1 作る・届ける

世界に広がるラーメン文化を支える
日本ハムの「エキス」技術

ラーメンのスープや鍋の素、めんつゆやたれ、ソースなどの原材料には、「○○エキス」という言葉が度々登場します。エキスとは、水や熱水に溶け出した肉、魚、野菜などの旨みや香り成分のこと。今回は、この食品のおいしさを支える名脇役であるエキスに焦点を当て、ニッポンハムグループの取り組みをご紹介します。

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是川涼太
日本ピュアフード株式会社 事業統括本部 生産統括部 青森工場 食材製造課

2013年入社。エキスの抽出と調合、エキスの原材となる素材の処理、梱包などさまざまな製造現場を担当し、エキス製造現場の監督業を担う。

三田健史
日本ピュアフード株式会社 エキス・市販用商品室 室長

1996年入社。2013年から約10年間にわたり、台湾にあるグループ会社のエキス製造工場「醇香食品」に駐在し、アジア圏向けの事業に携わったのち、エキスの輸出業務を担当。

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日本ハムのエキスは鮮度が違う

ニッポンハムグループの中で、食肉加工と動物由来の畜産エキス製造加工の事業を担っているのが「日本ピュアフード株式会社」の青森工場です。青森工場の特徴は、なんといっても新鮮な原材料が常時手に入ること。工場のすぐ隣には、ニッポンハムグループの中で豚の処理・加工を担う「日本フードパッカー株式会社」の工場があり、車で1時間ほどの距離には、同じくグループ内で鶏の生産・飼育、処理・加工を行う「日本ホワイトファーム株式会社」の生産工場があります。

「豚と鶏、それぞれの処理工場からはエキスの原料となる骨や軟骨、脂などが常時出荷され、その日のうちに日本ピュアフードへと到着します。そこからすぐに畜産エキスを抽出し、スープストックや各種ブイヨン、たれやソース、ラーメンのスープや鍋の素、さらにエキスを使用した具入りスープやシチュー、そぼろなどの加熱加工品を製造しています」(是川)。

左から、エキス原料となる鶏軟骨と豚骨。これらを高温にして煮ることで中の水が対流し攪拌、水分と油分が自然に混ざり合い乳化され、白濁したエキスが完成する。抽出し終わった"出し殻"は動物のエサや肥料などに使う。

鮮度を意識したスープ作りは、生産から加工、販売まで、食の川上から川下までグループで一貫した事業を行うからこそできること。このように「生命(いのち)の恵みを余すことなく使い切る」取り組みを続けているのも、ニッポンハムグループの特徴です。もちろん、エキスを抽出したあとに残る「出し殻」も、決して無駄にはしないよう工夫を凝らしています。

「抽出後に残った骨は、粉末状に砕いてスープに加えるなどの用途に使用します。ざらっとした食感をあえて出すことで、おいしさを高める効果があります」(是川) また、肥料や飼料としてリサイクルする場合もあります。今ある生命をただ消費するのではなく循環させ、持続可能な社会の実現に少しでも貢献する努力を重ねています。

ベテラン技が生み出すエキス

畜産エキス製造では、原料となる骨の血抜きを行った後、粉砕し、水や野菜などと一緒に釜に仕込むことで始まります。その後は加熱でアクを取り、沸騰後に抽出します。 青森工場が採用している方法は大きく分けて3種類。1つは、あっさりとしたスープになる「常圧抽出」。もう1つは、白濁した白湯スープができる「攪拌抽出」。そして、大きな圧力をかけて短時間でつくる「加圧抽出」です。

メニュー例

  • 醤油・塩ラーメン
  • 中華系・洋風系スープ
  • フォーなど

メニュー例

  • 豚白湯ラーメン
  • 鶏白湯ラーメンや鍋
  • 火鍋用スープなど

メニュー例

  • 日本ハムでは牛骨スープなどの抽出に使われる

いずれも高温で加熱しますが、製造量がもっとも多い常圧抽出は、一昼夜じっくり加熱を続けます。人間の生活時間に合わせて製造を止めたり再開したりできないので、点検や清掃も兼ねて工場を休ませる日曜日以外、工場は休みなく稼働しています。
「ここでは、ベテランの職人技が必須となります。重い原料を移動させたり、粉砕したりといった作業は機械でもできますが、自動化が難しい工程が多いのです。原料の配合や細かい作業工程は季節やその日の天気などで変わることも多いので、マニュアルには落とし込めない内容も多いです。そのため、常にエキスの状態を目で見て、感触を確かめて確認を行います。人の手が加わらないと、良い品質のものをつくり続けられません」(是川)
また、青森工場ではお客様のニーズに合わせて、鶏や豚以外の原料や、独自の味わいを出すための副原料を加えたエキス製造を行うこともあり、そこにもベテランの技術は欠かせないと言います。

真空調理でしっとりやわらかく仕上げた「鶏レバー赤ワイン煮」など、お客様のニーズに合わせた惣菜商品も手がけています

「スープエキス」は、ラーメン店の救世主

同社のスープには、上記に説明した抽出方法の違いに加えて、野菜などさまざまな素材から抽出したエキスをブレンドした約50種類の規格商品が用意されています。お客様のご希望に沿ったオリジナルのスープも製造しています。その中で最も多く作られているのが、ラーメン用スープです。エキスの売り上げのおよそ6割を占めており、大手ラーメンチェーンから個人店用のスープにまで、さまざまな店舗で幅広く活用いただいています。
ラーメン店を運営する上で、一番の課題となるのがスープです。かさばる豚骨などを大量に仕入れ、何十時間も煮込む作業は大変な労力を伴います。
チェーン店の場合は自社でスープ作りを手がけるより、高品質のスープを大量・安定的に作れる体制と設備を持っている日本ピュアフードに製造委託する方が合理的として、早くからOEM製造を受けていました。
さらに近年は、小規模のラーメン専門店の認識も変わってきているようです。これまでスープと言えば「その道一筋のこだわりを持った店主が、長時間かけて炊き出す」ものと考えられていました。しかし、店主・スタッフの高齢化や人材不足、光熱費や周辺へのにおいの問題、ガラの廃棄処理など、繁盛するほどスープにまつわる課題が山積みに。そこでベースとなるスープは弊社のものを使い、それぞれが独自の味付けや工夫をしてオリジナルのスープを作る店も増えてきたのだとか。ラーメン店の働き方を助ける役割も担っているのです。

訪日外国人をトリコにする、ラーメン

さらに同社のスープは、ラーメンの文化を海外に広げる役割にも、大きく貢献しています。 ラーメンは、日本を訪れる外国人旅行者にも特に人気が高いメニュー。観光庁によると、訪日外国人が最も満足した飲食は、1位が肉料理(32.3%)で、2位が「ラーメン」(18.9%)、3位が「寿司」(14.5%)でした。ラーメンは2023年から7.9ポイント上昇しており、ラーメンに満足した理由には「おいしい」「食材が新鮮」「日本独特」などの理由が挙げられていました。

日本人の総人口は14年連続で減少し続けている反面、日本を訪れる外国人旅行者数は年々増加しています。2019年に3188万人だった訪日旅行者は、2024年には過去最高となる3687万人を記録しました。訪日旅行者は、日本の食文化を支える上で欠かせない存在となっています。
そんな彼らがお土産として選ぶのが、空港の免税店などで売っているお土産用のラーメンセットです。日本ピュアフードで輸出関連を担当する三田健史は、「ラーメンは、訪日外国人が『帰国後も楽しみたい日本食』としてぴったりくるもののようです」と話します。日本ピュアフードでは、「天下一品」「鬼金棒」「銀座 篝」などの有名店とコラボしたラーメンセットを販売しており、いずれも予想以上の売れ行きを見せています。「日本の有名店でおいしいラーメンを食べると舌が肥えて、今度は自国でも本物の味を食べたい、となるようです」(三田)

鬼金棒 カラシビ 味噌らー麺セット

銀座篝 鶏白湯 Sobaセット

海外に広がるラーメン店

三田は2013年から約10年間にわたり、台湾にあるグループ会社のエキス製造工場「醇香食品」に駐在し、台湾国内での製造、販売とアジア向け輸出事業に携わってきました。そんな中、台湾のラーメン事情の変化も肌で感じてきたと言います。 「台湾では日本のラーメンを『日式拉麺』と呼び、現地の麺料理とは区別して考えています。私が赴任した当初は、日本人がつくるラーメン店が少なく、日本人の舌に合うラーメンはあまりありませんでした。ですが、わずか10年の間で、本格的な日式拉麺専門店がものすごく増えました。値段も高くなり、当初台湾ドルにして1杯100ドルだったのが、専門店となると250ドル。それでも大人気です」(三田)。こうした日式拉麺専門店には、「味も素材もできるだけ日本に近づけよう」という傾向があるようです。こうした動きは台湾だけではなく、中国やアジア諸国、そして欧米にも広がっているのだそう。

そうしたなか、同社では海外向けのラーメンスープの輸出事業にも力を入れ始めています。例えば海外のお客様のご希望に沿った提案のひとつとして積極的に進めているのが、植物由来原料で味を再現した「プラントベース」のエキス。宗教上の理由から豚や鶏が食べられない方や、ベジタリアンの方などにも対応しています。「私たちのエキスは畜産主体ではありますが、コメを発酵させるなどして特長を際立たせています」(三田)。こうした商品は、特に欧州での需要が高まっています。

プラントベースの味付けラーメンスープ

「豚白湯スープ30」をベースにした「豚白湯30J」と「鶏白湯SP30」をベースにした「鶏白湯JO」。どちらも常温保存できる企画商品で、これらを組み合わせてオリジナルのスープを作ることも可能

また海外輸出を視野において最近開発したのが、「1年間の常温保存が可能」なスープです。無菌充填方式を採用し、バリア性のある包材を使用したことで、これまで冷凍で保存・輸送が当たり前だったスープの常識を大きく変えることに成功したのです。

食品を包装前に殺菌し、無菌の袋に充填・包装する方法のこと

「飲食店の中でも、ラーメン店は省スペースで開業できると言われています。冷蔵庫がいっぱいでスープの保管場所がないというお客様も多いため、スペースを取らずに保管できるようにしました。これは国内外を問わず、多くのラーメン店にご興味をいただいています」(三田)

中国料理を源流とし、日本において独自進化を遂げたラーメン。今や日本食を代表する美食の1つへと成長しました。同様に、ラーメンに欠かせない畜産エキスも、世界でも評価される時を迎えようとしています。

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