3 たんぱく質で健康に
改めて見直す 大切な筋肉とたんぱく質の関係

質の良い筋肉を手に入れ、維持するには
毎日3回の“食事”でたんぱく質を

筋肉は、身体を動かすために必要なだけではありません。エネルギーを消費して肥満や生活習慣病を予防する、身体に水分を蓄える、全身の健康に寄与するさまざまな物質を作り出すなど、多様な役割があることがわかってきました。身体活動と食事が健康に及ぼす影響について長年研究する早稲田大学スポーツ科学学術院教授の宮地元彦先生に、筋肉の必要性や、効果的に筋肉を形作るための食事や運動について、管理栄養士でもある日本ハム・スポーツ・エンターテイメント事業部の八巻法子リーダーがお話を伺いました。

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宮地元彦先生(左)

健康・スポーツ科学の研究者 早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授
鹿屋体育大学スポーツ体育課程卒業、同大学大学院体育学研究科修了。その後、川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員を経て、2003年より独立行政法人国立健康・栄養研究所(現:国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)に勤務。2021年より現職。身体活動と食事が健康に及ぼす相互作用を生理学、疫学の手法を用いて研究。第24期・25期日本学術会議会員、厚生労働省の健康づくりのための身体活動基準・指針の改訂に関する検討委員、スポーツ庁運動・スポーツガイドライン策定検討会委員などを務める。

八巻法子(右)

公認スポーツ栄養士。2008年日本ハム入社、中央研究所にて同シーズンより北海道日本ハムファイターズの栄養サポートを担当。現在は、スポーツ・エンターテイメント事業部に所属、栄養サポートや食育活動、商品企画に携わっている。

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筋肉にはさまざまな機能がある。
水を蓄え、全身を調節する役割も

八巻(敬称略、以下同様):そもそも私たち人間(ヒト)にとって、なぜ筋肉が必要なのでしょうか。

宮地:大切な問いかけですね。ではまず、筋肉の役割についてご説明します。
筋肉は、立つ、座る、移動するなど、あらゆる動作に必要な器官で、特にスポーツをする人はその大切さを実感しているでしょう。こうした動作のほかにも、筋肉にはたくさんの重要な役割があります。その一つが、エネルギー消費です。現代人は過食になりがちで、それによる生活習慣病や循環器疾患が増えています。筋肉を適切に動かす、つまり運動することで摂りすぎたエネルギーを消費し、肥満や糖尿病などになりにくくできるのです。

もう一つの役割が、身体に水分を貯蔵することです。成人男性では体重の約60%、成人女性では体重の約55%が水分でできています。身体の中の水分というと、「血液」を思い浮かべるかもしれませんが、その量は体重の約7~8%と言われています。体重70kgの男性なら約5リットル、血液1リットルの重さは約1kgなので、5kgになる計算です。一方、筋肉の約5割は水分です。実は、全身の約25%の水分が筋肉に蓄えられており、血液の3倍以上の水分は筋肉にあります。体重70kgの人なら、18リットルに相当する量です。筋肉はいわば貯水池です。夏場、高齢者や子どもが熱中症を起こしやすいのは、水の貯蔵庫である筋肉が少ないことが関係しています。

加えて筋肉は「内分泌器官」としての役割もあります。内分泌器官とは、ホルモン(生理活性物質)などを合成、分泌する器官のことです。近年の研究で、筋肉が「マイオカイン」と呼ばれるさまざまな物質を分泌していることがわかってきました。例えば、あるマイオカインは筋肉への糖の取り込みを増やして血糖値を安定させたり*1、またあるマイオカインは脂肪を溜め込む「白色脂肪細胞」に作用して、エネルギーを燃焼する「褐色脂肪細胞」に変化させたり*2、認知症*3やがん抑制*4に関係するマイオカインがあることも動物実験などでわかってきました。さらに、運動中には、脂肪組織や肝臓など、さまざまな組織からもホルモン(生理活性物質)が分泌されることもわかってきました。

マイオカインの役割

これらの筋肉の作用を考えれば、今注目されているサルコペニア*5やフレイル*6が問題になる高齢者ばかりでなく、子どもから大人まで全ての人は、適切な“量”の、“質”の良い筋肉を持っている必要があることがわかります。

八巻:筋肉は量だけでなく、質も大切なのですね。では、質の良い筋肉とはどのようなものでしょうか?

宮地:さきほどご説明したように、筋肉は多くの水分を貯留しています。筋肉中には糖(グリコーゲン)が存在しますが、糖には保水作用があり、筋肉中に水分を保つ役割を果たしています。また、糖は筋肉へのエネルギーの供給源でもあり、運動能力の維持にもつながります。これに対し水分量が少ないいわば“脱水”した筋肉は、エネルギー供給の面で筋肉の収縮と弛緩が不十分になり、十分なパフォーマンスが出せない。そればかりか、ケガをしやすくなってしまいます。つまり、質の良い筋肉とは、十分な水分を保持した状態の筋肉といえます。良い筋肉を作るには、身体にしっかり吸収させるため、こまめに水分摂取を心がけることが大切です。

八巻:確かに、北海道日本ハムファイターズの選手も日常的に水分摂取には気を使っていますが、単に身体全体の脱水予防だけでなく、筋肉の質向上によるパフォーマンスアップにもつながっているということですね。

*1Curr Opin Rheumatol. 2016 Nov; 28(6): 661-6, doi: 10. 1097/BOR.0000000000000337. PMID: 27548653.
*2Nature. 2012 Jan 11;481(7382):463-8. doi: 10.1038/nature10777.
*3Nature Metabolism, 20 Aug 2021, 3(8):1058-1070
*4Med Sci Sports Exerc. 2017 Sep;49(9):1805-1816. doi: 10.1249/MSS.0000000000001312.
*5加齢による筋肉量の減少や筋力の低下のこと。疾患として捉えられている。
*6加齢により心身が老い衰えた状態のこと。身体的、心理的、社会的フレイルがあり、これらが連鎖して老いや衰えが進む。

たんぱく質は「食事」で摂る。
朝食は抜かずに1日3食+おやつを。

八巻:筋肉の質と量を保つためには、どのような栄養素を、どれくらい摂れば良いでしょうか?

宮地:まずは筋肉の主な構成成分であるたんぱく質を「食事」から摂ることが大切です。まず、最近の研究から少量でもたんぱく質摂取量を増やすと筋肉量の増加につながることがわかっています*7。筋肉トレーニングをしている人の場合、たんぱく質摂取量が多いほど筋肉量が多くなります。一方、筋力トレーニングをしていない人では、1日の摂取量が1.3g/kg体重を超えると筋肉量の増加が抑えられてしまいます。そもそもたんぱく質の摂りすぎは、肝臓や腎臓への負担が大きくなり、不調につながります。また、特定の腸内細菌が増え、健康に悪影響を与えることもあります*8。アスリートではない一般の人の場合、1日のたんぱく質摂取量は1.3g/kg体重を目指すのが良いでしょう。体重60kgの人なら、1日78g程度です。

また、筋肉をつけるというと、糖質や脂質を抑えたくなる人も少なくないようですが、それは間違いです。筋肉が収縮、弛緩をするには、筋肉組織中にある程度エネルギー源になる糖(グリコーゲン)や中性脂肪が存在している必要があります。また、筋肉を包む筋膜がスムーズに動くためにも脂質が不可欠です。自分の年齢や活動量に合わせ、「日本人の食事摂取基準」で必要とされる炭水化物(糖質)や脂質もたんぱく質に加えて適切量摂ることが、筋肉づくりには大切です。

さきほどたんぱく質は「食事」から摂ることが大切、と言った理由はここにあります。食事から栄養を摂取すれば、暴食しない限り一般の人の過剰なたんぱく質摂取を防ぎ、糖質や脂質もバランス良く摂ることができます。

さらに「食材」にはたんぱく質や脂質・糖質だけではなく、ビタミンやミネラルなど、人間が生きていくうえで欠かせないほかの栄養素も含まれています。

たんぱく質は筋肉を作るだけではなく、臓器、毛髪、皮膚、爪、細胞、血液、ホルモンなどの材料となっています。たんぱく質を効率よく体に取り込んで体の一部とし、健康を保つためには、肉や魚·乳製品·豆や大豆製品など動植物由来の食品に含まれている栄養素の働きも重要なのです。

八巻:食事で摂る際には、たんぱく質は毎食均等に摂ることが推奨されていますね。

宮地:筋肉は、食事でたんぱく質を摂取すると作られ(同化)、空腹時には分解されます(異化)。そのため、筋肉をつくるためには、できるだけ異化の時間が短い方が良いわけです。そのために、最低でもたんぱく質を3食に分けて摂る必要があります。避けてほしいのは、朝食を抜く1日2食という食事スタイルです。

筋肉は空腹時に分解される(イメージ図)

朝食はブレックファースト(breakfast)というように、夜間の断食(fast)を破る(break)する食事です。朝食を抜けば異化の時間が長くなるばかりでなく、起床時に分泌量が高まるストレスホルモンの作用もあり、あっという間に筋肉が分解されてしまいます。朝食では、たんぱく質はもちろんのこと、前述したように糖質や脂質もバランス良く摂るようにしてください。できれば、主食、主菜、副菜がそろった食事がおすすめです。朝食を摂るタイミングは、身支度などで少し身体を動かした後の起床から1時間以内がいいでしょう。

とはいえ、毎食食事を作るのは大変でしょう。無理なく毎食摂るには、調理がいらないたんぱく質源を揃えておくと便利です。例えばハムやソーセージ、サラダチキン、カニカマ、さつま揚げ、卵、豆腐、煮豆など。サバ缶やツナなどの缶詰もいいでしょう。デザートやおやつにヨーグルトやチーズを食べたり、飲み物をカフェラテやミルク紅茶、ソイラテにしたりする手もあります。食事の合間のおやつには、筋肉が分解される異化の時間を短くできる効果があり、筋肉づくりや保持に役立ちます。ちなみに、たんぱく質源を動物性、植物性にこだわる必要はありません。動物性たんぱく質はアミノ酸スコアが高いというメリットがあり、植物性たんぱく質では同時に食物繊維などを摂れる利点があります。たんぱく源を“これ”と決めずにさまざまな食材からバランス良く、毎食摂ることが大切なのです。

*7Nutr Rev. 2020 Nov 4;79(1):66-75. doi: 10.1093/nutrit/nuaa104.
*8腸内細菌学雑誌 27:203-209,2013

「ゆる筋トレ」を毎日行う。
運動のタイミングは「やりたいとき」。

八巻:筋肉を増やすには、運動も大切です。そのためのおすすめの運動方法や効果的なタイミングはありますか?

宮地:まずは自分の筋肉量を把握することが大切です。簡単なのは、定期的に体組成計で除脂肪量を確認する方法です。除脂肪量の減少は筋肉量の低下を表しており、たんぱく質を十分に摂れていないか、吸収できていない可能性があります。

また、下肢筋力をみる「立ち上がりテスト」がいいでしょう。高さが40cmの台や椅子に、両腕を組んで腰かけ、両足を肩幅程度に広げ、床に対してスネが70度ぐらいになるようにして、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒保持します。これができたら、片足でも同じことができるかを確認します。両足で立ち上がれない場合には、筋力やバランス能力の低下がひどく進行し、要支援や要介護が目の前です。片足で立ち上がれない場合には筋力やバランス力の低下が始まっているので、たんぱく質を含むバランスの良い食事と運動習慣が必要です。

立ち上がりテスト

それを踏まえてより良い筋肉づくりと筋肉量の保持、増量には、軽い筋トレと有酸素運動がいいでしょう。有酸素運動で心拍数が上がれば、筋肉に十分な血液が循環して質の良い筋肉づくりに役立ちます。一方、筋トレでは筋肉量の保持、増量が図れます。

筋トレでのおすすめは、スクワット、腕立て伏せ、へそ覗き腹筋、えびぞり背筋の4種類です。大切なのは、筋肉痛になるまで頑張らないことです。「あれ?ちょっと痛いかな、でもあと2~3回ぐらいはできる」と思うところでやめることです。筋トレは、筋力が強くても弱くても、同じように「ややきつい」から「きつい」と感じる程度の筋トレを行います。続けるうちに、きついと感じる回数が上がるので、自然に適正な運動が行えます。YouTubeを見る前、好きなテレビを見る前など、自分が行いやすいタイミングを決めて継続することが重要です。4種類を10回ずつ行っても10分もかかりません。筋肉づくりのための食事のゴールデンタイムは、運動後30分以内、夜より朝の方が効果的と言われていますが、時刻にこだわらず、できるタイミングで行うことが継続のコツです。

また、アスリートが筋肉をつけるときには、きつい筋トレを週2~3回、中2~3日開けて行うのがよいとされていますが、かなりの筋肉痛や疲労感を感じることになります。「ゆる筋トレ」なら毎日行えるため、筋肉の質を維持しやすくケガもしにくいでしょう。

適切な筋肉を維持するために大切なのは、朝起きて光を浴びて体内時計を整え、規則正しく食事をし、適度な運動を行い、夜は十分な休息をとるという自然のサイクルの生活なのです。

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