ステークホルダー・ダイアログ

マテリアリティの妥当性評価

ニッポンハムグループのマテリアリティ(重要課題)選定にあたり、社外有識者の方々と代表取締役社長 畑とのトップダイアログを実施しました。今回は、ESG投資の観点から吉高まり氏と、長年にわたり日本国内のSDGsをけん引し、ご自身も経営トップのご経験がある有馬利男氏をお招きしました。

実施日 2020年11月16日(月)
場所 日本ハム(株)東京支社
参加者 一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事 有馬 利男氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 吉高 まり氏
代表取締役社長 畑 佳秀
取締役常務執行役員 宮階 定憲
社外取締役 河野 康子
ファシリテーター 株式会社クレアン 薗田 綾子氏
  • 所属および役職等は、開催日のものです。

経営と統合したマテリアリティ策定のねらい

薗田氏:今回、4年ぶりとなるマテリアリティ見直しのねらいはどんなところでしょうか?

畑:前回(2016年)策定したマテリアリティでは、実効性が弱いなどの反省点がありました。またSDGs、ESGをはじめとして、世の中の流れもこの3年で大きく変動しましたので、もう一度、ニッポンハムグループがどのように社会からの期待に応えていくべきか考える必要性を強く感じており、社員の声を聴く場も作りました。さらに今回はビジョンと、中期経営計画の策定を同時に進めることで、より経営戦略とサステナビリティ戦略が一体化するマテリアリティを作りたいと考えています。

【畑 佳秀 氏】

代表取締役社長

吉高氏:リーマンショック以降、2010年ごろから、長期的な企業リスクと成長性を評価するために、財務だけでなく非財務分野である環境(E)や、社会(S)、ガバナンス(G)にも投資家が注目するようになりました。大切なのはESGの要素を盛り込んだマテリアリティが中長期的な事業戦略とどう連動するかを、企業成長ストーリーとして説明できることです。

薗田氏:マテリアリティを策定するプロセスでも、策定後の実効性を重視して社内で丁寧に議論されていますね。

宮階:議論の場としては、従来のサステナビリティ委員会(議長:畑)という役員中心の会議体がありましたが、その下にES部会という、13部署からなる組織横断的な会議を新たに立ち上げました。他の部門がどういう課題を持っているのか、どういう取り組みをしているかということをお互いが共有する場にもなっています。ここで延べ20時間の議論を経て最終的には取締役会で承認します。

有馬氏:世の中の新しい価値観を取り込んで、経営者が新しいビジネスモデルを作っていくんだという覚悟が必要です。マテリアリティの議論を通じて、新しいビジネス領域が出てくるといいな、との期待を持っています。

未来の企業価値を高める「ビジョン」との連動

薗田氏:マテリアリティと連動して、2030年の「ありたい姿」と事業戦略までを結び付けて策定される意図はどんなところにあるのでしょうか?

畑:ニッポンハムグループの企業理念「食べる喜び」の実現に向けたマイルストーンとして、2030年という10年先の時点を睨んだ「ありたい姿」を構築しようとしています。ビジョンを作り、マテリアリティと事業戦略とをつなげることで、2030年に、私たちニッポンハムグループが社会に対して何を提供していくのか、財務・非財務の価値を高める取り組みを両輪とする狙いがあります。

吉高氏:従来型のフォアキャストと、2030年からのバックキャストの両方を社外に向けてご説明できるのは非常に良いことです。日本ハムの良さをブレずに力強く発信していただきたいと思います。

【吉高 まり 氏】

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

マテリアリティの候補について

薗田氏:ここからは、マテリアリティ候補となっている個別のテーマに対して、有識者の方々から率直なご意見をいただきたいと思います。

●たんぱく質
吉高氏:投資家としては、会社名を隠してマテリアリティだけを見て『どこの会社だ』と分かるようにしていただきたい。そうでないと投資家は業界内で比較が困難です。食を通じての「たんぱく質」には御社らしさを感じますし、動物福祉や気候変動対策が候補に上がっている点も評価できます。

畑:国内で出回っているテーブルミートと言われる鶏・豚・牛の流通量は年間500万トンで、ニッポンハムグループの取り扱い量はそのうちの20%~21%程度です。言ってみれば5回に1回はどこかで我々が扱っている商品を召し上がっていただいているということです。その事実をしっかりと訴求していきたいと考えています。

●環境
吉高氏:日本企業の多くは温室効果削減の議論に軸足があるのですが、もう少し具体的な情報が欲しいところです。例えば御社の工場がどこにあって、台風が来たらどれぐらい耐えうるのか、想定外の異常気象が来た場合はどうか、物流は大丈夫かというのをご説明いただきたいですね。気候変動を災害や防災と別に考えるのではなく、会社全体の長期的なBCPとして捉え、地球規模の被害という観点から、リスクと、そのリスクをどう回避するかという観点からの強靭性についてのストーリー、戦略が必要です。

畑:気候変動に対する取り組みを先行的に推進し、投資することの腹決めが必要だと感じます。

●従業員
有馬氏:会社の中には多数の部署があるため、会社が今どんな状態なのか、どんな課題がありリスクがあるのか、それに対してどれだけ自分たちが気にしながら一生懸命やっているかというのが分かりづらい。もっとお互い分かり合えるような場が作れると良いと思います。

畑:会社の方針に対して、自分はこうありたい、こうしたいというような、自立的、自主的に行動を起こせる風土を醸成したいと考えています。会社のビジョンや方向性と個人の目標とが一致することで共感を生み出したい、そのために、私が各拠点の従業員とも直接対話するようなタウンミーティングを計画しています。

【有馬 利男 氏】

一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事

●人権
有馬氏:私が代表理事を務めているグローバル・コンパクトでは、企業の方々が分科会を通じて情報交換や勉強会をされています。実は人権をテーマとした分科会は、ESG分科会に次いで二番目に参加者が多いんです。それだけ人権について企業の関心が高いということです。

畑:ニッポンハムグループでも外国人技能実習生の方々が活躍されています。ニッポンハムグループの中で技術を高めていただけるよう、より多くの機会の創出が必要です。例えば、ベトナムから来られた方に当社で学んでいただき、帰国後は当社グループのベトナム法人でご活躍していただけるような機会があれば良いと考えています。

●スポーツ
有馬氏:若い世代、子どもたちが北海道日本ハムファイターズを応援して育つということはすごく良いですね。野球人気の根強さを感じますし、その拠点であるボールパークを持つことは価値があることだと思います。

吉高氏:新たなボールパークを様々なテクノロジーのプラットフォームにして消費傾向や嗜好データを取ってDXと繋げると、投資家にはストーリーとしての訴求になると思います。世界の色々なスタジアムをテクノロジーで繋げるというような事例も出て来ています。

共通言語としてのSDGs

薗田氏:今回のマテリアリティは、テーマごとにSDGsとの関連性についても議論、検討されましたね。

畑:ニッポンハムグループの社員一人ひとりがSDGsを事業の推進と併せて、自分ごととして捉えてもらいたいと考えています。

吉高氏:SDGsは、企業の取り組みがどのように持続可能なゴールに結びつくかを説明することができる便利な共通言語です。今は小中高でも教科書に記載されていますし、学校から「あなたの身近な人の仕事はSDGsとどんな関係がありますか」という宿題が出されています。先日就職セミナーで企業のSDGsの取組について講演をしたら、学生さんから「2030年以降はどうなんですか、その会社は」という率直な質問があって驚きました。「SDGsの観点で会社を選ぶ」時代なんですね。

有馬氏:ある企業で、自分がやっている仕事は、注文主からの「いつまでにこれをやってくれ」という請負仕事のような感覚になりがちだという話を聞きました。しかし、その仕事の内容をSDGsときちんと繋げて分かるようにしたことで、自分たちはこういう社会課題解決のためにやっているんだ、と認識してモチベーションが上がったそうです。

畑:自分の仕事を社会課題の解決と結びつけて説明できて、家族に褒められたら嬉しいですね。頂いたアイディアを活かしてSDGsを共通言語として社内浸透を推進していきたいと思います。

【河野 康子 氏】

社外取締役

今後に向けた期待

薗田氏:それでは最後に、有識者の方々から日本ハムへの期待や応援メッセージをお願いできますでしょうか?

有馬氏:社長自ら我々社外からのコメントを先頭に立って受けていただくという現場に参加させていただき本当にありがとうございました。人権については、海外で問題が発生した際に、NGOや外部ステークホルダーへの説明として人権方針があることで説明がしやすかった、という事例があります。できるだけ早く進められたほうがいいと思います。(註:このダイアログ後、人権方針を策定しHPにて公開しました。)

吉高氏:米国では短期投資家でさえも気候変動と言うようになってきました。今後は海外マーケット向けにも、食品業界として日本企業としての価値の発信を期待しています。とても良いアピール材料を持っていらっしゃるのに、あまり積極的に外部発信されないのはもったいないことです。ぜひ社長にもっとこれからも発信していただきたいです。

薗田氏:ありがとうございました。有識者の方々からの期待を受けて、日本ハムからも一言ずつお願いします。

河野:今回マテリアリティを見定めて、それを商品、サービス、さらには情報発信という形で社会にアピールすべきだと思いました。消費者は見えない価値は気付きにくいので、見える化をしてしっかりと社会に価値を説明したいと思います。一方でマテリアリティの社内発信については、カタカナ言葉を翻訳したり、より分かりやすい言葉に置き換えて浸透を図ることが大切だと思いました。

宮階:ストーリーで語る大切さを改めて実感しました。経営層が、しっかりとストーリーを考えて社会や従業員に示せるように、頑張っていきたいです。

畑:冒頭に申し上げましたように、今回はマテリアリティの実効性、実行力を高めていきたいと思っています。社員一人ひとりに自分事として捉えてもらえるよう、しっかり魂の入ったものにしていかないといけないと改めて感じました。またこうした社外の皆様との対話を継続したいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

【宮階 定憲 氏】

取締役常務執行役員

畑:冒頭に申し上げましたように、今回はマテリアリティの実効性、実行力を高めていきたいと思っています。社員一人ひとりに自分事として捉えてもらえるよう、しっかり魂の入ったものにしていかないといけないと改めて感じました。またこうした社外の皆様との対話を継続したいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

【薗田 綾子 氏】

株式会社クレアン