3 たんぱく質で健康に
専門家に聞く「量・タイミング・内容」のポイント

効率よく筋肉を増やすコツは
「プチ筋トレ×たんぱく質」

動ける体を維持するだけでなく、肥満や生活習慣病の予防、認知機能の改善など、幅広い働きを持つことが近年明らかになってきた筋肉。筋肉の量を今より増やすことで、年齢や性別を問わず、健康で若々しい心身の機能やはつらつとした見た目を手に入れることができます。そのために欠かせないのが、「たんぱく質」と簡単な「筋トレ」。
そこで、NHK「みんなで筋肉体操」でもおなじみの運動生理学者・谷本道哉先生に、筋肉を効率的に増やすために、どんなたんぱく質をどのくらいの量、どのタイミングで摂取したらいいのか、などのポイントをうかがいました。

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谷本道哉先生
運動生理学者 順天堂大学スポーツ健康科学部教授

1972年静岡県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科の石井直方研究室で学び、博士課程を修了。トレーニング生理学やバイオメカニクス研究のかたわら、小学生時代から続ける筋トレの知識を生かし、NHK「みんなで筋肉体操」の監修も担う。大きな負荷をかけず少ない自重で行うトレーニングを推奨し、そのメリットを広める“プチ筋トレの伝道師”でもある。

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筋肉は“生きる力の強さ”を表す指標。
脳や内臓の機能も調整

「筋肉は裏切らない!」「あと2回しかできません!」など、くすっと笑える激励ワードと、ケガのリスクが低い自重を使った“プチ筋トレ”で、世に筋トレ旋風を巻き起こした順天堂大学教授の谷本道哉さん。筋肉の量を、「その人の“生きる力の強さ”を表す指標」と表現します。
筋肉が、立つ・歩く・走るなどの動作を可能にし、“動ける体”を維持する役割を担っているのは広く知られるところ。
「実は、筋肉の働きはそれだけにとどまりません。驚くほど多彩な役割を果たし、私たちの健康を土台で支えてくれています」

“運動機能の維持”以外に、筋肉は「内臓や骨格を外部の衝撃から守る」「血管を収縮させて血液を心臓に戻す」「エネルギーを産生して基礎代謝を上げ、体を温める」「糖質をエネルギーとして貯蔵する」などの働きをしてくれています。
さらに近年は、運動時に筋肉から分泌される生理活性物質が、脳や肝臓、骨、脂肪などの全身の臓器と連絡を取り合って糖や脂肪の代謝を調整する働きをしていることが分かってきました。筋肉から分泌される生理活性物質が、肥満や生活習慣病を予防したり、脳の神経細胞を育てたり、認知機能を改善したりしているというのです。免疫機能、抗がん作用を高めることも分かっています。

筋肉が担う多彩な役割

脳を含む全身の健康を守る“司令塔”ともいえる筋肉ですが、筋肉量のピークは20~30代で、健康な人でも使わないでいると年々減少してしまいます。
「とはいえ悲観する必要はありません」と谷本さん。「方法さえ適切なら、筋肉の量は何歳からでも増やせます。筋肉を鍛えるのに遅すぎることはありません」。

「たんぱく質の同時摂取」で筋肉増大。ただし適正なたんぱく質量がある

筋肉を増やす方法として、まず思い浮かぶのがスクワットなどの筋トレでしょう。そもそも筋肉は、筋線維と呼ばれる細長い細胞が束になったもの。筋トレにより1本1本の筋線維が太くなることで、筋肉は大きくなります。
「ただし、筋トレを行うだけでは、その効果を十分に引き出せません。たんぱく質をしっかり摂ることも重要です」。

筋肉は、運動の刺激に対して合成反応が進みます。大きく強くなることで、その刺激に適応するわけです。
筋肉の主成分は、20種類のアミノ酸で構成されるたんぱく質。筋肉の合成反応をしっかり進めるには、材料となるたんぱく質を充分に補充する必要があるのです。
「このとき、たんぱく質がタイミングよく補充されないと、筋肉を合成するための材料が不足します。筋肉は常に分解と合成を行っています。材料が不十分では分解が合成を上回り、ともすると筋トレしているのに筋肉が減ってしまうということになりかねません。」

筋トレの努力を無駄にしないためには、たんぱく質を同時に摂取することが必要。そう聞くと、つい、たんぱく質を大量に摂りたくなりますが、「たんぱく質を摂れば摂るほど筋肉が増えるわけではありません。摂りすぎは体に悪影響を及ぼしてしまうこともあります」と谷本さんは警鐘を鳴らします。

食事で摂ったたんぱく質は、体内でアミノ酸に分解され、吸収されます。その使われ方は主に、

  • 筋肉、臓器、血管、皮膚、爪、毛髪などを構成するための栄養素「体たんぱく質」の合成に使われるもの
  • 体を動かすエネルギーになるもの
  • 脂肪として蓄積されるもの

の3種類です。

1の体たんぱく質の合成に使われるたんぱく質の量には上限があり、超過した分は2以下に回されます。超過分が2に使われるのはいいものの、3に回るとやっかい。たんぱく質なら太らないなんてことはありません。なお、1もその後分解されて2、3に回ります。ただし、たんぱく質に含まれる窒素や硫黄は2、3に使えませんので、アンモニアなどになり、それを処理する必要が生じます。だから過剰なたんぱく質は腎臓や肝臓の負担になるんです。
「だからこそ、そうした事態を招かないよう、筋肉の合成に必要なたんぱく質の量を把握し、適度に摂ることを勧めます」

体たんぱく質の合成に使われるたんぱく質の上限摂取量は、1日に体重1kgあたり2g弱とされます。体重50kgの人であれば90gくらいが上限です。また、1回の摂取での合成利用にも上限があります。
「上限量を超えた分は、合成に回らず無駄が生じます。研究によると、条件によりますが摂ったたんぱく質の合成率は10gくらいまでは一定でそこから下がり始め、20gを超えると合成量が頭打ちします。ですから、1食あたり10g以上、20~30gを上限に摂るのが賢い方法でしょう」

たとえば鶏むね肉4分の1枚(約60g)のたんぱく質量は15g程度。また木綿豆腐4分の1丁(75g)のたんぱく質量は約5g、納豆1パック(40g)のたんぱく質量は約6g、全卵1個のたんぱく質量は約7gです。
「このように、高たんぱくとされる食材をいくつか組み合わせれば20~30g程度のたんぱく質は一回の食事で問題なく摂れます。3食以外にも、ギリシャヨーグルトやスティックのかにかまなどをおやつとして食べるのもお勧めです。おやつの前に運動をして10g程度のたんぱく質をおやつで摂る、という手もあります」

たんぱく質が豊富なおすすめメニューの例

朝食ハムエッグ、ツナと豆のサラダ、ホットミルク、トースト
昼食鮭のムニエル、肉豆腐、クラムチャウダー、ごはん
夕食鶏むね肉のチーズ焼き、まぐろの刺身、油揚げ入りの味噌汁、ごはん
おやつギリシャヨーグルト、かにかまスティック、ナッツなど

日本人の食事パターンでは、朝食でたんぱく質をあまり摂らず、夕食でまとめて摂るケースも多いが、たんぱく質は蓄えがきかないため、3食コンスタントに20~30gのたんぱく質を摂れる献立を考えたい。ポイントは、魚介類、肉類、乳製品、卵、大豆製品の5つのたんぱく源のうち、いくつかを組み合わせること。おやつも、かまぼこ、ビーフジャーキー、ヨーグルト、プリン、おからクッキー、ナッツなど5つのたんぱく源から選ぶといい。

筋トレ直後のたんぱく質補給が、筋肉合成にブーストをかける

たんぱく質は摂取量だけでなく、「摂るタイミングもとても重要です」と谷本さん。理想は筋トレ→たんぱく質摂取の順番です。
「筋肉刺激を受けて合成が高まる筋トレ直後は、筋肉がたんぱく質を吸収しやすいゴールデンタイム。このタイミングを逃さずたんぱく質を摂取すると、筋肉合成がより進みやすくなります。筋トレ終了後、30分から1時間以内にたんぱく質を摂ることを目指し、筋トレ後の筋肉にたんぱく質を補充しましょう」

たんぱく質には肉·魚·乳製品などの動物性たんぱく質と、大豆製品などの植物性たんぱく質があります。同時に含まれる栄養素の多様性から、両方をバランスよく摂るのが良いでしょう。筋肉の合成に関しては、動物性のほうが比較的に有利といえます。
「動物性たんぱく質の方が、筋肉の合成を促すロイシンなどの分岐鎖アミノ酸(BCAA)が多いためです」

忙しい人が「筋トレ→たんぱく質摂取」を習慣化するコツ

ランチタイムの活用もおススメ

ビジネスパーソンなど忙しい人が「筋トレ→たんぱく質摂取」を習慣化するには、ランチタイムを利用した「プチ筋トレ」を取り入れるのも一考と、谷本さん。
「食べる店をあえて少し遠い場所にし、まずそこまで速足で歩きます。そして注文を待つ間にスクワットなどをこっそり(笑)行ってから、たんぱく質が豊富に含まれた昼食を食べるのです」
短時間の速足と筋トレだけでも、筋肉への刺激になります。その後に食事をすれば、摂ったたんぱく質を筋肉の修復や合成に無駄なく回せます。家で昼食を食べる人なら、おかずやスープをチンする合間に筋トレするのもいいでしょう。

過度な糖質制限は筋肉を細らせる。「糖質と一緒に摂る」が大切

筋トレ後にたんぱく質を摂る際には、「糖質も一緒に摂ることが必要です」と谷本さんは強調します。
「糖質を摂るとインスリンが分泌されます。すると体たんぱく質の合成反応にブーストがかかり、より効率的に筋肉を成長させることができるためです。反対に糖質が足りていないと、足りない糖質を補うために体が筋肉のたんぱく質を分解して糖質を作ろうとするため、筋肉の分解が進んでしまいます。
糖質が、動脈硬化などの原因となる血糖値の急上昇を起こす要因の一つになるのは事実ですが、極端な糖質制限を長く続けると、脂肪だけでなく筋肉も減少してしまいます。お菓子やジュースの制限はともかく、ごはんやパンなど、穀類の主食までカットするような極端な糖質制限は避けるべきです」

糖質のデメリットを抑えつつ、筋肉を増やすには、血糖値が上がりにくい食べ方を選ぶのが得策と谷本さん。
「白米を炊くときにもち麦や雑穀を加えたり、精製度の高い白パンを全粒粉入りのパンに変えたりするほか、『おかずから食べる』『食物繊維が豊富なきのこ、海藻、豆類などを積極的に食べる』といった食べ方の工夫により、筋肉合成に欠かせない糖質をきちんと摂りながら、血糖値の上昇を緩やかにすることは十分可能です」

筋肉の合成に、なぜ糖質が必要?

糖質を摂ると血糖値が上昇し、血中にインスリンが分泌されます。インスリンは血糖値を下げる作用を持つ一方、アミノ酸の摂りこみを促進する働きも持ちます。そのためたんぱく質と糖質を一緒に摂ると、体たんぱく質の合成がさらに進むのです。
糖質が脳のエネルギー源であることは、よく知られていますが、実は筋肉にとっても重要なエネルギー源。糖質が枯渇した状態だと、体はエネルギーを生み出すために筋肉を分解してしまいます。つまり糖質には、筋肉の分解を抑制する作用もあるといえます。
体たんぱく合成を促す作用と、筋肉の分解を抑制する作用。糖質が持つふたつの作用が、筋肉がより大きく成長することを助けているのです。

筋肉増強を邪魔する慢性炎症。知っておきたい予防策は?

筋肉を効率的に増やすためには、「筋肉の合成を促すプラス要因」だけでなく、「筋肉の合成を妨げるマイナス要因」についても理解しておきたいもの。谷本さんはマイナス要因の代表格が「慢性炎症」だと指摘します。
慢性炎症とは、腫れや痛みなど、本来は一過性で治まるはずの炎症が体内で長期間続き、慢性化した状態。慢性炎症は全身の組織にジワジワとダメージを与え、生活習慣病やがんなどさまざまな病気を引き起こす要因になるばかりでなく、筋肉の成長にも悪影響を与えることが分かっています。
「体内で慢性的な炎症が続くと、実は筋肉合成も抑制されます。せっかく筋トレをしてたんぱく質を摂っても、筋肉がつきづらくなります」と谷本さん。

慢性炎症を引き起こす代表格は、内臓脂肪の蓄積。ですから、減量して内臓脂肪を減らすことが、“自分でできる慢性炎症の予防策”となります。節酒も慢性炎症の予防効果を高めます。

「アルコールには、内臓脂肪の合成を高める強い作用があります。『糖質が含まれる日本酒、ビール、ワインと違い、糖質ゼロや糖質オフの発泡酒、焼酎、ウィスキーは大丈夫』という声も聞きますが、そんな都合のいい話はありません。アルコールを含む以上、どんなお酒でも飲んだ分だけ内臓脂肪は増えます。筋トレやたんぱく質摂取の努力をむだにしないためにも、やはり飲酒量は抑えるのが賢明だといえます」

ここまで筋肉を効率よく合成するためのたんぱく質の摂り方を紹介してきました。ポイントをまとめると以下のようになります。無駄なく上手にたんぱく質+プチ筋トレを実践して筋肉を増やし、あなたの“生きる力”“健康力”を高めてください。

  • タイミング=筋トレ後、30分~1時間以内が理想
  • 量=1回あたり、10g以上。20~30g程度までが目安。摂り過ぎても筋肉増強にはつながらない
  • 食べる内容=動物性たんぱく質のほうが、ロイシンが多いため、筋肉増強にはやや有利。糖質も一緒に摂る
  • 節酒=内臓脂肪を減らし、慢性炎症を抑える生活習慣

谷本先生監修の、オフィスや家庭で行える「たんぱく質体操」動画を、リンク先から公開中です。

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