのか。日本ハム 中央研究所の研究員によるサポートと研究成果発表会の模様をお届けします。

10代の研究活動を支援 テーマは「食の未来」
未来を担う次世代の研究者育成のため、リバネスとパートナー企業が10代の研究活動を支援する「サイエンスキャッスル研究費」。日本ハムはパートナー企業として2024年の同プログラムに参画し、高校生たちの研究を資金とメンタリングの両面から、半年にわたってサポートしました。
高校生たちの研究に伴走したのは、新たな食の価値創造を目指して、研究開発に取り組む日本ハム 中央研究所のメンバー5人です。「私たちは「食の未来」に関わるさまざまな分野の研究を進めていますが、食文化は世代ごとに移り変わっていくものです。将来を担う高校生たちは、食を取り巻く環境や社会課題をどのようにとらえているのか。共に研究に取り組むことで、次世代を担う若者たちの食に対する価値観やアイデアを知る良い機会にもなると思いました」(日本ハム 中央研究所 長谷川隆則マネージャー)。

高校生研究者をサポートした中央研究所のメンバー。左から渡邊憲リーダー、奥田雅貴リーダー、青木風花リーダー、浅里仁美リーダー、長谷川隆則マネージャー
「自由な発想で「食の未来」について考えてみてほしい」と設定したサイエンスキャッスル研究費のテーマは「食の未来を、もっと自由に。~あたらしい食のカタチを創造する研究~」です。応募されるテーマは10代にとって身近な内容だろうと予想していましたが、社会課題に基づいて考えられたテーマも多く、研究員たちは若い世代の意識の高さに驚かされたそうです。
審査の結果、多数の応募の中から「サイエンスキャッスル研究費 日本ハム賞」に採択されたのは以下の3組でした。
研究テーマ:酪酸菌サプリメントの開発を目指して~新しい酪酸菌を探す~
山村国際高等学校 宮﨑萌衣さん

宮﨑さんは同級生が悩む便秘や花粉症改善のため、腸内環境を整える善玉菌である「酪酸菌」に着目し、これまでの研究で新たな酪酸菌の同定に成功。今回はサプリメントの開発をゴールに据え、積み上げてきた知識を活かして食品に応用できる酪酸菌を研究しました。
研究テーマ:光による魚介の保存方法について
山口県立徳山高等学校 佐伯隼一さん(後列左)、横山理樹さん(研究代表者・後列中央)、松原由弥さん(後列右)、荒川智宏さん(前列左)福田龍吾さん(前列右)

釣り好きの横山さんが「釣った魚を新鮮なままでもっと長く保存できないか」という思いからスタートした研究。紫外線や赤外線など多様な波長を魚に照射し、どの光が保存に効果的か、粘り強く実験を繰り返しました。
研究テーマ:落花生の薄皮を利用した飲料の開発
渋谷学園幕張中学高等学校 藤木陽世さん

消費量が減少する落花生の価値向上を目指し、2022年から研究を開始。健康成分が豊富な薄皮を煮出し、茶葉をブレンドすることで渋みを抑えつつ、ポリフェノールの抽出効率が向上することを発見。今回は実用化を目指した課題解決に向けて試行錯誤しました。
これら高校生の研究に対して、中央研究所のメンバーがそれぞれの高校生チームのメンターとなり、チャットや面談を通じて研究の進め方などをサポート。「プログラムの応募以前から基礎的な研究を進め、論文を書いていたチームもあれば、「自ら仮説を立て実験をするのはこれが初めて」というチームまでさまざまでしたが、3組に共通するのは、自身が設定した課題に対する探究心です」(メンターを担当した中央研究所の青木風花さん)。

高校生3組と中央研究所のメンバーが集まり、オンラインで実施したキックオフミーティングの様子。月1回、チームごとにオンライン面談を実施し、研究を進める高校生からの質問や相談には、チャットを通じて随時アドバイスした。
実験が思い通りに進まないときもあきらめず、失敗の要因を一つずつ分析・特定していく高校生たちの熱心な姿を見て、「研究者としての初心を思い出し、新鮮な視点も刺激になった」と、メンターを担当したメンバーは口をそろえます。
成果発表会では「畜産VS.新たんぱく質」のディベートも
研究の成果発表会は3月25日、茨城県つくば市にある日本ハムの中央研究所にて行われました。
青木さんは「ほかのチームの研究内容について詳しく聞くのは私たちメンターもこの日が初めて。高校生たちによるプレゼンテーションを見て、それぞれのチームが試行錯誤を重ね、苦心しながら一つひとつ課題をクリアしていった過程がよく分かり、サポートした私たちも感無量でした。半年間という限られた期間でしたが、どのチームも「今後はこうしたい、こういうことを知りたい」という新たな目標ができ、次につながる有意義な研究ができたのではと思います」と振り返ります。

3組の発表が終わった後は、ディベート形式の特別ワークショップが行われました。ディベートのテーマは「畜産 VS. 新たんぱく質」。研究員と高校生たちの混合チームを結成し、「畜産推進派」と「新たんぱく質推進派」の二手に分かれて議論しました。
「持続的な畜産業のための新技術と新しいたんぱく質の開発、両方に取り組むのが私たちの仕事です。畜産業や細胞性食品などの背景知識について、それぞれ専門の研究員が高校生たちをサポートしながらディベートしたところ、大変盛り上がりました」と長谷川さん。根拠に基づいて自分たちの意見を述べる「立論」から始まり、相手チームの立論に対する「反論」、そして「最終弁論」と進めた本格的なディベートは、非常に白熱したものに。
あなたはどっち? 「畜産推進派」VS.「新たんぱく質推進派」
立論
まず、各チームは自分たちの立場を説明する「立論」を行いました。
畜産推進派
- 食べるためのたんぱく質だけを生産すると、副産物としての皮革がなくなる。ランドセルなどの革製品の文化が失われてしまう
- 日本は人口減だが、世界的には人口増。畜産業は重要な雇用創出にもなる
- 畜産は先進国のように設備が整っていない国の人でもできる
- 技術的なハードルの高さは、現状日本で販売されていないことで証明されている
- 「クリスマスにチキンを食べる」といった文化に根ざした点にも価値がある
- 世界的なたんぱく質供給不足である「たんぱく質クライシス」を解決する現実的な方法としても畜産業を拡大していくほうが良い
新たんぱく質推進派
- いずれ畜産だけではたんぱく質供給が追いつかなくなるのだから、今のうちから技術開発を積極的に進めるべきだ
- 文化はいつでも変化していくものである
- 新しい味やおいしさに出合える、新しい食をデザインできる
- 新技術によって働く人が削減できると予想され、人手不足や後継者不足問題が解消できる
- 動物と違って病気(感染症)の問題がないので、安定供給できる
- 従来の畜産で発生する温室効果ガスによる環境への影響は甚大である


反論
続いて、相手チームの主張に対する「反論」が展開されました。
畜産推進派
- すでに肉がおいしいのだから、「新しいおいしさ」をわざわざ開発する必要はあるのか?
- 代替肉のように、いわゆる「オリジナル」である肉の味を真似るのなら、「肉」でよい。オリジナルは超えられないと思う
- 働く人の削減だけが正しいわけではない。仕事がない国もある
新たんぱく質推進派
- 合成皮革も今は一般的になっている。本革がなくなっても、ランドセルなどの文化がなくなるとは言えない。そもそも、「文化」は時代によって変化するものである
- 世界的に見ると人口増だが、今は日本の話をしている。日本に人手不足問題があるのは間違いない
- オリジナルの肉を超えられないかどうかは、やってみないと分からない


最終弁論
最後に、両チームが自分たちの主張をまとめる「最終弁論」を行いました。
畜産推進派
- 良質なたんぱく質だと理解していても、「昆虫食」には忌避感があるように、「新たんぱく質」もすべての人に受け入れられることはない。「食べたくない」という感情は残る
- 畜産の課題を解決する方法が「新たんぱく質」だけとは限らない。テクノロジーを活用して「畜産」の範囲内で解決すればよい
- 「新たんぱく質」はいつ実現するかも分からない
- 世界規模で考えれば、高度な技術や高額な設備投資が不要である伝統的な「畜産」の推進がたんぱく質の供給に最適である
新たんぱく質推進派
- 畜産が海外の雇用を創出できても、その肉を日本に輸入できるとは限らない
- 日本の食糧自給率の低さを解決できる方法は「新たんぱく質」だけだと思う
- 現状では受け入れられていない「新たんぱく質」も、SNSなどで認知が進めば受容されていくはず
- オリジナルの肉が至高とは限らない。新たなおいしさを見つけ出し、創出することが我々次世代の研究者の役目ではないか
「次世代研究者の手助けができてうれしい」
「ディベートで感じたのは、高校生たちのグローバルな視点」と長谷川さん。世界の人口が増えていくなかで、環境への負荷やたんぱく質の安定的な供給、雇用の問題など、社会課題について的を射た意見が次々に飛び出し、驚くとともに感心したそうです。
「高校生にはあまり身近とはいえない畜産業ですが、深く考えてもらえる機会になったのではないでしょうか。また、私たち研究員にとっても、彼らの研究に対する情熱と新鮮な視点は良い刺激となりました。普段の学校生活だけではなかなか体験できない、研究発表の“場”を若い世代に提供できたことを、日本ハムの社員としてうれしく思っています」(長谷川さん)。
今回の取り組みを通じて高校生たちの探究心と創造性が育まれ、それが未来の食を支える貴重な種となることを期待しています。日本ハムは今後も次世代の研究者育成を通じて、持続可能な「食の未来」を切り拓いていきます。