ニュースリリース 2022年

鶏卵アレルギーの発症を予防し、
炎症皮膚からの発症リスクを低減した卵白分解物を発見
~安全性の高い食物アレルギー予防法の確立に期待~

2022年4月27日
日本ハム株式会社
国立成育医療研究センター

<一部訂正について>
本リリースの本文におきまして、以下のとおり一部訂正させていただきました。

(訂正前)「食品加工用のたんぱく分解酵素で分解した卵白は未分解の卵白より安全であり~」

(訂正後)「食品加工用のたんぱく分解酵素で分解した卵白は、鶏卵アレルギーモデルマウスに投与した場合に未分解の卵白より症状が誘発されにくく~」

日本ハム株式会社(本社:大阪市北区、代表取締役社長:畑 佳秀)、国立成育医療研究センター研究所(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐 隆)の免疫アレルギー・感染研究部 松本 健治部長、および、高知大学医学部小児思春期医学教室(所在地:高知県南国市、藤枝 幹也教授)らは、マウスを使った共同研究により、食品加工用のたんぱく分解酵素で分解した卵白は、鶏卵アレルギーモデルマウスに投与した場合に未分解の卵白より症状が誘発されにくく、かつ未分解の卵白と同等の鶏卵アレルギー発症予防効果を持つことを明らかにしました。

この卵白分解物は、既に鶏卵アレルギーを発症しているマウスに投与しても未分解の卵白に比べてアレルギー症状を起こしにくく、さらに皮膚から体内に侵入してもアレルギー症状を引き起こす原因となるIgE抗体を作りにくいといった特長があることを明らかにしました。今後、より安全性の高い食物アレルギー予防法の確立に貢献するものと期待されます。
なお、本研究成果は、2022年4月18日に国際学術雑誌「Allergology International」にてオンライン公開されました。

1. 背景

・近年の研究から、食物を摂取することにより経口免疫寛容が誘導されて食物アレルギーになりにくくなることが明らかになっています。一方で、皮膚(特にアトピー性皮膚炎や湿疹部位)に食物が曝露することによって食物に対するIgE抗体が作られ、食物アレルギーになりやすくなることも分かっています。
・実際に国立成育医療研究センターでは、2016年にアトピー性皮膚炎の乳児に対して皮膚の炎症を十分に治療した上で、加熱した鶏卵を少しずつ食べさせることによって、鶏卵アレルギーの発症率を79%減少させることに成功しています。
・その一方で、既に離乳時期に鶏卵アレルギーを発症している乳児の場合、通常の鶏卵(卵白)を食べることによってアレルギー症状を引き起こしてしまうリスクがあります。また、炎症皮膚(湿疹)の治療が十分でない場合には、鶏卵を食べる際に食物アレルゲンが皮膚から侵入して、新たに鶏卵アレルギーを発症するリスクも考えられます。
・こうした課題に対して、より安全な予防法の確立が求められていました。

2. 研究成果の概要

・本研究では、卵白を食品加工用のたんぱく質分解酵素で加水分解することにより様々な卵白分解物を作製し、それらを動物モデル(マウス)を用いて検証しました。すると、(1)離乳時期のマウスに経口投与することで、鶏卵アレルギーの発症を抑制する卵白分解物を見出しました(図1)。
・さらに検証を進めた結果、(2)既に鶏卵アレルギーを発症しているマウスに投与しても、分解前の卵白に比べてアレルギー症状を引き起こしにくく(図2)、(3)炎症を人為的に引き起こした皮膚に貼付しても、IgE抗体を産生しにくい(図3)ことを確認しました。
・最終的に、上記(1)~(3)の3つの要素が揃った卵白分解物2種を同定しました。
・これまでにも、アレルゲンを酵素で加水分解するとアレルギー症状の低減効果があることは知られていましたが、アレルギーの発症を予防し、かつ炎症皮膚から侵入しても感作されにくい卵白分解物を明らかにしたのは本研究成果が初めてです。
・今回発見した卵白分解物は、より安全性の高い食物アレルギー予防法の確立に繋がる可能性があります。

(図解説)
図1 経口免疫寛容誘導試験:若齢期のマウスに鶏卵アレルギーを発症する処置を行うと、卵白のアレルゲンであるオボアルブミン(OVA)に結合するIgE抗体(OVA-特異的IgE)が体内で産生された(コントロール(※))。一方で、離乳時期のマウスに、卵白を酵素分解した卵白分解物 1および2 を、10日間経口投与しておくと、その後の若齢期に鶏卵アレルギーになる処置を行っても、IgE抗体の産生が抑えられ、アレルギーの発症を予防した。(コントロール(※):離乳時期に水のみを経口投与し、その後、他のマウスと同様にアレルギーになる処置を行うことで、鶏卵アレルギーを発症したマウス)
図2 アナフィラキシー誘発試験:既に卵白のアレルゲンに感作されているマウス(鶏卵アレルギーモデルマウス)に、分解前の卵白を腹腔内に投与すると、アナフィラキシー症状(投与30分後に体温が低下)が誘発されたが、卵白分解物1および2を腹腔内に投与しても、アナフィラキシー症状は確認されなかった。
図3 経皮感作試験:分解前の卵白を、炎症を人為的に引き起こしたマウスの皮膚に3日間貼付し飼育した。皮膚炎症誘発と貼付を1週間おきに3回繰り返した結果、OVAに結合するIgE抗体が産生され鶏卵アレルギーを発症した。一方、分解前の卵白の代わりに卵白分解物1および2を貼付したマウスでは、卵白よりもIgE抗体の産生が抑えられた。

(用語解説)
アレルゲン:アレルギーを引き起こす原因物質。鶏卵のアレルゲンとして、オボアルブミン(OVA)、オボムコイド(OVM)などのたんぱく質が知られている。
アナフィラキシー:アレルゲンが体内に侵入し、全身にアレルギー症状が引き起こされる過敏反応。
IgE抗体:体内でアレルゲンと結合し、アレルギー症状を引き起こす物質。
感作:アレルゲンの侵入により、体内にIgE抗体が産生されている状態のこと。
経口免疫寛容:食べたものに対して過剰なアレルギー反応を起こさないようにする仕組み。食物アレルゲンを症状が出ない程度に少しずつ摂取を続けることで経口免疫寛容が誘導される場合がある。
経皮感作:湿疹などの炎症のある皮膚から、アレルゲンが体内に侵入し、免疫細胞と反応して、感作されてしまうこと。

3. 今後の展望・発表者のコメント

【日本ハム株式会社 中央研究所 マネージャー 長谷川隆則】
本研究成果は、食物アレルギー発症前の新たな予防方法の可能性を示唆するとともに、研究を発展させることで、お子様の成長過程のより早期における、食を通じた健康づくりに貢献できるものと期待されます(※1)。今後も研究開発を通じて、食物アレルギーをお持ちの方も、そうでない方も、安全安心に「食べる喜び」を享受できる社会の実現を目指してまいります。

※1 今回動物モデル(マウス)を用いた検証で同定した卵白分解物を、ヒトの乳幼児の鶏卵アレルギー発症予防方法に応用するためには、安全性や有効性を確認するいくつかの検討(臨床試験)が必要です。引き続き、食物アレルギーを専門とする小児科の医師と協力して研究を推進してまいります。

【国立成育医療研究センター 免疫アレルギー・感染研究部 松本健治部長】
これまでの基礎研究や臨床研究の結果、食物アレルギーの発症予防には湿疹の予防・適切な治療と、乳幼児期からの食品の摂取が重要であることが分かってきていました。しかし、諸外国の介入研究(乳児を対象として、乾燥鶏卵粉末を食べさせる)では、初回の投与時に既にIgE抗体を獲得している児がアレルギー症状を呈することが問題となっていました。本研究成果は食物アレルギー発症の新たな予防方法の可能性を示唆するとともに、他の食品にも応用可能な技術であると考えております。一方、動物モデル(マウス)を用いた検証で同定した卵白分解物を、ヒトの乳幼児の鶏卵アレルギー発症予防に応用するためには、安全性や有効性を確認するいくつかの検討(臨床試験)が必要です。引き続き、食物アレルギーを専門とする小児科医らと協力して研究を推進してまいります。

4. 発表論文情報

タイトル:
Protease-digested egg-white products induce oral tolerance in mice but elicit little IgE production upon epicutaneous exposure
著者:
Ayako Yamada a,b, Takanori Hasegawa b, Mikiya Fujieda c, Hideaki Morita a,d, Kenji Matsumoto a
所属:
a) Department of Allergy and Clinical Immunology, National Research Institute for Child Health and Development, Tokyo, b) R&D Center, NH Foods Ltd., Ibaraki, c) Department of Pediatrics, Kochi Medical School, Kochi University, Kochi, d Allergy Center, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan
掲載誌:
Allergology International
DOI:https://doi.org/10.1016/j.alit.2022.03.006

【日本ハム株式会社】

ニッポンハムグループでは全ての人に「食べる喜び」をお届けするという企業理念の下、これまで食物アレルギーをお持ちの方にも安心して食べていただける食物アレルギー対応商品や、商品への食物アレルゲンの混入を検査するキットの開発など、食物アレルギーに対する研究開発に1996年から取り組んできました。
そして2021年3月に、当社グループとして2030年のありたい姿を描いた「Vision2030」を策定し、そのビジョン実現に向け優先的に取り組む社会課題の一つの施策として『食物アレルギーへの取り組み』を掲げました。今後も食物アレルギーをお持ちの方やそのご家族に寄り添い、食事を中心とした商品・サービスの提供を通してQOL向上に努めてまいります。

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【国立研究開発法人 国立成育医療研究センター】

2002年に国立大蔵病院と国立小児病院を統合して開設されました。胎児にはじまり、新生児、乳児、幼児、学童、思春期、大人へと成長・発達し、次の世代を育む過程を、総合的かつ継続的に診る医療=「成育医療」を行っています。病院と研究所が一体となり、健全な次世代を育成するための医療と研究を推進し、社会提言することを理念としています。
研究所は、受精からヒトとして成長する過程までの疾患成立のメカニズムの解明と、診療・治療法の開発を行っています。
一方、病院は日本で最大規模の小児・周産期・産科・母性医療を専門としています。(病床数:490床、外来(一日平均)約1000名)
国レベルでの高度な医療を築いていく中心的な存在である国立高度専門医療研究センターとして、先進的で安全・安心な医療を社会に提供します。

※ニュースリリース掲載時点の情報となります。今後、変更となる場合もありますのでご了承ください。