ステークホルダー・ダイアログ

将来世代の食の確保

ニッポンハムグループでは、「CSRの5つの重要課題※」の一つに「将来世代の食の確保」を掲げています。この課題解決に向けて当社グループが取り組むべきことは何か、その糸口を探るため、宮崎大学農学部教授の川島氏とともに、当社グループの国内食肉生産の担当役員が意見交換を行いました。

※「CSRの5つの重要課題」は2021年度より「5つのマテリアリティ(重要課題)」に変更しています。

日時 2017年3月14日(火)
場所 日本ハム(株)東京支社
参加者 宮崎大学 農学部畜産草地科学科 教授 川島 知之氏
日本ハム(株)食肉事業本部 国内食肉生産事業部長 永井 賢一
日本ホワイトファーム(株)代表取締役社長 吉原 洋明
インターファーム(株)(現日本クリーンファーム(株))代表取締役社長 白根 淳一
日本フードパッカー(株)代表取締役社長 廣瀬 常樹

※所属および役職等は、開催日のものです。

はじめに

「将来世代の食の確保」のためには飼料の確保から

川島●畜産分野での「将来世代の食の確保」でまず大事なのは飼料です。授業の中で学生に「天候不順などにより野菜の価格は変動するのに肉の値段はなぜ変わらないのか」と質問することがあります。学生に考えてもらうことで、飼料の海外依存度の高さなど食肉生産の裏側を理解してもらいたいからです。日本の飼料の輸入先がここ数年で変わり、エコフィード(食品残(ざん)さ飼料)や飼料米など、さまざまな視点から飼料の調達を考える必要があります。

永井●飼料は海外依存度が高いため価格変動のリスクが大きく、事業のリスクにつながります。以前、エコフィードの活用に挑戦したことがありましたが、人口が少ない地方では食品残さが集まりにくいという問題があり、断念した経緯があります。しかしながら、環境にも配慮するとエコフィードの利用は大きな課題であると考えています。

川島●確かにエコフィードは都市部と地方で状況が大きく異なります。都市部では家畜よりも人口が多く、反対に地方では家畜の数が多くなる場合があり、人口が少ない地方での食品残さの確保は簡単ではありません。小売店や外食店などの食品残さだけでなく、農作物の生産段階や食品加工の製造段階で発生する食品残さなどの活用が必要となります。例えば、さつまいもやばれいしょの産地では、規格外の作物がたくさんあるので、これらを上手く活用する仕組みを作れないかと考えています。また、エコフィードは世界的にみても日本の取り組みが最先端です。畜産業が発展しつつある途上国に日本のこの技術を持っていくことも「将来世代の食の確保」に向けた重要な取り組みのひとつではないでしょうか。

白根●飼料の国内自給率向上のためにも飼料米を積極的に活用していきたいと考えています。しかし、農作物の季節性を考慮した備蓄体制など業界全体における対応の検討が必要です。

川島●最近は米の育種技術が進んでいます。また、温暖化の影響もあり、二期作ができる地域も広がっています。こうした現状を鑑みて、耕作放棄地などを活用し、飼料米を作る取り組みが必要ではないかと思います。
以前、大学の講義で、大規模な干ばつなどで海外から飼料が調達できなくなった時、日本で何ができるか議論したことがあります。飼料米の作付けや増産、大豆やばれいしょなどの生産、家畜の早期出荷などさまざまな案があがりました。こういった危機管理の議論は日本ではあまり行われていませんが、今後発生しないとは限りません。シミュレーションをしておくことが必要だと思います。

【川島 知之 氏】

宮崎大学
農学部畜産草地科学科
教授

人財育成について

機械化と技術の伝承の両面から取り組む

白根●豚の生産を行う当社では、豚舎の清掃に水洗ロボットを活用し、省力化の取り組みを推進しています。ロボットを使用しているところでは6~7割の作業はロボットにまかせ、最後の仕上げは従業員が担当しています。従業員の作業量が減るだけでなく、使用する水の量も削減することができます。

吉原●畜産の現場での機械化は難しいところがありますが、作業負荷を軽減するために機械化への取り組みをさらに進めていきたいと思います。一方で、機械化が進むほど技術が伝承されにくいという問題があり、機械化と技術の伝承の両面から取り組むことが重要です。鶏の生産や処理を行う当社では、新入社員にまず鶏一羽の処理について教えています。一カ月程の研修で技術の習得を目指しますが、会社に入って一つできることがあると自信につながると思います。目的を持って経験させ、技術の伝承と人材育成を進めていきたいと思います。

【吉原 洋明】

日本ホワイトファーム(株)
代表取締役社長

従事者の不足や人財育成が課題

吉原●生産・飼育施設では、従事者の不足や今後の畜産業を担う人財育成が課題となっており、生産の効率化や技術の向上が必要となっています。当社では直営農場のノウハウを生かし、契約農家の鶏舎の清掃作業を請負うことで、農家の労働負荷軽減に努めています。これにより農場の回転が上がり、鶏の生産効率が向上します。契約農家と当社が協働することで、安定調達を目指しています。

廣瀨●牛や豚の処理を行う当社では、マイスターと呼ばれる熟練のスタッフが、地域の農業高校に出張して、豚肉の部位別のさばき方などの技術を指導しています。日常生活でトレイパックに入った状態でお肉を見ている生徒は、高い関心を示します。今後も高校や大学と連携して将来の畜産を支える人財を育成したいと考えています。

【廣瀨 常樹】

日本フードパッカー(株)
代表取締役社長

川島●畜産を専攻する学生には、学んだことを十分に発揮し、畜産業を担ってほしいと期待しています。宮崎大学には、宮崎で畜産を勉強したいという高い意識をもった学生が多く入学します。実際に豚を育て、処理・加工して、お肉にするというサークルもあります。こういったやる気あふれる学生をしっかり育てていくことも将来の食を支えることにつながると思います。そのために大学と企業が協働し、人財育成を強化していきたいと思います。
また、途上国でも地方の農業の担い手が減ってきており、途上国での人財育成も課題です。ニッポンハムグループの農場でも外国の方が従事されているそうですが、そういった状況は今後さらに活発になると思います。また、こうした人財が自国に帰って活躍する場も出てくると思いますが、これは各国の畜産技術の向上につながります。日本だけでなく、世界の畜産業における人材育成や技術発展についてもニッポンハムグループに期待する役割の一つです。

地域の理解や連携について

農家とともに利益を出すための取り組み

白根●当社では、豚の排せつ物と地域の農家から提供いただいた麦わらを合わせて堆肥や肥料を作り、それを地域の農家に還元しています。廃棄物のリサイクル利用をはじめ、地域の皆様と連携することによって畜産業の持続的な発展に貢献していきたいと思います。

廣瀬●地域の農業に貢献したいと考える生産農家は飼料米やエコフィードの利用に積極的です。そういった農家から購入した牛や豚などを世の中に広めていくことが必要だと考えています。これは循環型農業にもつながり、畜産業のみならず農畜産業全体の発展につながるのではないでしょうか。業界全体で取り組むことで可能性は広がると思います。

白根●地域の農家の方へ豚や鶏の飼育を委託・預託する仕組みがあります。飼料の値段や出荷する豚や鶏の値段などの相場によるリスクがなくなり、農家の方には安定した収入が入るとともに、私どもも安定して豚や鶏を仕入れることが出来ます。これからも地域の農家の方と連携していきたいと思います。

【白根 淳一】

インターファーム(株)(現日本クリーンファーム(株))
代表取締役社長

疫病対策には情報共有が鍵となる

永井●地域の農家の方とさまざまな情報共有を行っています。最適な飼育環境や日齢・月齢に応じた問題点、さらに疾病やワクチンの情報など。例えば近くの農場で何かトラブルがあると、その問題点を素早く共有します。地域全体のレベルをさらに上げていこうと考えています。

吉原●特に、疾病対策については地域で連携し、情報共有による初期対応が鍵となります。今後も行政や地域の皆様との連携によりタイムリーに対応していきます。

【永井 賢一】

日本ハム(株)
食肉事業本部
国内食肉生産事業部長

今後に向けて

ニッポンハムグループへの期待

川島●畜産と環境の関係を考えることも重要な視点です。効率化やおいしいものを作る部分に集中しすぎると見えなくなってしまいます。国連食糧農業機関(FAO)より世界の温室効果ガスのうち畜産由来が約14.5%と発表され、この温室効果ガス削減に向けた検討が行われています。ニッポンハムグループでも温室効果ガス削減は積極的に取り組んでほしいテーマです。また、「JGAP※」の認証取得の検討などニッポンハムグループだからこそできる「将来世代の食の確保」に向けた取り組みを期待しています。

永井●畜産物の生産性を高めることも温室効果ガス排出削減につながるのではないでしょうか。畜産業と環境との関係という視点を社内で共有し、取り組みを進めていきたいと思います。

本日の議論をきっかけに、ニッポンハムグループの強みを活かし、グローバルな視点で「将来世代の食の確保」という課題に取り組んでいきます。

  • JGAP:Japan Good Agricultural Practice(日本の良い農業のやり方)の略。食の安全や環境保全に取り組む農場に対して第三者機関の審査により認証が与えられる制度。