「子どものたんぱく質の摂り方」の気をつけるべきポイント
身体やメンタルの不調を抱える子どもたちに、食事療法と栄養中心とした指導を行う「赤坂ファミリークリニック」院長の伊藤明子さん。「たんぱく質をしっかり摂れる食事にすることで、子どもが穏やかになり、周囲とのトラブルが減ったと親御さんたちが報告してくれます」と話します。忙しい親御さんでも無理なく実践できる、たんぱく質摂取の工夫を紹介します。
赤坂ファミリークリニック院長 伊藤 明子(いとう・みつこ)さん
日本公衆衛生学会認定社会医学系専門医 小児科医
東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。一般診療に加え、栄養・食事療法、ストレス管理、(バイオフィードバック・ニューロフィードバック)での診療、障害のある子どもの診療を中心に行う。2児の母。「医師が教える 子どもの食事 50の基本 脳と体に『最高の食べ方』『最悪の食べ方』」(ダイヤモンド社)など著書多数
いつも機嫌が悪い子も、半年程度で穏やかに
赤坂ファミリークリニックの院長として、発達や栄養不良などの悩みを抱える子どもたちと向き合っている伊藤さん。伊藤さんが実施している治療は、たんぱく質やその働きを助ける微量栄養素を意識した日々の「食事改善」に、不足している栄養素をプラスする「栄養補給」のアプローチが中心だといいます。
「効果が現れるまでの期間は人それぞれですが、食事を見直して不足栄養素がしっかり摂取できると、半年ほどで「癇癪(かんしゃく)が落ち着きました」という声を親御さんたちからよく聞いています。」早いケースでは2週間ほどで変化が実感できたという例もあるといいます。
「例えば、当院を受診した小学6年生の男の子。食物アレルギーがあり、かつ強い偏食がありました。不安が強く人の声が気になって、学校で授業中に叫ぶ、などの行動が見られていました。食事の問診と血液検査で、鉄と亜鉛、ビタミンD、オメガ3、そしてたんぱく質の不足が判明しました。そこで、不足栄養素を治療用量で処方し、タンパク質を積極的に摂るようにしてもらったところ、約2週間したころに学校の先生から電話があって、『授業中に叫ばなくなったのですが、何かなさいましたか?』と聞かれたそうです」。
彼はその後も食事療法を継続したところ、半年程度で血液データにも変化が表れ、癇癪も落ち着き、勉強への意欲も増加したといいます。「このように、一見『気質』の問題に思えるトラブルに、たんぱく質や他の栄養素の不足が関係していることも少なくありません。栄養成分が細胞に作用するには、短期間で作用するものもありますが、食事の神経系への作用には3か月から6か月(あるいはそれ以上)かかるため、栄養改善にはじっくりと取り組むことが重要です」。
では、わが子がたんぱく質不足かどうかを見極める目安はあるのでしょうか。
「最も分かりやすいのは、“白いご飯とふりかけしか食べない”といった極端な偏食があるケース。でもそれだけではなく、“朝食はトーストとサラダ”“夕食はうどん”といった一見ありふれた食生活でもたんぱく質不足を疑う必要があります。トースト1枚あたりのたんぱく質量は約5.3gで、うどん1玉は約4.7g。これらのメニューでは、成長期に必要なたんぱく質量をまかなうことはできません」。
食パン
(6枚切り1枚60g)
たんぱく質5.3g
脂質2.5g
炭水化物27.8g
ゆでうどん
(1玉180g)
たんぱく質4.7g
脂質0.7g
炭水化物38.9g
スパゲッティ
(1束 100g)
たんぱく質12.9g
脂質1.8g
炭水化物73.1g
パンやうどん、スパゲッティといった主食は、たんぱく質が少なく糖質が多め。「最近は、1束で20g近いたんぱく質を摂取できる『高たんぱくうどん』や、エンドウ豆の粉末を練り込んだ『低糖質・高たんぱく麺』なども販売されているため、こうした主食を選択するのもおすすめです」
前回の記事の冒頭で紹介した、最善・最良の健康状態(オプティマルヘルス)を実現するには、「毎食、自分の手のひら(指先まで)いっぱい分のたんぱく質が理想」と伊藤さん。チーズ、卵、サラダチキン……など、1回の食事ごとに入っているたんぱく質食材を手のひらの上に並べた状態を想像して、チェックしてみてください。
また、国民健康・栄養調査で示されている1日に必要なたんぱく質の「目標量」はオプティマルヘルスに近い概念で、身体活動量別にその人に必要なカロリー摂取量の13~20%とされています。自分に合った具体的な数値は、身長や体重、年齢、身体活動量などから算出する必要がありますが、気になる方は、以下の計算機で調べてみることができます。
PFC計算機
※ 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に完全準拠した日本人向け計算式・活動レベルを使用しています。
摂取のポイントは?朝食抜かずバランス良く
量以外にも、気をつけるべき「たんぱく質の摂り方」のポイントがあります。
「たんぱく質は体内に貯蓄することができないため、一度にたくさん食べても、分解・排出されてしまいます。夕食にステーキを食べたからOKではなく、1日3食に分けて摂取することが大切です。特に注意して食べてほしいのが朝食。朝食で摂取したたんぱく質は、時間をかけて分解・吸収され、セロトニンなどの神経伝達物質へと変換されます。これらの物質が十分に分泌されることで日中の情緒が安定し、その日1日を機嫌よく過ごすことができます」。朝のたんぱく質摂取は、空腹ホルモン「グレリン」の分泌を抑制し、無駄な間食や「ドカ食い」を防ぐ効果も期待できます。
「朝食でたんぱく質をしっかり摂った人ほど、周囲の人に対して優しい態度を取ることができた」という研究結果*も報告されています。
「脳のご機嫌スイッチを入れるという意味でも、一日のたんぱく質の最初の補給タイミングという意味でも、朝食でたんぱく質を取ることが本当に重要なのです」。
朝、たんぱく質を摂取するコツ
伊藤さんが指導しているのは、いつもの味噌汁やスープに、卵やすりごま(大さじ1杯程度)、無添加のプロテインパウダーを加えること。高たんぱくヨーグルトやツナ缶など、便利な「+1たんぱく質」アイテムの活用も効果的です
動物性と植物性、どちらがいい?
アミノ酸の桶理論の概念図
2つ目のポイントは、動物性と植物性のたんぱく質を偏りなく、両方摂ること。
「大豆などの植物性たんぱく質は、動物性に比べてアミノ酸の含有量が少ないため、植物性だけに偏った食事だと、十分なアミノ酸が摂れません」。
このことを「アミノ酸の桶理論」で説明しましょう。
食材によってたんぱく質を構成するアミノ酸の量や種類は異なります。そして、図のように、摂取したアミノ酸の「板」がそろい、その高さが高くなるほど、たんぱく質を効率的に吸収することができますが、1枚でも低い板があると、そこからたんぱく質が流れ出してしまい、吸収できる全体量が減ってしまいます。ですから、アミノ酸スコアが低い植物性だけに偏らないよう、両方を組み合わせて摂るのがポイントです。
プロテインパッケージの考え方
もう一つ、「食材として摂る」ことも大切です。
「これは“プロテインパッケージ”と呼ぶ考え方です。たんぱく質が豊富な食材は、たんぱく質だけでなく、身体にとって重要な微量栄養素も一緒に含んでいます。例えば卵。白身はほとんどがたんぱく質ですが、黄身にはたんぱく質が少ない代わりに、鉄や亜鉛、コリンがぎっしりと詰まっています。肉には鉄が豊富ですし、魚には鉄のほかに、オメガ3という必須脂肪酸も豊富。このように、肉、魚、卵といったたんぱく質食材には、たんぱく質と一緒にさまざまな微量栄養素が“ひとまとめのパッケージ”として存在しているのです。
ですから、たんぱく質を十分に摂れていないということは、“プロテインパッケージ”そのものの摂取量が少ないことを意味します。たんぱく質が足りない子は、パッケージに含まれているはずの鉄分や亜鉛なども自動的に不足してしまうのです」。
食品だと、たんぱく質と一緒に他の微量栄養素も摂取できる
大切な微量栄養素の補給源でもある、肉や魚、卵などのたんぱく食材。食材からたんぱく質を摂ることの大切さは、ここにあります。
気を付けたいのは、成長が著しい乳幼児期と思春期
食事のとり方で、ライフステージごとに注意すべき点はあるのでしょうか?
伊藤さんは、「乳幼児期(生後6カ月〜)と、子どもの身長がぐんぐん伸びる思春期の『成長スパート』の2つの時期を重視してほしい」と話します。
乳幼児期(生後6ヶ月〜)
「離乳食がスタートする生後6カ月は、栄養失調になりやすい時期です。というのも、日本の伝統的な離乳食は“おかゆ”ですが、おかゆ中心のメニューでは、たんぱく質を中心とした栄養素が不足しがちになるからです。
最近は、『食物アレルギーが心配』といった理由から、離乳食へのたんぱく質の導入を遅らせる親御さんも少なくありません。しかし最新の研究結果*から、食品アレルギー発症リスクを軽減させるためには、むしろ生後5〜6カ月頃からたんぱく質を口から食べさせることを勧める方向に変わってきています。スマホの離乳食記録アプリなどを活用し、固ゆで卵やしらす干し、豆腐といったたんぱく質を段階的に取り入れていくことをお勧めします」。
この時期は、「ビタミンD欠乏症」にも注意が必要です。ビタミンDは日光に当たると皮膚で合成されますが、「日本では、過度な日焼け対策などでお母さんのビタミンDが不足し、それが母乳にも影響して、特に母乳育児の赤ちゃんのビタミンD不足が懸念されています。加えて、紫外線を嫌がって赤ちゃんを日光浴させたがらないお母さんも少なくありません。赤ちゃんのビタミンDが不足すると、骨が変形したり発育異常を起こす『くる病』になりやすいだけでなく、『鉄欠乏性貧血』のリスクも増加することが分かっています。ビタミンDは日光を浴びると体内で合成されますが、前述の卵黄やしらすなどのたんぱく食材にも多く含まれています*」。
思春期の「成長スパート」
身長が伸びる「成長スパート」の目安としては、男子は13~14歳頃、女子は10~11歳頃です。個人差はあるものの、約1年で15センチ伸びる子もいます。このように急激に身体が成長する時期は、たんぱく質の必要量も激増。子どもの成長スピードに合わせて、たんぱく質量も引き上げるのがポイントです。
「マイナス2歳」からの栄養も
さらに、「もうひとつ注意してほしいのが、赤ちゃんが生まれる前の期間。具体的には、受胎する前から妊娠中の期間のことで、特に『マイナス2歳』からの栄養が大切です」と伊藤さんは指摘します。妊娠前や妊娠中の栄養不足は、早産や低出生体重、お母さんの「産後うつ」のリスクを高める一因となるからです。
「母体が栄養不足だと、赤ちゃんに十分な栄養を届けることができません。妊娠中に体型維持のために食事を制限する妊婦さんもいますが、本当は妊活中から、赤ちゃんの身体を作るたんぱく質などの栄養がしっかり補給されるように、十分な食事を摂ってほしいです」。

