CHALLENGE

EPISODE. 01

挑戦エピソード01〈事業企画〉

高性能バイオ炭を活用した
畜産・農業の循環型経営に挑む

生産者の高齢化や飼料の高騰など、様々な問題を抱える畜産業界。食肉トップメーカーである日本ハムは、この状況を打開し、将来を見据えた新たな可能性を模索するためにR&D(研究開発)プロジェクトを発足した。S.M.が所属するチームでは、持続可能な畜産の取り組みをテーマに高性能バイオ炭の独自技術を持つ企業と連携し、2025年春から実証実験をスタート。豚糞の堆肥化工程における温室効果ガス発生を抑制するための技術的検証も進めていく。

このエピソードの挑戦者

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S.M.

食肉事業本部 管理統括部 事業企画室

2022年入社。国内食肉第二事業部 国内フレッシュチキン部 国内フレッシュチキン課にて研修を行い、2023年からは管理統括部 事業企画室 業績・付議チームに配属。事業企画職として主に食肉事業本部の経営・予算統制に関する業務、競合他社の情報収集や分析を担当。

PROJECT IMAGE

PJ.01

共同研究を行う
企業と出会う

2024年5月、持続可能な畜産・農業の取り組みをテーマにしたチームが発足。まずは、この分野の知見と実績のある共同研究企業を探していくなか、高性能バイオ炭の開発を手がけるスタートアップ企業と出会い、事業の青写真を描いていった。

PJ.02

社内外の関係者から
合意を得る

量産事業化を進める一歩として、グループ会社の農地を活用した実証実験を行うことが決まったが、新たな取り組みに懐疑的な意見もあり、多くの課題に直面。プロジェクトの意義やメリットを明確に伝え、2024年12月に最終承認を得た。

PJ.03

実証実験が
本格的にスタート

農地の土壌調査を行ったのち、2025年4月にはトウモロコシの育成状況や土壌改良などの調査を行う実証実験がスタートした。秋には豚糞の堆肥化工程における温室効果ガスの発生を抑制するための技術的検証にも着手する。

[ EPISODE.01 ]

持続可能な
畜産・農業をテーマにした
新たなプロジェクトが発足

「このプロジェクトは、既存事業の延長線上にはない新たな取り組み。そんな環境に身を置き、視野とスキルを広げたいと思い、自ら立候補しました。」
そう語るのは、事業企画室に所属する入社4年目のS.M.。日本ハムでは年に数々のプロジェクトを進めるなか、社内公募であえて知見のない若手をメンバーに加えている。これまでにS.M.はR&Dや生成AI活用のプロジェクトに参画してきたが、今回は食肉事業本部の将来を見据え、新たな事業の可能性を模索するものだ。
「持続可能な畜産業の実現は、食肉の生産から製造、販売まで一貫して行う日本ハムの強みを活かすことができます。さらに高齢化による人材不足、飼料の高騰といった畜産業全体の課題解決に貢献したいと思いました」
競争倍率は高かったものの、そんなS.M.の強い想いが伝わり、メンバーの一員に選ばれた。
2024年春にプロジェクトが発足し、チーム内で具体的な取り組みについて検討を進めた。そのとき、化成肥料を減らして微生物を活用する土づくりの話題が上がり、大学時代に学んだ微生物の知識を活かせると思ったS.M.は、その分野に興味を持つようになった。しかし、まったく前例のない事業のため、循環型経営の知見や実績のあるパートナー企業を見つけることが不可欠である。そこで得意先からの紹介、展示会に足を運び多方面から情報を収集し、次世代の循環型社会の実現をミッションに掲げる名古屋大学発のスタートアップ企業「株式会社TOWING(トーイング)」と出会った。
「直接お会いして打ち合わせを重ねましたが、これまでの実績はもちろん、スピード感や技術力、みなさんの強い想いがあり、お互いの課題や目標を共感し合うことができました。」
半年後にはTOWINGと共同プロジェクトの契約を結び、事業は本格的に始動した。

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[ EPISODE.02 ]

高機能バイオ炭を
活用した実証実験を行い、
大規模での実用化を目指す

TOWINGが開発した高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」は、もみ殻や樹木の剪定枝に加え、家畜糞も炭化物として使用することが可能。独自の技術により微生物を付着させた宙炭を化学肥料の代わりに撒くことで大気中に放出されるCO2の削減、家畜糞処理で発生する温室効果ガスの削減といったカーボンクレジット農業を実現。さらに微生物の力により土壌を改良することで収穫量の向上も期待できる。しかし、これまでの成功実績があるものの、大規模化するにはデータが不足していた。なおかつ土壌はそれぞれに特徴があり、気候や農作物の種類により効果は異なる。そこでリスクを回避し、確実に事業を成功させるため、ニッポンハムグループが所有する農地において、2つの実証実験を進める方向性が決まった。
1つは、鶏糞を炭化して生成した宙炭を活用し、トウモロコシの生育状況や土壌改良調査を行う栽培実証。もう1つは、豚糞の堆肥化工程による温室効果ガス発生の削減検証である。鶏糞と比べて豚糞は発生量が多く、処理コストや労力は大きな課題になっていた。処理方法の切り替えによる温室効果ガス削減量を試算し、目に見えるカタチで環境負荷の低減にも大きく貢献したいと考えたのだ。S.M.は早速、北海道のグループ会社の担当者にアポイントを取り、現地へと飛び立った。

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[ EPISODE.03 ]

多くの課題に直面。
理想だけではプロジェクトは
動かないことを痛感

S.M.は早速、北海道のグループ会社の担当者にアポイントを取り、現地へと飛び立った。そこで持続可能な農業・畜産業の実現に向けて実証実験を行い、循環型経営を推進していきたいと担当者に熱く語った。その想いには賛同してくれたものの、現実はそう簡単には進まなかったのである。
「従来の化成肥料と比べてコストは高く、畜糞に宙炭を混ぜる手間もかかります。生産コストの上昇は食肉の価格にも影響を及ぼすため、すぐに事業化というわけにはいきません。実証実験を行うメリットや事業の意義を明確に伝えなければ実現は難しい。理想と現実のギャップを痛感しました。」
長年、土壌成分の栄養素の過不足といった偏りに課題を抱える農場にとって、微生物の働きによる土壌改善が期待できるというメリットを訴求。さらに実証実験は、日本ハムが主導で行うことで合意をした。
その後は、プロジェクトの役員や社内の関係部署への説明に奔走したが、社内の理解を得るまでには、想像以上に膨大な時間と労力を費やした。「時間とコストのかかる実験は必要?」「どれくらい温室効果ガスの削減ができる?」「土壌改善のデータの信ぴょう性は?」と多方面から疑問や懸念が指摘されるなか、S.M.は専門分野の知識を深め、事業の意義とメリットを明確に伝えていった。
「温室効果ガスの排出削減量や吸収量を国が認証するJ-クレジット制度により、環境価値の見える化ができ、自社の実績やPR効果に繋がることを強くアピールしました。」
説明を重ねるごとにプロジェクトへの理解は深まり、12月には役員から実証実験の了承を得ることができた。残すのは最終決定権を持つ役員への事業説明である。直接のプレゼンに緊張を強いられたが、あらゆる質問にしっかりと答え、新たな挑戦をしたい強い想いを懸命に伝えた。この1時間は無我夢中だったという。その日のうちに承認が通り、S.M.は大きな壁を乗り越えたことに安堵したのだった。

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[ EPISODE.04 ]

主体的に行動し、循環型経営の
実現に向けた意義ある一歩を踏み出した

2025年1月以降は、契約や各種手続きに関する実務のほか、プロジェクトの進捗状況を毎月資料にまとめて定例ミーティングで報告を行い、実証実験の準備を進めていった。まずは土壌を採取して調査を行う予定だったが、その前日に北海道は今季一番の大雪に見舞われる事態に。しかし、採取が遅れてしまうと、その後の種まきや収穫の日程がずれてしまうため、現地の社員にも急遽除雪の協力をしてもらい、土壌採取をおこなった。その後は大きなトラブルはなく、3月に植えたトウモロコシは順調に生育している。
一方、豚糞の堆肥化については、これまでに要していた時間や人員、電力消費量、温室効果ガスの排出量をまとめて資料を作成し、必要な機材を準備。今秋から実証実験をスタートさせる予定だ。温室効果ガスの削減は社会全体が抱える課題。食肉業界のリードカンパニーである日本ハムが本事業に成功すれば、他社が取り組むきっかけとなり、持続可能な農業・畜産業の実現はもちろん、国産食肉の安定供給にも繋がる。
まだ、具体的な成果は出ていないが、「実証実験は循環型経営への大きな一歩であり、とても意義のあることです。自ら積極的に知識を学び、理解を深め、実務にも主体的に関わってきました。多くのみなさんに支えてもらいながら、使命感を持って挑むことができ、私自身の大きな成長の転機になりました。」とS.M.は語る。このプロジェクトは、これから食肉業界に大きな影響を与え、持続可能な未来を切り開いていくであろう。

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REFLECTING ON
CHALLENGES

挑戦をふりかえって

挑戦をふりかえって

今回のプロジェクトは、これまでの事業の延長ではない新たなチャレンジであり、自らの理想を実現する難しさを実感しました。その一方で、ニッポンハムグループ全体に影響を及ぼす大きなプロジェクトに携わり、若くして自分のやりたいことに挑み、貴重な経験と多くの学びを得られたことに心から感謝しています。これからも困難な課題に向き合い、持続可能な畜産業の実現と農業参入を目指し、挑戦を続けていきます。