「季節の変わり目に負けない食事」
日本ハムのスポーツ事業推進部に所属する管理栄養士・兼・公認スポーツ栄養士が、北海道日本ハムファイターズ、セレッソ大阪、セレッソ大阪アカデミーの3つの現場で得た知見を活かし、毎日の「食の栄養」に関するお役立ち情報をQA方式で紹介します。
日本ハム株式会社
八巻法子(やまき・のりこ)・スポーツ事業推進部リーダー
2008年日本ハム入社、中央研究所にて同年シーズンより北海道日本ハムファイターズの栄養サポートを担当。2016年シーズンより主担当。
日本ハム株式会社
櫻井郁美(さくらい・いくみ)・スポーツ事業推進部
2019年日本ハム入社、中央研究所にて北海道日本ハムファイターズの栄養サポートを担当した後、現在は主にセレッソ大阪アカデミーの栄養サポートを担当。
第1回目のテーマは「季節の変わり目に負けない食事」。秋を迎えても夏のような暑さが残る日々があり、その疲れから、「やる気がでない」「疲労感が抜けない」「食欲がわかない」など、心身の不調にお悩みの方も多いはず。プロスポーツチームの管理栄養士ならではの視点から、季節の変わり目の疲れを乗り切る方法を紹介します。
1日3食を欠かさず食べ、「補食」と水分補給を意識しましょう。
主食・主菜・副菜をそろえた食事が基本です。体重減少が気になる方は、おにぎりやサラダチキン、バナナなどの補食をこまめに摂ることが効果的。食欲がない場合はゼリー飲料も活用できます。
炭水化物でエネルギーを確保し、複数の食品からたんぱく質を摂りましょう。
牛肉は鉄分、豚肉・大豆・卵はビタミンB群、鶏肉は抗疲労成分、魚はEPA・DHAと、それぞれ異なる利点があります。また、朝食でたんぱく質を摂ると睡眠の質も改善します。食が進まない方は、納豆や梅干しなど主食が進むアイテムを活用しましょう。
水分だけでなく塩分も一緒に摂り、尿の色と体重で脱水をチェックしましょう。
塩分なしで水だけ飲むと、体が「のどの渇き」を止めてしまい脱水が進みます。スポーツドリンクや経口補水液が効果的です。尿が濃い黄色~茶褐色の場合はすぐに水分補給を。運動前後の体重減少率は2%以内に抑えるのが目安です。
気候の変化対策×基本のキ
1日3食、欠かさず食べることからスタート
気候の変化によるバテの原因の1つは、食欲減退によるエネルギーと栄養不足。まずは1日3食、欠かさず食事を摂ることからスタートしましょう。必要なエネルギーや栄養素がしっかり確保できていないと、それらの症状の改善も見込めないからです。疲労回復においても、主食・主菜・副菜をそろえた食事は基本。ごはんやパン、麺などの主食は、糖質を効率よく摂取でき、回復のためのエネルギーの確保につながります。
CHECK
食事から摂れる水分量も多い
実は、日本人の1日の水分摂取量の大半は「食事由来」。「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、白ごはん1杯(150g)に含まれる水分量は90gで、食パン(6枚切り1枚60g)に含まれる水分量は23.5g。「朝食は白ごはん」という人は、効率的に水分を摂取できていることが分かります。「朝食はパン」という人は、パンに加えてスープや生野菜、果物などを摂取することで、水分量を増やすよう心がけましょう。
「補食」と水分補給に注目
猛暑がつづいた今年、「夏バテによる体重低下」はプロスポーツ選手にとっても重大な問題でした。夏場、体重減少が著しい選手には、補食と水分補給の重要性を伝えています。「補食」とは、普段の食事だけでは不足しがちな栄養素やエネルギーを補うための食事のこと。北海道日本ハムファイターズの選手たちは、その日の運動メニューに合わせつつ、おにぎりやサラダチキン、バナナや100%野菜ジュースを補食として活用することが多いようです。こうした補食をこまめに摂取することで、体重減少も防ぐことができます。
CHECK
食べ物が喉を通らないという方は、補食を小分けにして食べたり、喉を通りやすいゼリー飲料を活用したりするのもおすすめ。スポーツドリンクや経口補水液には、脱水や体調不良による体重減少を防ぐ効果も期待できます。
気候の変化対策×食事
疲労回復のためにバランス良く食事を取って
疲労を効果的に回復するためには、バランスの取れた食事が重要です。
まず、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を含む主食は、体と脳のエネルギー源となるため、疲労回復の基本となります。そして、肉や魚、大豆製品、卵などのたんぱく質を含む主菜も疲労回復には欠かせません。たんぱく質は筋肉の修復や疲労物質の代謝に必要な酵素の材料となるからです。またこれらの食品には、炭水化物とたんぱく質の吸収や働きを高めるビタミンやミネラルといった栄養素が多く含まれているものもあるため、複数の食品からたんぱく質を摂ることが大切です(下表を参照)。
ビタミンやミネラル、また食物繊維などの栄養素は、副菜となる野菜や、乳製品や果物などからも積極的に摂りましょう。ビタミンB群は糖質や脂質の代謝を促進し、ビタミンCは疲労回復を助ける働きがあります。
夏場の疲労対策として、夏野菜には体温を下げる働きがあるカリウムや水分が多く含まれているので、積極的に摂ることもお忘れなく。きゅうりやトマト、なすなどは、体の熱を取り除き、脱水による疲労を防ぐ効果も期待できます。
このように主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせることで、効率的な疲労回復が可能になるのです。
CHECK
たんぱく質を含む食材に含まれる栄養素と利点
納豆や梅干しなど、主食が進むアイテムを
どうしても食が進まないという方は、自分が好む主食(冷たい麺やシリアルなど)に、納豆・梅干し・とろろ・ジャムといった、主食を食べ進めやすくするアイテムを組み合わせるといいでしょう。これらのアイテムには、エネルギー代謝に関わる栄養素であるビタミンB群やクエン酸などが含まれているため、疲労回復の相互作用も期待できます。いも類や果物など、糖質が豊富に含まれた食品を摂るのも良いでしょう。
食べやすい味つけの工夫も大切。適度に酸味や辛みがきいたもの、薬味・香草・スパイスなど香りが強いものを取り入れた、ごはんが進む濃い味つけのメニューもおすすめです。
CHECK
選手の好きな味付けは塩味
選手たちには、自分好みの味つけや、食べると元気になるメニューを把握してもらい、食事を準備する人にそれを伝えるよう指導しています。選手によって違いはありますが、塩やわさびしょうゆといったあっさりした味付けが人気のようです。
朝食からたんぱく質を摂取しましょう
バテからの回復のキーとなるのが、「規則正しい生活」と「質の良い睡眠」です。朝食でたんぱく質を含む主菜(納豆やチーズなど)を食べると、必須アミノ酸の一種である「トリプトファン」が体内に取り込まれ、睡眠の質を改善する「セロトニン」や「メラトニン」の材料になります。
CHECK
田中正義投手は「8時間睡眠」で夏バテを予防
ファイターズの田中正義投手は、「疲労回復のためには睡眠時が一番だと思っています」と話します。田中選手の睡眠時間は8時間がベストで、短くても7時間は眠るように心がけているのだとか。「睡眠の質を落とさないように、寝る際は部屋の空調を一番過ごしやすい温度に設定し、暑くて途中で起きてしまわないよう、朝までつけています」と教えてくれました。
脱水症・熱中症対策×スポーツ
水分に加えて、塩分もしっかり摂るのが大事
熱中症は、夏だけに起こるとは限りません。汗をかいているのに水分補給を怠ると、体内の「脱水」が進んでしまい、「発汗」が妨げられます。すると熱が放散できなくなり、体温が上昇し、ひどくなると熱中症を起こしてしまいます。そのため、スポーツドリンクや経口補水液を用いた適切なタイミングでの水分補給が重要です。
汗をかくと水分だけでなく塩分も排出されます。塩分に含まれる「ナトリウム」というミネラルは、細胞の機能を維持するために必要不可欠の存在。塩分が排出されると体液が濃縮され、浸透圧が高くなります。浸透圧が高い状態で水分だけを摂取すると、体液の浸透圧が低くなりすぎて、それ以上体液が薄まらないように体が「のどの渇き」を止めてしまいます。その結果、体の水分量が元に戻らず、脱水症状が余計に進んでしまうのです。
尿&体重で脱水の度合いをチェック
脱水の度合いは、尿&体重をチェックすることで分かります。通常の尿は薄い黄色~透明ですが、身体の水分量が不足している場合は濃い黄色~茶褐色に変化するため、ただちに水分補給を行う必要があります。
CHECK
以下の表を参考に、尿の色をチェックしてみましょう。
| ① | いつも通りに水分を摂りましょう |
|---|---|
| ② | 問題ありませんが、コップ1杯程度の水分を摂りましょう |
| ③ | 1時間以内に約250mlの水分を摂りましょう 屋内、または発汗していれば500mlの水分を |
| ④ | 今すぐ250mlの水分を摂りましょう 屋内、または発汗していれば500mlの水分を |
| ⑤ | 今すぐ1000mlの水分を摂りましょう この色よりも濃い、あるいは赤/茶色が混ざっている場合、脱水症状以外の可能性が。すぐ病院に行きましょう |
水分補給の目安は、運動前後の体重の減少率が参考になります。運動前後に体重をはかり、体重の減少率を2%以内に収めるようにするのがベストです。
脱水症・熱中症対策×水分補給
自分が飲みやすいスポーツドリンクを探そう
スポーツドリンクは自分で手作りすることもできます。その場合は、上記の分量を参考にしましょう。
スポーツドリンクには適度な塩分と糖質が含まれています。食塩濃度0.1~0.2%に加えて糖質濃度3~8%が含まれていると、体への吸収率が高まり、効率的な水分補給ができると言われています。「スポーツドリンクは甘くて苦手」という方は、水にプラスして塩飴(タブレット)でのナトリウム摂取を意識しましょう。
ただし、大量の発汗や脱水のおそれがないなかで、スポーツドリンクを水分・ミネラル補給源にすることは、食塩・糖類摂取量の観点によりおすすめできません。気温・湿度・体調・運動時間・運動量などから、発汗や脱水の可能性がある場合にのみ利用しましょう。
あまりおすすめできません
お茶やコーヒー、エナジードリンクなどのカフェインを含む飲み物は、運動前に適切な量を飲むのであれば、リラックスや集中力アップなどの効果があります。しかし、カフェインには利尿作用もあるため、運動時の水分補給として大量に飲むには不適切です。
また、ゴルフをされる方の中には、休憩時にお酒を飲んで、その後もプレーを続ける方がしばしばいますが、アルコールの利尿作用はカフェインよりもさらに強く、脱水症状が起こりやすくなります。どのような環境でプレーしていても、熱中症のリスクはあると考えられるため、運動中だけでなく前日の飲酒も控えるのが賢い選択です。
高強度の運動例…ランニング、ジョギング、登山、水泳など
低強度の運動例…ウォーキング、ストレッチ、ヨガなど

