トップメッセージ

変革

逆境こそ、わが道なり ──
ニッポンハムグループを再生する改革を全力で実行

代表取締役社長井川 伸久

ニッポンハムグループは、国内外で畜産業を営むと同時に、加工食品やチーズ、ヨーグルトといった生命の恵みからいただいた、動物性たんぱく質を中心に事業を展開しています。私たちは、人が生きるために欠かせない「たんぱく質」を供給する企業であり、「食」を通して「食べる喜び」をお届けし、人々の楽しく健やかなくらしに貢献することを使命としています。

当社のルーツは、1942年に創業者の大社義規が徳島でスタートさせた「徳島食肉加工場」にあります。大社は、戦災による加工場焼失や度重なる不況による販売不振など、逆境の連続を乗り越えてきた人物であり、座右の銘として「逆境こそ、わが道なり」という言葉を残しています。この言葉は、私の心にも強く刻み込まれており、これに倣って「逆境こそ、わが道なり」を経営マインドとし、厳しい環境を勝ち抜き、当社グループを再生する改革に全力で取り組んでいく所存です。

激変する外部環境に対応できなかった事実を受け止め、危機感を持って企業変革する

2022年度(2023年3月期)の事業利益は前年を大きく割り込む256億円(前年度比46.8%減)となりました。さまざまな外部要因が積み重なった結果ではありますが、非常に重く受け止めています。

また、急激な業績悪化の影響から株価も軟調に推移し、PBRも0.8倍(2023年3月31日時点)という状態となっています。こうした結果を真摯に受け止め、業績回復と持続的成長に向けた構造改革を加速させていく考えです。

2022年度は、原材料の急激な高騰に対して価格改定を行いましたが、お客様のニーズの変化を予測しきれず、需要変化への対応が後手に回ってしまいました。また、輸入食肉については、一昨年より続いていた入船遅れによる通関遅延に加え、コロナ禍による需要変動への適切な対応が遅れたことも、大幅減益の要因ととらえています。一方、豪州事業では、素牛価格の高騰や中国市況の悪化に対し、損失を最小限に食い止める対応ができたと考えています。

このような環境変化に迅速に対応するため、今期より各事業本部の主要KPIについて毎月の経営会議で進捗確認を行うとともに、進捗の遅れに対するキャッチアップ策を経営戦略会議メンバー全員で検討する体制を整え、V字回復に向けた取り組みを進めています。

一方、社会的価値向上に向けた取り組みについても、環境の変化への対応を加速しなければならないと考えています。当社グループのマテリアリティの一つである「たんぱく質の安定調達・供給」は、国内外で畜産業を営む当社グループにとって、事業を通じた社会課題の解決に向けた取り組みと位置付けています。「生きる力となるたんぱく質」をお届けするために欠かせない畜産業を持続可能なかたちに変革していくことに対しても、着実に取り組みを進めてまいります。

市場変化のスピードは速く、変化の方向もより多様化しています。現状のやり方の延長線上では生き残れない、と強く感じています。この危機感をグループ全体で共有し構造改革と成長戦略に取り組み、持続可能な企業に変革することが私の使命であり、全力を挙げて取り組んでまいります。

2022年、2023年3月期の実績と2024年3月期の計画

新たなステージに向け、構造改革に取り組む

「中期経営計画2023」の2年目となる2022年度の業績は、計画から大きく乖離しました。計画策定時には想定しえなかった環境の変化を乗り越え、新たなステージに向かうための指針となる、次期中期経営計画の策定を進めています。

次期中期経営計画は構造改革と成長戦略に集中する3年とします。全社視点で経営を一体化し、事業の優先順位を明確化、成長領域に経営資源を重点配分することで、最適な事業構成に変革していきます。この構造改革と成長戦略を通し、現中期経営計画策定時に掲げた700億円を超える2026年度の事業利益目標に対し、外部環境の変化を想定しながら、どこまでキャッチアップできるかの見極めを進めています。2024年4月1日から始まる次期中期経営計画の内容は、改めて皆様に公表します。

そして、2023年度は次期中期経営計画に向けた基盤づくりの1年とします。最大のテーマは収益力の回復であり、強みの強化と仕組みの変革に取り組み、事業利益380億円を必達します。

自前主義からの脱却を進め、自らが先導して構造改革を実践する

加工事業本部 ブランディング、マーケティングを強化

加工事業における競争優位の構築には、ブランディングやマーケティングが極めて重要となります。2022年度に取り組んだ加工食品の価格改定においては、お客様のニーズ変化への対応が遅れたこと、製造部門と販売部門の足並みをそろえた事業戦略が推進できなかったことにより、非常に苦戦を強いられました。

この仕組みを変革するため、2023年度よりマーケティング統括部を設立、お客様視点に立ったブランド戦略・マーケティング戦略の立案と推進、加工事業本部全体の収益管理に取り組んでいます。事業全体を俯瞰した視点で事業戦略を立案・推進するとともに、不採算商品の廃止や製造商品の拠点集約・見直し、製造工場の生産平準化に取り組むことで、最適生産体制の構築と利益を最大化する商品ポートフォリオの構築を加速していきます。

食肉事業本部 外部パートナーとの共創拡大

食肉事業については、利益を伴う販売シェア拡大に取り組むことが、現在の競争優位性をより強化することにつながります。そのためには、当社グループが保有する強みである、国内における豚・鶏の一貫生産体制を引き続き強化するとともに、「社外共創」にも取り組むことで、取扱数量を拡大していくことが重要です。

「自前主義からの脱却」にバランスよく取り組み、国内外の食肉メーカーとの共創関係を強化することで、環境変化に柔軟に対応できる調達体制を強化し、厳しい環境下でも効率的に稼ぐ力を高めていきます。

海外事業本部 ボラティリティの低減

グローバルに人口が増加傾向にあることから、海外事業比率を高めていくことは成長に不可欠です。海外事業においては、事業利益のボラティリティ低減に向け、加工品事業の比率を高めることが重要と考えており、人口増加も継続すると見込まれる北米における加工品事業の売上拡大に取り組みます。

北米加工品事業の課題であった製造能力については、昨年実施した製造ラインの増強などにも取り組んでおり、さらなる売上拡大が見込める体制が構築できております。研究開発や生産管理を行う人財の確保が重要であり、全社視点での人財配置やキャリア採用に取り組んでいます。

豪州事業については、利益率の底上げに向け、豪州牛肉の特長を活かしたブランディングと北米マーケットへの販路拡大に取り組んでいます。環境保全やサステナビリティの視点から商品やブランド価値をとらえることがますます重要になっており、高品質なグラスフェッドビーフなど、時代の要請に応じた新たな価値を創出していくことが重要だと考えています。

事業部の垣根を超えたシナジーを追求

私は先ほど、全社視点で経営を一体化していくと申し上げましたが、その取り組みの一つが、従来は独立して動いてきた各事業本部の戦略をクロスさせ、事業シナジーを発揮することです。

これまでの日本における食肉市場は、一人当たり消費量の増加に伴い、順調に拡大してきました。生産から販売までのバリューチェーンを自社で構築する当社のビジネスモデルは、市場成長の時代に合致し、十分な利益を生み出す原動力となりました。しかしながら、日本国内は人口減少フェーズに突入し、食肉やハム・ソーセージ市場は横ばい・縮小に転じています。こうした環境の変化を直視し、市場変化に対応した戦略に舵を切らなければ、成長できないことは明白です。新しい事業展開やバリューチェーンの強化・見直しを図り、新たなマーケットの開拓や競合との差別化に取り組まなければ、収益を伸ばすことなどできません。

こうした危機感から、2023年度よりグループ戦略推進事業部を立ち上げました。当社グループの新たな強みを創出するため、例えば加工事業と食肉事業が一体になった営業や物流施策の展開や、海外事業と国内事業が連携した食肉および加工品の輸出・市場開拓など、部門を超えた取り組みを加速させています。また、全社を挙げて取り組んでいるDX戦略の一つとして、食肉事業本部の販売会社が加工事業本部のコンシューマ商品全般を販売する取り組みにも着手しています。このように各事業本部の事業戦略に加え、全社横断視点で利益を生み出す仕組みを積極的に立ち上げることで、変革を加速させていきます。

新規事業分野への展開を加速

中計2023より立ち上げた新規事業推進部が中心となり、D2C(Direct to Consumer)ビジネスにも注力しています。「Vision2030」“たんぱく質を、もっと自由に。”では、2030 年に向け、「環境・社会に配慮した安定供給」に加え、「人々が食をもっと自由に楽しめる、多様な食生活を創出する」ことを目指しています。消費者のニーズは多様化しており、「みんなが買うもの」ではなく、もっとスペシャルな「自分らしいもの」を求める層がさらに増えると予測しています。

まずはD2Cビジネスとして立ち上げた「Meatful」を通し、多様化する食ニーズに応えるべく、さまざまなご提案を進めております。D2Cビジネスは新たなお客様の情報をキャッチする大きな触角であり、マーケティングの精度向上にもつながる重要な分野と位置付けています。

ニッポンハムグループが目指す今後の姿

最重要課題は「たんぱく質の安定調達と供給」

当社が最も重要視している社会課題は、「たんぱく質の安定調達・供給」です。この課題解決に真摯に取り組むことで、人々の心と体の健康にも貢献し、当社の企業理念にある「食べる喜び」の実現につながり、ひいては企業価値向上につながると考えています。

世界の人口が増加していく中で「たんぱく質の安定調達・供給」に取り組むためには、加工食品や食肉を中心とした既存のたんぱく質の安定供給に加え、既存のたんぱく質の代替となる新たなたんぱく質の開発・商品化が必要になります。

気候変動などの影響を受け飼料となる穀物の収穫量の伸び悩みが予測されており、将来的には世界的なたんぱく質需要の拡大に対し、既存のたんぱく質だけでは賄えなくなる、たんぱく質クライシスが予測されています。また、調達面では、日本の購買力が低下していることから、諸外国に買い負ける場面が出てきています。我々としては、国内外で取り組んでいる畜産業をベースに、既存調達先との関係を深化させると同時に調達先の多様化を国内外で進め、安定供給につなげていきます。

また、新たなたんぱく質が期待されています。当社では「細胞性食品(培養肉)」と、麹に着目したたんぱく質の研究を進めています。細胞性食品については、当社では培養液のコストダウンに成功しており、研究進捗に手応えを感じているものの、日本では法整備に時間を要することが想定されるため、まずは、麹たんぱくの商品化を加速させていきます。

ニッポンハムらしいサステナビリティとは

持続可能な社会の実現―サステナビリティに貢献していくために当社グループが取り組むべき課題は多岐にわたりますが、とりわけ、「アニマルウェルフェア」と「家畜由来のGHG削減」は、畜産業を営む当社が注力すべき課題と考えます。

現在、当社グループは、国内外で鶏を7,500万羽、豚を60万頭、牛を10万頭、生産・肥育しています。世界の食品企業の中でも畜産をここまで本格的に手掛ける企業は数社しかありません。

畜産に由来する課題解決の取り組みはまだ始まったばかりであり、当社グループだけで推進するには限界があるため、産学連携による共同研究や、アニマルウェルフェアの制度づくりも含め、畜産業界をはじめとするステークホルダーの皆様との共創視点で課題解決に取り組んでいます。

そして、サステナビリティの重要性を社会に発信し、ご理解いただくことにも努め、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

また、地域・社会との共創共栄にも取り組んでいます。当社は北海道に食肉の生産・処理、加工品製造の拠点を複数有しており、販売拠点も含めると、全拠点の約2割が北海道に集中しております。このご縁を活かし、北海道の地域の皆様との共創プロジェクトにも取り組んでいます。そして、2023 年3月には北海道日本ハムファイターズの新球場を含むエリア「北海道ボールパークFビレッジ」がオープンしました。今後は、この新球場を一つの起点にし、新たな価値創出に取り組んでまいります。

私は、サステナビリティに貢献し続けるためには、従業員一人ひとりの成長が欠かせないと考えています。当社の企業理念では、会社を「従業員が真の幸せと生き甲斐を求める場」として位置付けており、従業員一人ひとりが能力を精一杯発揮することが、自らの成長と社会への貢献につながる、と考えています。

そして、これからの難局を乗り越える人財をしっかりと育成するため、失敗を恐れず挑戦できる風土づくりに取り組んでいきます。

創業からの想いと総合力を価値基盤とし、逆境をチャンスととらえ私が全力で変革を断行する

事業環境が激変し、かつて経験したことのない難局を乗り越え、当社グループが10年後も20年後も成長を続けていくためには、企業の原点・礎を再確認することが極めて重要です。創業の精神に基づき、当社がどのように成長し、どのような社会に貢献していけるのか、改めて考える必要があります。

創業者は日本中の隅々まで、くまなく「生命の恵み由来のたんぱく質」を供給するために事業や拠点を拡大し、ハム・ソーセージから食肉や加工食品、最終的にはチーズ・ヨーグルトまで商品の幅と事業の領域を広げました。想いをカタチにして、人々にたんぱく質を供給し続けてきた持続力・総合力が今の私たちの礎であり、価値基盤であると私は考えます。

2030年のありたい姿として策定した「Vision2030」“たんぱく質を、もっと自由に。”は、ステークホルダーの皆様に向けた企業メッセージでもあります。このビジョンには、多彩な商品・事業を展開してきた価値基盤を受け継ぎ、もっと自由な発想で、もっと自由なカタチで、もっと多くの人々に、必要なたんぱく質を提供している企業になりたいという想いを込めています。

Vision2030の実現に向けて策定する次期中期経営計画では、環境が激変する予測不可能な時代の中で、自らの社会における存在意義を再確認するとともに、私たちが何をすべきなのかを明確にしていきたいと考えています。そして、その目指す姿に向けて、変革に取り組んでいきます。

抜本的な変革の肝は、繰り返しになりますが、全社視点で経営を一体化することです。現在は、社長である私、各事業部門、コーポレート部門が密にコミュニケーションを取って、将来のあるべき姿や短期・中期の方針を検討し、決めたことはすぐさま事業運営に反映させていく体制へと移行しています。今後は、事業戦略の具体化に取り組むとともに、実行力を高めるため、従業員一人ひとりに理解・納得してもらうための浸透活動にも取り組んでまいります。

最後になりましたが、「逆境こそ、わが道なり」の精神を持って、企業理念の実現に向け、危機的状況にある当社グループを再生する改革を全力で実行します。ステークホルダーの皆様には、引き続きご支援をお願い申し上げます。