子どもの性格が「食べるもので変わる」って本当ですか?
小児科医として日々子どもたちと向き合う「赤坂ファミリークリニック」院長の伊藤明子さん。「子どもの体や心、そして脳の『気質=性格』は、食べたもので決まる」と話します。子どもたちが最善の健康状態を保とうと考えたとき、圧倒的に不足しているという、たんぱく質について伺いました。
赤坂ファミリークリニック院長 伊藤 明子(いとう・みつこ)さん
日本公衆衛生学会認定社会医学系専門医 小児科医
東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。一般診療に加え、栄養・食事療法、ストレス管理、(バイオフィードバック・ニューロフィードバック)での診療、障害のある子どもの診療を中心に行う。2児の母。「医師が教える 子どもの食事 50の基本 脳と体に『最高の食べ方』『最悪の食べ方』」(ダイヤモンド社)など著書多数
約7割が足りていない?子どものたんぱく質
昨今、高齢者のたんぱく質不足を懸念する声がよく聞かれますが、子どもたちについては心配ないのでしょうか。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」を見ると、例えば6歳(男子)の1日のたんぱく質推奨量は30g、14歳(女子)は55g*1。一方、実際の1日の平均摂取量は1~6歳(男子)が平均47.6g、7~14歳(女子)の平均が67.3g*2で、データ上は、いずれの年齢層も推奨量を上回っているように見えます。
これに対し、小児科医・公衆衛生専門医として、子どもの発達や栄養不良と向き合ってきた赤坂ファミリークリニック(東京都港区)院長の伊藤明子さんは次のように話します。
「国が提示している『推奨量』は『病気にならないギリギリの量』です。その人にとって最高・最善の健康状態とされる「オプティマルヘルス」の状態を目指すには、「推奨量」の数値を上回るたんぱく質の摂取を目指したいです。実際に当院に、何らかの悩み事・困りごとで受診する子どもたちの約7割が、たんぱく質不足であろうということが問診(食事についてのヒアリング)、血液検査、場合によって行う体組成検査で示されています」。
日本人のたんぱく質摂取量は、1995年にピークを打って(1日81.5g)、その後2011年に1日67.0gと減少していき、戦後間もない1950年代と同レベルまで低下しました。この背景には、菓子パンやインスタント食品などが普及し、特にバブル経済崩壊後に経済的理由もあり、安価な食品が入手しやすくなったことなどが背景理由として考察されています。その後、若干の増加はみられるものの、依然として2025年のデータでも1日70g前後と停滞しています。
日本人のたんぱく質摂取量の推移
日本人の1人1日当たりのたんぱく質摂取量の年次推移(総量)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html
不足するとどんな症状が出るの?気分や睡眠、集中力にも影響
「子どもたちの体や心、そして気質は、何をどう食べるかで変化する」と力説する伊藤さん。
受診する子どもの7割がたんぱく質不足に陥っている、という伊藤さんのクリニックの検査結果はショッキングな数字です。では、子どもたちはどんな悩みを抱えているのでしょうか。
「こだわりが強く偏食がある、些細なことでイライラしやすく、周囲とのトラブルが絶えない、注意力や集中力が続かない、不安感が強く、物音や匂いなどに過剰に反応してしまう、寝つきや寝起きが悪い、すぐに風邪をひいてしまう、などがあります。こうした不調や発達などの悩みの多くには、たんぱく質不足が関係していると考えています。
本人はしっかり食べているつもりでも、検査をすると不足が明らかになることも少なくありません。特に注意が必要なのは女の子。女の子は男の子よりも筋肉量が少ないことも影響し、また、女の子は小学校高学年になると月経で貧血リスクが上がるため、たんぱく質の摂取量が少ないと貧血リスクも上がります。
たんぱく質不足が疑われる子どもに多く見られる傾向
- 偏食(出された食事を食べない/特定のものしか食べない)
- 髪や皮膚の状態が悪い
- 痩せている(「ぽっちゃり」も要注意)
- 風邪などの感染症にかかりやすい
- 少しの怪我も強く痛がる
- 寝つきが悪く、朝もすっきり起きられない
- 落ち着きがなく、物事に集中できない
- いつも機嫌が悪そうに見える
- 周囲とのトラブルが目立つ
- 不安が強く、光や音、匂いなどを強く感じ取ってしまうなど刺激に敏感
たんぱく質は細胞や脳・神経伝達物質の原料
では、なぜたんぱく質が不足すると、こうした不調が出てくるのでしょうか。それは、たんぱく質が、筋肉や臓器、血液だけでなく、ホルモンや病気と闘う抗体、情報を伝える神経伝達物質、体内で多様な栄養素の働きを助ける酵素など、まさに人間の全身を構成する細胞や物質の原料だからです。
「例えば、脳内には、心を安定させるセロトニンや、やる気を生み出すドーパミンといった神経伝達物質がありますが、これらの原材料のひとつがたんぱく質(アミノ酸)です。セロトニンが不足すると、不安感が強くなったり、周りの音に敏感になったり、イライラしやすくなります。また、睡眠ホルモンである「メラトニン」が不足すると、寝付きや寝起きが悪くなり、睡眠の質が低下します。情緒の安定も損なわれてしまいます。
アミノ酸のバランスが崩れると、集中力が続かなくなったり、攻撃性が高まったりするという研究報告もあります」。
アミノ酸を原料として作られる神経伝達物質は、脳の神経細胞(ニューロン)の間でやり取りされています。「神経細胞がセロトニン、メラトニンといった物質をキャッチすることで、睡眠や情緒、記憶、認知機能などが適切に働くのです。たんぱく質不足でこの仕組みがうまく回らなくなると、情緒が不安定になったりするだけでなく、痛みを感じるボーダーライン(閾値・いきち)が下がって「痛みに敏感になる」といった身体的な影響も出やすくなります。痛みの閾値の低下には、グルタミン酸やアスパラギン酸などが関与しています」。
私たちがその子の性格だと思っているような、「友達に冷たくしてしまう」「イライラしやすい」「頑固」などの特性も、「実は脳の働きの現れであり、それは何をどう食べるか、の栄養状態で変わる部分があります」と伊藤さんは指摘します。
「体に入ってきたウイルスや細菌と戦う“抗体”も、たんぱく質から作られています。たんぱく質が不足していれば、どんなに気をつけていても、ウイルスに対抗する武器(抗体)を作ることができません。十分なたんぱく質摂取は、最適な免疫反応を引き出すために必要です」。
たんぱく質の主な働き
| 酵素 | 食物の消化・吸収・代謝などをサポートする |
|---|---|
| 構造たんぱく | 結合組織や細胞間で体の構造を支える(皮膚や髪、筋肉など) |
| 防御たんぱく | 細菌やウイルスなどを攻撃する抗体となり、免疫力を維持する |
| 調節たんぱく | 脳内ホルモンや成長ホルモンとして、体の成長や機能を調節する |
| 貯蔵たんぱく | 体内に必要な栄養成分(鉄分など)を貯蔵する |
主な神経伝達物質とその機能
| セロトニン | 気分、痛み、食欲、覚醒 |
|---|---|
| ドーパミン | 運動機能、気分、覚醒 |
| ノルエピネフリン | 覚醒、集中力、不安 |
| ヒスタミン | 食欲、覚醒、体温調整 |
| 一酸化窒素 | 覚醒、不安、記憶 |
| グリシン | 運動機能 |
後編では、メンタルの不調を抱える子どもたちの治療で実践されている食事療法の実際と、子どもの食事で知っておきたいたんぱく質の取り方について、伊藤さんに伺います。

