トップメッセージ

挑戦

予測困難で激変する環境下においても、「Vision2030」の実現に向けて弛まぬ挑戦を続けます。

代表取締役社長畑 佳秀

Q. 80周年を迎え、改めて未来に向けての想いをお聞かせください。

未曽有の環境変化の中での挑戦

当社グループは2022年3月に創業80周年を迎えました。振り返りますと、逆境や危機を挑戦によって乗り越えてきた歴史といえましょう。世界が、社会が、大きく変化する時代のテーマはサステナビリティです。事業を通じて社会課題・環境課題を解決していくことが、皆様から選ばれ、支持される企業グループにつながると認識しています。人が生きていくうえで欠かせない「食」に関わる企業として、当社グループは企業理念である「食べる喜び」をお届けし続けるために、2030年のありたい姿として「Vision2030」を策定しました。“たんぱく質を、もっと自由に。”を企業メッセージとして、変革のための挑戦を続けています。これを実現した先に「持続可能な企業体」があると考えています。だからこそ、今後も「Vision2030」“たんぱく質を、もっと自由に。”の発信と浸透を図ります。

一方で、これから先も歩みを進め、成長していくために決して忘れてはならないことがあります。それは、2002年に起こした牛肉偽装事件です。あれから20年が経ち、会社存亡の危機に瀕したこの事件を知る役員・従業員も今では2 割ほどになりました。未来への挑戦を実りあるものにするためにも、過去の教訓をしっかり伝えていかなければならないと考えています。皆様からの信頼を二度と裏切らないために、当社グループは「高次元の品質No.1経営」と「コーポレート・ガバナンス」を経営の礎とし、商品の品質のみならず、コンプライアンスも含めた体制強化を図ってまいります。

2021年度はコロナ禍に加え、ウクライナ危機が生じ、食糧生産や調達問題が顕在化しました。人口増加や気候変動による将来の食糧不足、たんぱく質不足は以前から予想されている問題ではありますが、食のインフラを担う企業グループとして、食の安定調達・安定供給の重要性を再認識しました。畜産を支える穀物の生産量はロシアが世界4位、ウクライナが9位であり、本格的な影響はこれから出てくるでしょう。皆様の食を守るためにも、さらなる調達力の強化に努めます。

取り巻く環境の厳しさから「Vision2030」実現への道のりも険しいものになると覚悟していますが、グループの全員が自己研鑽して目指す姿に向かっていくことで、企業理念にもあるように「人生を託せる生き甲斐を求める場」に成り得ると考えています。この大きな挑戦をやり遂げる所存です。

ニッポンハムグループの理念とビジョン

Q. 新たなスタートを切った2021年度、注力したことをお聞かせください。

社内浸透と、理解・共感を得るための対話に注力

2021年に「Vision2030」“たんぱく質を、もっと自由に。”と、「中期経営計画2023・2026」「5つのマテリアリティ」を発表後、私は従業員をはじめとするさまざまなステークホルダーの皆様と対話を重ねてきました。そうした対話を通じて感じたことは、投資家やビジネスパートナーの方々には当社グループの方向性や施策をご理解いただけている一方で、消費者の皆様には、まだまだ情報発信が足りないということです。選ばれる企業になるためには、たんぱく質クライシスはもとより、社会や環境課題を解決し、多様な食生活と健康を支えていく取り組みに共感していただくことが重要です。今後、さまざまな機会を通じて情報発信を強化していきたいと考えています。

従業員との対話でも共感と浸透を大切にしています。マテリアリティにある「従業員の成長と多様性の尊重」は「Vision2030」や目標達成と直結しているからです。2021年度中に22回のタウンミーティングを開催し、全国の従業員に「事業を通じて何を成し遂げていくのか」「どのような組織、会社、職場でありたいのか」、その背景や想いを伝え、意見交換をしました。毎回10 名前後の従業員と対話するのですが、一人ひとりの自由な意見・考えを直接聞くことはとても有意義でした。タウンミーティングは今後も続ける予定です。

また、「Vision2030」実現に向けて新しい制度づくりも進めました。“たんぱく質を、もっと自由に。”を具体化するには、自由に発想し、挑戦することが不可欠です。そのため、目標管理制度の中にチャレンジ項目を織り込んだほか、商品開発のアイデアを募集する「開発甲子園」、新規事業に資するアイデア提案制度、「Vision2030」実現に貢献した事例を表彰する制度を設けました。

Q. 「中期経営計画2023」の手応え、課題をお聞かせください。

初年度は、ほぼ計画通りに着地
今後は、より柔軟に、実行スピードを上げていく

2021年度は、原料価格の高騰や調達・生産コストが上昇する中で、価格改定、効率化施策、ブランド戦略、チャネル戦略を推進し、ほぼ計画通りの結果を収めることができました。連結売上高は、対前期比6.1%増の1兆1,743億8,900万円、事業利益は対前期比 8.2%減の481億1,600万円、税引前当期利益は対前期比 7.9%増の 513億6,600万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は対前期比47.3%増の480億 4,900万円、ROEは 10.5%、ROICは5.0%となりました。事業利益率は 3.9%と目標の 4.1%に届きませんでした。

この一年で我々を取り巻く環境は激変し、不確実性が増大しましたが、目指すべき目的や方向は変わりません。かつて経験したことのない外部環境の変化に対処しながら、戦略・戦術をより柔軟に立て、事業構造そのものの変革と収益性を高める実行スピードを加速させます。

当社グループは日本最大級のたんぱく質供給グループとして日本の食を支えています。今中期経営計画では、経営方針の一つ目に掲げる「収益性を伴ったサステナブルな事業モデルへのシフト」において、「食肉の調達力強化」を目指しているわけですが、これは短期的にも中長期的にも最重要課題になったと認識しています。特に輸入食肉につきましては、既存調達先との連携強化とともに、新規調達国・調達先の開拓に一層注力していかなければなりません。そして、収益性の追求には販売力の強化と生産体制の構造改革、加工事業における技術を活かした商品開発が不可欠です。2021年度は、機能別事業部制から畜種別のバリューチェーン事業部制へシフトすることで顧客ニーズへの対応力を高めたほか、より筋肉質にシフトするため、生産・加工拠点の集約化や再編に着手しました。食肉・加工事業の生産拠点は 2030年に向けて20%削減する予定です。日本フードパッカーグループの再編を進め、2022年 10 月を目途に四国の会社を日本フードパッカー(株)に吸収合併し、2023年3月には鹿児島の会社、2024年3月には津軽の会社の操業を終了します。これに伴って日本ピュアフード(株)の鹿児島工場の閉鎖も決定しました。2022年度からは新たな取り組みとして、“他社との共創”を開始します。機械メ―カー、飼料メーカー、IT 企業などと「共創ネットワーク」を構築し、この難局を乗り切っていきたいと考えています。

マリンフーズ(株)を総合商社の双日(株)に売却したことに関しまして、発表後に多くの質問をいただきました。同社は 2022年 3 月期に過去最高益を出したように、まだまだ成長できる会社です。当社としては、設備投資をはじめ、これまでかなりの経営資源を投下してきましたが、マリンフーズグループの今後の成長発展を考えますと養殖などの川上を強化していく必要があり、当社グループの最適ポートフォリオも勘案して決断しました。

経営方針の2つ目、海外事業につきましては、海外食肉事業において豪州でグレインフェッドをはじめとしたプレミアムグラス等でブランド牛肉の販売強化を図るほか、ウルグアイでも付加価値の高い牛肉のブランディングを展開します。また、相場を的確に捉えた最適生産体制へと変革します。加工事業では北米での展開を拡大します。ロサンゼルスに本社があるデイリーフーズでは、主力商品である鶏肉加工品「マンダリンオレンジチキン」の生産能力拡大を図り、植物性たんぱくをベースとする商品開発を進めるとともにR&D部署を新設し、日本で培った加工品ノウハウを活用します。また、すでに発売しているグルテンフリーの米粉パンへの需要拡大にも対応します。

経営方針の3つ目、新たな商品・サービスによる新しい価値の提供では、「ウエルネス事業」と「エンタメ事業」を計画通りスタートさせることができました。ウエルネス事業ではアレルギーの総合プラットフォームとして「Table for All」サイトを、エンタメ事業では新しい食体験・食の価値を提供する「Meatful」サイトを立ち上げました。「Meatful」は先ほど紹介したアイデア提案制度から生まれたものでもあります。これまでマスマーケットで事業を展開してきた当社グループにとって、「Table for All」と「Meatful」は消費者と直接接することができる新たなチャネルです。D2C の裾野拡大に活かしていきたいと考えています。「エシカル事業」は 2022年度から準備を進めます。これらの新規事業は、球団事業、中央研究所で取り組んでいるヘルスサポート事業と合わせて、「球団・その他」セグメントとしており、今後事業利益を追求します。

経営方針4つ目、DXにつきましては、基幹システムの再構築とデジタル技術の活用により、最適なオぺレーションの実現と、新たなビジネスの創出および経営の高度化を目指しています。これまで経験に頼っていた需給調整や生産調整への AI 活用では手応えを得ており、畜産農家の課題解決にもAI は有効であると感じています。2021年度は「スマート養豚」のノウハウのパッケージ化に着手し、「PIG LABO(ピッグラボ)」として商標登録も済ませました。当社グループのビジネス変革にもつながるものとして期待しています。

部門横断推進戦略につきましては、物流で大きな改善の余地があります。全社視点で見ると合理化できることが多く、働き方改革関連法の施行に伴い、物流業界で生じる2024年問題への対処も見据えて着実に個々の施策を推進しています。

当社グループは引き続き構造改革を進めつつ、既存事業における新たな領域拡大、海外事業における加工事業の拡大、新規事業の推進など、成長戦略を力強く進めてまいります。

「中期経営計画2023・2026」の見通し

「中期経営計画2023」の3つの戦略と4つの経営方針

Q. マテリアリティの進捗、課題をお聞かせください。

困難な課題とも向き合い、着実に前へ

マテリアリティは5つとも、着実に進んでいます。

従業員に関するマテリアリティにつきましては、先に述べた通り、多様性を尊重しながら、一人ひとりの挑戦を適切に評価していくことで働き甲斐を向上させていきます。失敗を恐れず挑戦できる風土は、人も組織も成長させるものと信じています。

一方、タレントマネジメントにおけるスキルの多様性には課題があります。特に、デジタル人財と海外人財の育成・活用は急務だと考えています。女性活躍に関しては、当社単体では数値上は改善が見られるものの、グループ全体で取り組む必要があると認識しています。人的資本投資につきましては、成果・効果につながる有用な施策を進め、それらの評価も丁寧に実施します。

「たんぱく質の安定調達・供給」に向けた施策においては、アニマルウェルフェア対応が前進しました。2021年度にポリシーとガイドラインを策定したほか、2030年までに豚の妊娠ストール廃止を決定しました。

「食の多様化と健康への対応」では、2021年9月に開催された「東京栄養サミット2021」でもコミットメントした超高齢社会における健康寿命延伸に資する商品として、認知機能に関わる特許取得成分を配合した機能性表示食品「IMIDEA(イミディア)」を発売しました。このほか、2022年6月には、たんぱく質不足による運動機能の低下防止に役立てていただこうと、業務用で培ったノウハウを活かした美味しい「やわらかサーロインステーキ」を発売しました。アレルギー対応につきましては、新規事業で紹介した「Table for All」に、食物アレルギー管理栄養士による無料相談窓口も完備しました。課題をお持ちの方々をトータルで支えるサイトとして育てていきます。

「持続可能な地球環境への貢献」では気候変動への対応がとりわけ重要だと考えています。日本では45年間のうちに集中豪雨が2.2倍になりました。当社グル ープでは、2030年に国内事業所における化石燃料由来の CO2排出量を46%削減するという目標を掲げ、カーボンニュートラルに向けた施策を展開していますが、当社グループならではの課題として「畜産からの温室効果ガス排出量削減」が挙げられます。世界のCO2排出量の約14%は畜産業から排出されており、家畜由来のメタン問題にも対処していかなければなりません。メタンは温室効果がCO2の25倍にのぼります。特に牛から出るメタンの抑制は大きな問題と認識されており、現在、日本・オーストラリアで、さまざまな機関や大学とともに餌の改良に取り組んでいるほか、排出されたメタン回収装置の研究も進めています。豚に関しても産学連携で研究を開始しています。こうした対応策も含め、2022年5月13日にTCFD 提言に基づく情報を開示しました。1.5°C/2°Cと4°Cシナリオでシミュレーションし、対応策を確実に実施します。また、2021年度は「シャウエッセン®」の包装形態を見直し、使用するプラスチックを28%、CO2排出量を30%削減することに成功しました。この包装形態変更は業界全体を牽引する取り組みとなりました。

「食やスポーツを通じた地域・社会との共創共栄」では、「北海道ボールパークFビレッジ」の開業まで1年を切りました。さまざまなステークホルダーと共創共栄しながら、これまでにない価値を提供していきたいと考えています。

「東京栄養サミット2021」での発表の様子
Q. ステークホルダーへのメッセージをお願いします。

食品企業としての使命を果たすため、新たな価値をつくるために、自由な発想で挑み続ける

2022年3月期からスタートした「中期経営計画2023・2026」は、前中計での課題や外部環境の変化を踏まえ、6カ年を見据えた計画です。KPIマネジメントとDXをコアに既存事業の構造改革と強化を進め、ROICをもとに最適な事業ポートフォリオを追求します。事業戦略とマテリアリティを一体化させて取り組むことで、社会課題解決と当社グループの成長・発展を実現し、企業価値最大化を目指してまいります。

私はこの逆境下においてニッポンハムグループの粘り強さを幾度となく実感しました。全員が力を合わせ、社外との共創にも取り組みながら、食品企業としての使命を果たし、新たな価値をつくるために、自由な発想で挑戦していくことを改めて宣言します。

株主・投資家の皆様におかれましては、ニッポンハムグループの挑戦に期待していただくとともに、変わらぬご支援のほどよろしくお願い申し上げます。

代表取締役社長
畑 佳秀